リラのお悩み
「はあああ?!」
学生寮の一室、ジルが手紙を手に驚きの声を上げる。
「ジルどうしたんだよ?」
ルームメイトの1人が、あまり見ないジルの驚きっぷりに声をかけ、その場にいた他2人も興味をジルにむけた。
「い、妹が……、他国の学校に行く事が、き、決まったって……」
「妹って、お前が溺愛してる妹か?」
「確かジルって騎士爵家だよな? ちょっとお前の所の親、ひくわ〜、上級貴族じゃあるまいし、女の子は普通地元の学校行かすだろ」
「そんなに成績優秀なのかよ?」
ルームメイトたちが思い思いの言葉ジルに向けるが、ジルの手紙を持つ手は震え、真剣な表情をすると立ち上がった。
「か、可愛い過ぎるからだ!」
「「「はあ?」」」
「だって、だってリラはまだ6歳、初等部からの留学なんてあり得ない!
誰かが俺のリラを奪おうとしてるんだ!」
「「「はあ?!」」」
「ぼ、俺……、帰る!」
「おいおい!」
「5日後卒業式だぞ! ここからミズリーまで何日かかると思ってるんだ!」
「ま、まてジル! 落ち着け!」
ルームメイトに羽交い締めにされるジル。
「は、はなせー! 俺は、俺は帰る〜!!」
学生寮のとある一室、ジルの声がこだました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そんな醜態を兄が晒していた頃、リラは自室にて眠気眼でボーッとしていた。
「リラお嬢様、聞いておられますか?」
「……、え? 起きてますよ、起きていましたとも! 寝てなどいません」
「はあ、良いですか? 見届け人ですが、一般ギルド、ギルドマスター、ジェイク様。
国際ギルド、冒険科主任、グドラス様
王都ミズリー最大クラン『トゥカーナの花』から、クラン長ロー・レオニス様、戦士ハバネラ様に魔道士アイセル様。
聖教のシスターもやっておられる、国立ロンド学術校教員、教史担当、レダ・スコルピィ様。
元魔法科担当教員、カロン・ソルート様。
さすらいの剣士ランス様に、さすらいの踊り子ティファ様……。
他にも、第一宮廷魔導士団から数名、国の各機関よりの出席が……」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ったぁ!!」
ルークのお経の様な報告にボーッとしていた私だったが、錚々たるメンバーに目が覚める。
「大事にしすぎでしょう! ただのお遊びだよ?! それにさすらいシリーズ! 絶対ランスとティファだよね?! 王子と王女を巻き込んじゃダメでしょ!!」
「お遊びって自分で言っちゃいましたか……、私だってね、頭がおかしくなりそうなんですよ!」
「え、え?! いきなりスイッチ?!」
「ミーシア嬢から送られて来た見届け人のリストはお渡ししたはずですが?
……、目を通していないのですね。
リストには錚々たるメンバー記されていました。
ある程度想定していた私が……、ドン引きするほどのメンバーですよ!! 大事にし過ぎ?! そんな生易しい問題ではもう無い! 戦争ですよ、戦争! アハッ、アハハハッ」
——あっ、ルークが壊れた。
ミーシアから送られて来たリストにはクロイツ侯爵は勿論、クロイツ侯爵家の寄子貴族の面々、古代魔法の研究者にして次期宮廷魔導士団長の呼び声高いイズール・レイナード。
更には改革派筆頭スレイン公爵家より、第二公子、デローグ・バーン・スレイン。
他にもスレイン公爵家の寄子貴族らの名も明記されていた。
このリストを重く見たルークはミラやランスロットに相談、ランスロットが国王ローレンスの耳に入れると瞬く間に大事となった。
そして、先日、ルークは国王に呼ばれ謁見して来たのだった。
「先日、この件で城に呼び出されましたよ!」
「え? この件?! 誰が?!」
「ローレンス陛下ですよ「ワシもリストに入れておけ!」などと、ほざきやがるから丁重にお断りしましたよ!」
「ル、ルーク、言葉使い……」
「当然でしょ! 基本、侯爵家未満の行事には参加されない陛下が、こんなくだらない、行事とも言えないこんな事に参加されるなどと! アイツ絶対馬鹿ですね! 間違いありません、で、その後、何て言ったと思います?「わかったルーク、今回は不参加で良い、しかしその死合、必ず勝てよ」と言ったんですよ?!
……、はあ? 死合って何ですか?! 勝てよって何ですか?!
良いですかリラお嬢様、今回は、今回ばかりは私も協力させて頂きます! 自重する事などありません、陛下が後ろ盾になって下さいます、徹底的に、徹底的に殺っておしまいなさい! 私は絶対に止めません!!」
鼻息荒く、ストレスを発散させるかの様に言い放つルーク、私は文字通りドン引きしていた。
——ル、ルーク、今日のあんたマジこぇーよ!
