リラお嬢様の瞬殺?
会場となるギルド闘技場内は断熱結界も相まって異常な熱気に包まれていました。
ギルドは回の字の様に建てられた特殊な建物。
北の入り口には商業ギルド、東の入り口には国際ギルド、南には一般ギルド、そして西には生産ギルドと分かれており、建物の真ん中には闘技場がある。
普段は鍛錬や、模擬戦などが行われているが、時には魔物闘技大会の予選なども行われ、観客席などもある。
ミーシア嬢がお連れになった見届け人は西側の観客席にとおされ、超満員。
かたや、リラお嬢様の見届け人の方は東側に案内され、ガラガラ、始まる前から温度差が激しい状況です。
「遅いぞ!」
「我々をいつまで待たせる気だ!」
「そうですわ! それがこれから授業を受ける者のする事かしら?!」
私とリラお嬢様、メアリーの3名が会場に入ると、早速西側から野次が飛び交い、闘技場で待つミーシア嬢も不快感を表しますが、リラお嬢様は気にも止めません。
「ルーク、貴方は観客席でさすらいの剣士さんと、さすらいの踊り子さんの所にね」
「わかりました」
「メアリーには悪いけど、ここに」
「はい!」
私はリラお嬢様の指示通り、ランス様、ティファ様のもとへ。
「ルーク様! こちらです」
ティファ様の声に気が付き、駆け寄ると闘技場内で動きがありました。
「生徒であるリラ・トゥカーナ様の遅れによりお待たせしておりましたが、ただ今より、ミーシア様による授業を開始させて頂きます。
進行は私、アデル・オースナーが務めさせて頂きます」
遂に始まりました、ミランに傷をおわせた兄、アデルの登場にリラお嬢様の顔が歪みます。
「尚、今回は特別にミーシア様を師と仰ぐ、生徒様にも参加して頂き……」
「ちょっと待って」
闘技場内にゾロゾロと十数名の若者が入場している中、リラお嬢様の声で会場が静まります。
「なにか? 授業内容はミーシア様に一任されているはずですが?」
アデルの言った事は正しい、授業内容に日時、ミーシア嬢側に一任したものは多い。
私もリラお嬢様へ進言申し上げましたが、ほとんど相手の要望をのみ、書類を作成しました。
——やはり、リラお嬢様にお任せしたのは失敗でしたか……。
そんな中、ティファ様が楽しげにボソッと言った言葉より状況は一転するのでした。
「ふふふっ、始まるわ」
「授業内容は一任しておりますが、もう結構、授業をするまでも無く不合格ですわ。
お集まりの皆様、今日は遠い所来てくださりありがとうございました。
不合格の理由としましては後日、書面にてお伝えさせて頂きます、それでは」
突然の事に会場は騒ぐ訳でもなく、騒めく訳でもなく、只々、無言。
異様な空気に包まれる中、会場を後にしようとしていたリラお嬢様に向かい、ミーシア嬢は激怒します。
「お待ちなさい! 不合格とはどう言う事です! 始まる前に不合格など聞いた事がありません、場合によっては多くの貴族様方を敵に回す事になりましてよ!」
ミーシア嬢の発言により、会場は怒りにも似た騒めきが起こり、野次を飛ばす者まで現れた。
皆の言っている事は私もわかります、試験を行う前に不合格などあってはならぬ事、それに多くの貴族の者たちは遠路遥々来た者も多い。
リラお嬢様の発言により、こう言う事態になる事は火を見るより明らか。
しかし、次の発言により、会場の空気が一変します。
「書面でと言うのは私の情けです。
そんな事もわからないとは……、脱帽です。
では今、それを言いましょう! 今は何時ですか? 約束の時間より遥か前に勝手に始める、進行役。
しかも、私が遅れ出来たかの様な発言。
開始時間はお伝えにならなかったのですか?
それともワザとかしら?
どちらにしても常識が足りなさすぎるのではなくて?
私は教養のある方と条件を出しましたが常識の無い者など論外!
ミーシア様、周りを見てご覧なさい、常識の無い者たちは別として、常識ある者たちは皆、冷ややかな目で貴女を見ていますよ。
時には常識に立ち向かう事もあるでしょう、しかし、それは常識を知った上での話、貴女の行いは、自身の家名に泥を塗っただけ、常識から学び直して来なさい!
人を教え導くなど100年早いわ!!
以上が不合格とした理由ですわ、おわかり頂けたかしら? では失礼」
リラお嬢様の迫力を前に、今まで騒いでいた者たちは一気に静まり、ミーシア嬢とアデルはその顔を真っ赤にし、恥ずかしさや怒りの感情と格闘していました。
これだけの大舞台での瞬殺……、見事と言うより、恐ろしさすら感じます。
「見事に瞬殺だな……」
私の言葉を代弁するかの様にランス様がボソッとつぶやきます。
正に瞬殺、今、会場に来ている者がリラお嬢様に何か言おうものなら、常識の無い者と言うレッテルが貼られかねません。
いつもながら見事!……、と思っていた時もありました。
「ランスお兄様はリラお姉様の事、全然わかっていませんね、今のは出鼻を挫いたに過ぎません、始まるのこれからですよ、ふふふっ」
!!
——で、出鼻を挫いたに過ぎない?! そ、そうだ、ティファ様のおっしゃる通りだ。
瞬殺?! あり得ません! 傷を負ったミランを見た時のリラお嬢様のお怒り……、こんなもので鎮まる訳が、鎮める訳がありません。
リラお嬢様は、西側の方に足を進めます。
西側にも出口がありますが、それから少し逸れると、主賓席に向かい頭を下げた。
——やはり……、何にやらかす気だ。
「早くからお越し頂いたのに、この様な結果になって申し訳ありません」
リラお嬢様は丁寧な口調で謝罪の言葉を述べた。
しかし、この場においてその言葉は逆にも取れる言葉。
彼らは2時間も前に到着していた、開始時間を知らなかった訳がない、当然、ミーシア嬢が描いたシナリオも知っていたのでしょう。
リラお嬢様の先程の言葉を直訳すると『2時間も前から準備していたのに、計画をぶち壊して、ごめんね、ごめんねぇ〜』と言った所でしょう。
しかし、リラお嬢様の嫌味を聞き取れた者は少なかった。
そして、おそらくリラお嬢様の嫌味を理解しているであろう、リラお嬢様のお祖父様、ミラ様の父上にして、クロイツ家のご当主、ジェイガン・クロイツ侯爵様がリラお嬢様に声をかけます。
「私はジェイガン・クロイツ、其方の祖父にあたる、会えた事、嬉しく思うぞリラ」
「お初にお目にかかります、リラ・トゥカーナでございます
私もお会いできて嬉しく思います」
リラお嬢様は可憐に、それでいて可愛らしく笑った。
読んで頂きありがとうございます。
次回投稿は11月26日(金)の予定です。
多くの皆様に読んで頂ける様、精進して参ります。
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