魔法の媒体
授業試験を2日後に控えた私は、突然帰ってきた父様に抱かれ、ギルドへと向かっていた。
帰って来たと言えば、何故かグラードも一緒に……、しかもグラードは何やら私の事を観察している節があった。
——いや、まさかバレる訳ない、ないない! 絶対ない!
今日は、主に冒険者と呼ばれている者たちなどが登録している国際ギルドに行くらしい。
何でも、鑑定士と言う人が来るらしく、前々から私の属性を調べるべく予約をしていたらしいのだ。
でも……、私は私のマナ属性を知っている、土属性と少しの水属性だと思う。
前世でも、そうだったのだが、それとは関係なくわかる。
当然だ、私はマナコントロールをマスターしている。
——自分のマナ属性など産まれた時からわかっていたわ!
故に、ギルドに行く意味はないのだが、ついでだ、試験をする闘技場でも拝んでおこう。
「パパ、リラちゃんがパパの事忘れてしまったんじゃないかって気が気じゃ無かったよ〜、もうパパお仕事辞めたい」
「リラが父様の事を忘れる訳ありません、世界一大好き父様なんだから!」
「リラぁ〜」
とろける様な表情を見せ、父様は私の頬に頬を押し付ける。
抱かれる私に逃げ道など無かった。
——久々に帰ってきたのだ、きょ、今日くらいは許してやろう……。
ギルドの扉を潜ると、少し様子がおかしい。
複数ある受付には、本来、受付の者1人ずつ居るはずなのだが、買取窓口に集まり、多くの冒険者と揉めていた。
「買い取りしねぇ〜って、どう言う事だ!」
冒険者の1人が受付の者に食ってかかると、多くの冒険者がそれに同調した。
「ですから先程も申した通り、先の魔物大進行によりっ、静かにして下さい!!
特例法が施行され、こちらでは依頼以外の買取制限をしています。
それでも買取を望まれるのであれば、貿易ギルドの方にお巡り下さい、貿易登録されていない方でも特例法施行中は買取に限り可能となっております」
「んなこたぁ、知ってんだよ!!」
魔物大進行が発生し、王都ミズリーを襲い、外壁の一部が崩壊し、王都内に魔物の侵入を許した。
そんな情報が国内全土に広がり、更には国外にまで……。
情報はいつしか噂となった。
「王都が大きな被害を受けたらしい」
「多くの魔物の侵入を許し、多くの人々が犠牲になったらしい」
「王都は壊滅状態」
噂は次第に大きくなり、あらぬ噂1つの噂が一気に広まった。
「王都は今、物資難、物資を王都に持って行けば一儲け出来るぞ!」
しかし、現状はそんな事はなく、逆に地元の産業や商業、その他の生活を保護する為、それらを優先させる政策が早期に実行されていた。
地方から来る物資には例外なく、関税がかけられ、価格変動が起きない様、国主導の下、貿易ギルドのみで行われていた。
「関税がかけられる上に安く叩かれる、大赤字になっちまうんだよ!」
十分な利益を上げられると見込んだ冒険者たちは定価で買い占め、王都に持ち込んだ。
当然、売ったら売っただけ損害が増える。
暴動は簡単に収まる事はない。
そんな中、遂に受付の矢面に立っていた女性がキレる。
「うるせぇなぁ、国に言えよ! そもそもテメーらが勝手に噂を信じて持って来たんだろうが、王都の被害は軽微、貿易も通常、テメーらが持って来たそれは邪魔なんだよ!
私の仕事を増やしやがって、ぶっ殺されたくなければサッサと……、あっ、ヴァンさんに……リラちゃん……」
「よおっ、アンナ、今日もキレてんな、ここの受付はキレる伝統でもあんのか?