まあ、初めっから手を抜く気はない。
アイツらは私の家族に手を上げた、許す事などあろうはずがない!
でも、その前に……。
「ルーク、私はアランとミランに送ってもらうから、ちょっと買い物お願い出来る?」
「か、買い物ですって! 今、私は死ぬほど忙しいんですよ! コレ、コレがまだ半分も終わってないんですよ!」
ルークは先程のこちら側の見届け人リストを机にバンバン叩く。
「ほら、最近色々あって備蓄が底を尽きそうって話してたでしょ? 今日はお米に味噌、塩、他にも色々重たい物が多いのよ。
メアリーだけだと可哀想でしょ?」
「あっ、え? メアリーさんと?」
「うん、アランとミランでも良いけど、やっぱりメアリーはルークを一番頼りにしてるじゃない?」
「え? 一番?」
「そらそうだよ、でも最近アランやミランの指導に、武術や魔法の鍛錬も始めたでしょ?
こんを詰めすぎてないんじゃないかと心配なのよ、だから今日の買い物くらいは一番信頼しているルークが近くにいてあげてほしいの」
「一番信頼……、かしこまりました、このルーク・クラリス命に代えてメアリーさんをお守りいたします!」
——い、命に代えてって……、まあ、毎度の事ながら、チョロいな。
◆◇◆◇◆
ルークとメアリーに買い物を任せ、私はアランとミランが御者を務める馬車で王城に向かっていた。
メアリーは、後で合流する事になっている。
——しかし、夜中は散々だったなぁ。
あの後、ガラムは一向に目的を吐こうとはせず、トゥテラティの不思議な光の攻撃によってガラムは抜け殻の様になった。
トゥテラティ曰く、中身を攻撃したのだとか、少なからず本体へダメージが行ったはずだとも言っていた。
グラードはガラムとモーガンの身柄を回収し、トゥテラティと共に森に消えた。
最後に「また、何処かでお会いしましょう」と言ったグラードはどこか私に疑惑の目を向けていた。
——ひとまず、この件は終わってて欲しい……、私にはまだ授業試験が残っている。
しかし、どうした物だろう、話が大きくなり過ぎた。
——計画の変更が必要か……、物理的にボッコボコには、出来ないよねぇ。
はあ、色々悩ましいなぁ……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ぐああああ!!」
石材で作られたと思われる、薄暗い殺風景な部屋、真ん中のあたりにある大きなベッドには苦しむ白鳥の羽の様な物を背に生やす、髪の長い男が苦しんでいた。
「アーク様、治癒士の方がお見えになりました」
「うるさい! 出て行きなさい! 腐れ精霊の攻撃は精神体にダメージを与える物だと何度も言っているだろ!
治癒士など何の役にも立ちませんよ!!」
ガラムの身体は、全身から異常なほど血管が浮かび上がり、左目は炭の様に黒く、多くの血が流れていた。
「闇の塔主アーク卿、部下に当たるのは、お辞めになった方が宜しくてよ。
あら……、これは、本当に精霊にやられたのね」
音も立てずに1人の天使が現れる、その髪は血の様に赤く、瞳は不自然に青白い光を放っていた。
「ル、ルサルカ! 何故来なかった!」
「私が行っても結果は同じだったでしょ? だって今は貴方の方が力を持っているじゃない。
弱った貴方よりも、か弱い私が行って何が出来ると言うの? だからファナを付けたんじゃない」
「そうだ! ファナが、ぐああああ! ゲ、ゲートを使って、に、逃げやがった!」
「それは仕方がないわ、捕らえていたグリムヒルデが殺られたのだもの、あの子に勝ち目は無かったわ」
「なっ! アレがやられた、だと?!」
「でも、困ったわね、神珠は奪われ、カルディナの行方もわからないまま、最悪な事に、悪魔たちも敵に回りそう……。
アルカーナ大陸の国々にカルディナ、オスディア大陸の魔族に悪魔、それに精霊……。
私たちの中で動けるのは、まだ私と貴方だけ、ここに来て周りは敵だらけ、まさに四面楚歌。
動くのは時期早々だった見たいね」
「ぐっ、敵だらけと口にするには、よ、余裕だな」
「何を言っているのかわからないわ、だって貴方が生きていれば私たちは負ける事はない、そうでしょ?
そうね5年、いえ、4年あれば貴方を完治させる事が出来るわ。
その頃には、例の兵器が手に入っているわよ、ほら、もう安静にしなさい。
貴方は私たちの保険なのだから」
ルサルカは不敵な笑みを浮かべ消えた。
読んで頂きありがとうございます。
次回投稿は11月5日(金)の予定です。
多くの皆様に読んで頂ける様、精進して参ります。
応援宜しくお願いします。




