師匠と弟子
私の目の前には、昨日作成した指輪が5つ。
3つは純ミスリルで作られた魔法の指輪。
そしてもう2つはオリハルコンを混ぜ合わせ作られた魔法の指輪、どれも下級魔法の媒体としては問題はない。
オリハルコン入りの指輪は火、水、風、土の基本四属性の他に光、闇、無、全属性のマナ融合が可能で、融合比率最大は1:6、自身のマナ1に対して6の自然界のマナを吸収し融合する事が出来る、つまり7倍と言う事だ!
まあ、実際、7倍と言うのは大した事ではない……、1:9、10倍は欲しかった。
魔術とは違い魔法はイメージ力が物を言う、使うマナ量に属性、威力や射出スピード、様々な物事をイメージし放つ。
10のマナを使い、15のマナが必要な魔法を放とうとすると、不発に終わる。
10のマナを使い、5のマナが必要な魔法を放とうとすると、放つ事は出来るが威力、効果は激減してしまう。
しかし、それは下級魔法であるならばだ。
それが中級魔法、上級魔法あるならば、不発どころか暴発する事も少なくなく、威力、効果が激減するどころか発動する事すら叶わない。
魔法と言えど万能ではない、成功させる許容範囲狭く、マナを最大限活かす事はかなり難しい。
故に魔法を呼吸するか如く扱える者の事を賢者と呼んだ。
指輪の出来としては……、私なりに頑張ったのだが、完成したのを見ると、どうもしっくり来ない。
——素材ありきの出来になってしまったが、それはご愛嬌、下級魔法の媒体としては合格と言う事にしておこう。
そうそう、オリハルコン無しの方は……、基本四属性のマナ融合が可能で、融合比率は1:1……、オモチャ以下だ。
物が悪い訳では無く……、私の集中力が切れ、惰性で作ってしまったから……。
——まあ、腐っても純ミスリル、売れん事はないだろう。
◆◇◆◇
「リラお姉様、明日は戦場に向かわれるのですね、私も微力ながら応援に馳せ参じます!」
——ああ確か……、さすらい踊り子だったか。
「ティファ様、ご安心下さい。
リラ様の拳はまさに聖拳の如く、奴らなど一撃で粉砕されてしまうでしょう」
不敵な笑みを浮かべ、ティファに目線を送るメアリー。
「それもそうですわね、メアリーお姉様。
明日、彼の地は奴らの血で染まる事でしょう」
「「ふふふふっ」」
2人は不敵に笑う。
——ん? この子たちはどんどん馬鹿になって行くタイプかな?
授業だからね? それに奴らって……、あのババァ1人だし。
明日は試験当日、想定される事は多々あるが、見届け人のメンバーを見る限りゴリ押して来るのは明白、しかし、それも想定内、抜かりは無い!
それよりも今日は……。
「ティファ、メアリー、これを」
それは私が作ったオリハルコン入りの2つの指輪。
「コ、コレは!!」
ティファは指輪を見るや否や驚きに似た歓喜の表情を見せた。
そう、これは魔法の媒体、下級魔法に制限してある安全かつ実用性のある物である。
「はい! ティファ間違いありません! ではリラ様、遂に!!」
メアリーもまた歓喜の表情を見せる。
そう、遂に真なる魔法を教える時が来たのだ。
まずはマナ属性にあった魔法と回復魔法、ゆくゆくは他の属性や強化魔法を……。
——ん?
「や、やりました! メアリーお姉様! 遂に私たちの願いが!」
「は、はい、ティファ様! 遂に私たちがリラ様の弟子として認められました!」
——はい?
「師匠は弟子と認めた者に証を授けると言います、コレがリラお姉様の、いえ、リラ師匠の弟子の証! し、し、しかも! ミ、ミスリルではありませんか!!」
「ミ、ミ、ミスリルですか?! ミスリルの加工が出来る者など国に数人しか!
しかも、こんなにも小さな指輪に加工する事なんて!!」
——え? れ、錬成しただけの指輪なんだけど……。
「忙しい中、この様な物を用意していただけるなんて、感激です!」
「これで私たちはリラ様の弟子となれたと言う訳ですね」
——えっと……。
2人のキラキラした眼差しが私に向けられる。
——はい無理!
「ま、まあね、2人とも頑張ってるしね……」
「リラ師匠が教えてくださっている闘技の名は! 名は何というのでしょう!」
——え? 名?
ティファが目をギラギラさせ聞いて来るが、当然、名などある訳もなく……。
「と、特に無いかなぁ〜」
「それはいけません! リラ師匠の闘技はいずれ世界に轟く闘技! 絶対に名を付けるべきです!
でも安心して下さい、こんな事もあろうかと私とメアリーお姉様でいくつか用意してあります」
——よ、用意?!
安心と言う言葉が出た瞬間に不安しか無かったが、私の心配は的中する。
痛々しい名が次々とティファの口から出てきたのだ……。
そして……。
「ではでは、天をも超えると言う願いを込め、逆天、無双流と言うのはいかがでしょう!」
「必ず入る究極とか超とか無双とか、止めるつもりは……」
「当然ありません!」
——ですよねぇ〜、まあさっきのが一番マシではあるか……。
「じゃあ、今ので行こうか……」
この時の私はどうかしていました、次から次へと出てくる痛々しい名に、不覚にも少し良い名だと思ってしまったのだ。
「逆天、無双流ですね! 私としては神聖リラ超滅殺流の方がオススメだったのですが……」
——私の名前を入れるのは勘弁してー!! しかも神聖に滅殺なんて痛い所の騒ぎじゃない……。
「い、いや、逆天、無双流! うん! それが良いよ!」
ここに武術に魔法、その他、総合闘技術『逆天、無双流』が誕生した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その頃ローレンス国王に急な知らせが飛び込んで来た。
「オスディアとノートザムルが停戦? 急な話だな」
ローレンス王は静かに呟く。
「はっ、停戦とは言ってもノートザムルが一方的に宣言を行い、オスディア大陸から軍の撤退を始めた様です」
ロンフェロー公国から遠く離れた地の出来事、しかし、それは衝撃的な知らせだった。
ファストーロにも匹敵する軍事力を誇る2国間での戦争は長きにわたった戦争。
そんな膠着状態にあった戦争が何の前触れも無く、停戦へと向かった。
「ノートザムルが一方的に始めた戦争を一方的に停戦? オスディアが黙っている訳ないだろ」
「はい……、しかし、何故かオスディアに主だった動きは無く、不気味としか言いようがありません」
「……」
報告に考え込むローレンス、そして重い口を開く。
「遠い地の出来事だが、我々としても無関係では無いか……、ローゼンマルクの動向も気になる。
我々ではデゼルトに干渉は出来ん、仕方あるまい、彼らを呼べ」
「はっ! 直ちに」
読んで頂きありがとうございます。
次回投稿は11月19日(金)の予定です。
多くの皆様に読んで頂ける様、精進して参ります。
応援宜しくお願いします。