まあ、無言で物が飛んで来ないだけ昔よりマシか」
アンナさんはロザリーと同い年で幼馴染、ウチに来た事はないけれど、何度か一緒に食事をした仲。
冒険者をへてギルド職員となった父様の後輩でもある。
「お前、もう30だろ、そんなんじゃあ嫁の貰い手いなくなるぞ?」
「はあ?! まだ20代ですけど!!」
「20代って、29だろ……」
「ちょっ、ちょっと! 28です!」
「おい、今もう年末だぞ……」
そんなくだらないお約束を終えた後、本題に入るが、少し問題が発生する。
鑑定士が昼過ぎにならないと来ないらしい。
何でも城により王女様の鑑定を終えてから来るらしいのだ。
王女様とは、きっとティファの事だろう。
私たちは王都の西、商業区で時間を潰す事にした。
商業区に着くと、年末と言う事もあり、魔物大進行に襲われたとは思えないほど賑わっていた。
多種多様の店舗の店先には見たことのない異国の商品が数多く並び、少し高価な物も多く目に入る。
「リラちゃん、何か欲しい物はあるか? 久しぶりだし、パパ何でも買ってあげちゃうぞ。
ママには内緒だけどな」
父様に欲しい物を聞かれたが、どれもさほど興味を引かない。
普通の子供なら、服やアクセサリー、いや、私の歳だとオモチャかな?
でも、私は……。
——そう言えば、チャウシーって子が使ってたアレは、魔術では無く、魔法に近い、手に持っていたロットは間違いなく魔法の媒体だった。
この世界にも、ちゃんとあるじゃん魔法!
メアリーもティファも鍛錬は順調、魔法の媒体の材料があれば、作るのも有りだな! よおし!
「父様、私、ミスリルが欲しい!」
「ミ、ミスリル?! 何かの宝石と間違えていないか?!」
魔法の媒体を作るのに、ミスリルは非常に相性が良い。
マナを多く蓄えている物ならば、作る事は可能だが、私の知識では難しい。
私が媒体を完成させるには、最低ミスリルは必要になる。
欲を言えば神樹クラスの木材やオリハルコン何かも欲しいけど、そんな材料は……。
「うん! 少しでも良いの、ミスリルが欲しい!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
コンコン……。
「失礼いたします、ヴェスター・フォン・フランクリン、参りました」
「うむ、入れ」
フランクリンが国王政務室に入るとそこには、国王であるローレンス、宰相のロダン、そして、ランスロットの姿があった。
「はっ! 失礼いたします」
「捜査状況の報告してもらう前に、今日より、ランスロットにはワシの補佐に付いてもらう事にした。
本案件は極秘で行われている。
基本、直接報告を聞くつもりだが、叶わぬ時はランスロットに報告してくれ」
「はっ! 承知致しました」
一通りの挨拶を終えるとフランクリンの報告が始まる。
「カラス盗賊団一連の犯罪行為にバートリー子爵が関わっていた事はほぼ間違いありません。
ギルマルキン伯爵との繋がりの証拠をいくつか出て来ております。
その他にも屋敷の地下より、麻薬コルカイン200kgを押収、現在入手ルート解明に動いている所です。
マリー・アゴット・ギルマルキンの聴取は連日行っておりますが、精神に異常をきたしているのか、会話も出来ぬ状況が続いており、執事のモリスに至っては狂乱状態にあり、聴取にすら至っておりません。
以上が捜査報告になります」
「うむ、ご苦労、それで例の両名はどうなった」
「それが……、遺体と思われたガラムと呼ばれる者ですが、生き物では無く、人工物、0から作られたホムンクルスと判明致しました」
「な、なんだと?!」
予想だにしない報告にローレンスは声を上げ驚き、他も驚きの表情を見せる。
「専門家の話によると三工の遺産である可能性が高いとの報告を受けました。
現在、中身は入っておらず、人形と変わらぬ、と」
「また、厄介な物が出ていおったな……」
ローレンスは深いため息を吐くと頭をかかえた。
そんな話をしている最中、最悪な報告が飛び込む。
「へ、陛下!! ギ、ギルマルキンが! ギルマルキンが看守4名を殺害し逃亡しました!!」
「な、なに?!」
読んで頂きありがとうございます。
次回投稿は11月12日(金)の予定です。
多くの皆様に読んで頂ける様、精進して参ります。
応援宜しくお願いします。




