フレアおばさん無双
魍魎竹の毒の可能性、私の言葉にマリナさんは古い書物を漁り、その書物を見つけて来る。
——良かった、見つからなかったから、また大騒ぎになる所だったよ。
私は書物を取り憑かれた様に漁っていた頃、ここ孤児院の書物も読んでいた。
今回は怪しまれずにすみそうだ。
「ありました、魍魎竹……、確かにこの症状に酷似しています。
無味無臭、多くの毒を摂取すると、酷い吐き気に襲われる……。
リラちゃんの言った通り、この毒が原因であれば、2か月以上は摂取し続けている事になりますね。
治療の方はそれほど身体に負担のある物でもありませんし、今すぐ試して見ます」
——まずいな。
確かに早く楽にしてあげたいけど、今、治療をしてしまうのは危険も伴う。
犯人は何ヵ月もかけ、殺そうとしている、犯人の目星すらついていないこの状況だと有事の時、対応が遅れる。
私がそんな事を考えているとフレアおばさんがマリナさんを止める。
「待ちなさい、マリナ。
気になる事があります、治療の準備だけ、しといて頂戴」
マリナさんはフレアおばさんの指示通り、治療の準備をしに行き、フレアおばさんは患者の元へと奥に消えていった。
当然、私は聞き耳を立てる。
《トト、何かあったらお願いね》
私は奥にある扉の方へと向かった。
「アニー、少し良いかしら」
「フレア様……」
フレアおばさんはベットに横たわる若い女性、アンナさんに声をかける、その傍には、女性の子供であろう姉弟が床に伏せっていた。
アニーとはアンナさんのあだ名らしい。
「アニー、安心なさい貴女がどうして、ここへ立ち寄ったか、さっきわかりました。
旅の途中と言うのは嘘……、ですね」
「申し訳ありません、他に頼れる方が……」
「皆まで言わずとも、わかっています。
貴女はおおよその健闘がついているのですね」
——? どんな会話?
フレアおばさんは優しそうな瞳でアニーさんを見つめる。
私を含め、他の者には理解出来ないが2人は、これで会話が成り立っている様子。
「アニー、ど、どう言う事だ?」
2人の会話にわって入って来たのはアニーさんを心配そうに見つめていた、旦那さんグレックさんだった。
「あなた、ごめんなさい。実家からの招待状は、私が実家にお願いして出してもらったの……、全ては、誰にも気が付かれずにフレア様にお会いする為のものだったの」
「そう言うお話は後にしましょう、アニー、少し休みなさい」
さすがはフレアおばさん、話を聞きながら周りを観察し、おそらく目星をつけただろう……、だって。
——従者の1人、中年の女性が挙動不審すぎる!
「貴女、お名前」
フレアおばさんが遂に動く、挙動不審の女性にそう、声をかけると、その不審さは更に増す。
「わ、私は、ジェシカと、申します」
「間もなく薬の調合が終わる頃だと思います、少しジェシカさんをお借りしますね」
「え? 薬?! わ、私たちは良くなるのですか?!」
「ウチには優秀な治療士と、今日は幸運の童来ているのです、大丈夫、安心してください)
「こ、幸運の童……、ですか?」
——え?! 幸運の童って……、私の事……、だよね?
「そうですよ、ちゃんと安静にしているのですよ? ジェシカ、ちょっと良いですか?」
フレアおばさんは、アニーさんたちに笑み浮かべ、ジェシカを部屋から連れ出す。
私は俊敏な動きで元の場所に戻った。
「マリナ、治療をお願いしますね」
準備を終えたマリナさんは、それに頷きフレアおばさんと入れ替わる様に、奥へと消えていく。
そして、ジェシカを誘導し、椅子に座らせると、冒頭、予想外の事を口にする。
「外にいる少年は貴女の子ですね」
「え?」
——え?
「父親はグレックさん、かしら」
「……」
——えええ?!
「家を息子に継がせたかったですか? アニーは貴女に酷い仕打ちを? 息子さんの従兄弟あたるアニーの子が憎かったですか?」
フレアおばさんはゆっくりとした口調で、一つ一つ意味があるかの様な仕草で語る。
「い、いえ、そ、そんな事は……」
——す、すげぇー!! 貫禄パネェー!
「そうですか……、誰に指示されたのでしょう、いえ、誘導されたと言うべきでしょうか」
「え?」
——なにぃーー!! マジで?! 何でわかんの? エスパー?!
「この件にグレックさんも関与を?」
「いえ! グレック様は!」
「では、息子さんが?」
「ち、違います! 私が、私が奥様たちに! グレック様も息子も関係ありません!」
——マ、マジかよ……、毒の事を出さずに……。
毒物混入事件の検挙は難しい、証拠が出たとしても否定されれば、真実にたどり着くのは困難だ。
——あっさりと自白させやがった!
「そうですか……、で、誰に指示されたのでしょう? 大体の想像は出来ますが、貴女が貴女の口から言うべきです。
毒は特定しました、治療法も分かっています。
毒の出所はいずれ断定されるでしょう」
「も、申し訳ありません……」
「口を閉ざしますか、口を閉ざしたリスクを理解して閉ざしているのですか?
貴女が関与した事は直ぐに分かります。
でもその先はどうなるか分かりません、貴女の関与が明らかになった場合、次に疑われるのはグレックさんと貴女の息子さん。
首謀者が次にどう動くか、知恵が働けば子供でもわかります……、リラちゃん、貴女にはわかる?」
フレアおばさんは突然、間もなく6歳を迎える普通の子供である私に、話を振る。
しかし、フレアおばさんは私が産まれた時より私を見ている。
私が答えを導き出せるであろう事もわかっているのだろう。
「2人を自殺に見せかけて殺します」
2人は私を凝視すると驚きの表情を浮かべた。
——え? 不正解?! 合ってるでしょう!
「リラちゃん、そこまで具体的に……、まあ、口封じされる可能性が高いのは明らかでしょうね」
——正解は口封じか!!
「良く考えなさい、貴女に指示をした人は、それが可能な人ではないのですか?」
フレアおばさん、あんた何者だよ。
ジェシカは観念したのか全てを話し出す。
グレックとの出会いはジェシカの方が7年ほど先であった。
しかし、彼女は平民の出、身分あるグレックと結ばれる事は許される事はなかった。
そんなおり、ある名家の御令嬢アンナとの婚約者結婚が決まる。
彼女は既にグレックとの間に6歳になる子供を授かっていた。
グレックは彼女に、ゆくゆくはその息子にも財産を残すと言う約束をしてアンナと結婚する。
数年後、アンナは女の子を授かり、そして、去年男の子を授かった。
彼女は後継者の誕生により、不安を覚え、徐々に病んでいった。
そこに、彼女を心配する様な素振りを見せ、グレックの弟夫婦が近寄ってきた。
—ジェシカ、グレックの後は長男である貴女の息子が継ぐのが当然の事、このままではあの女に全てを奪われてしまいます—
ジェシカをこの愚行に走らせたのはグレックの弟夫婦だった。
「そうですか……、やはり、いつの時代も権力に溺れた貴族とは、醜いものですね」
フレアおばさんは目線を落とすと、見たことがない様な冷たい表情を見せる。
この後も、フレアおばさんスゲェー無双は続いた。
治療の事や、毒の事、ジェシカさんについても隠さずグレックさん、アニーさんに話した。
途中、グレックさんが怒りの様相を見せるが、責任はグレックさんにもあると、早々に沈黙、長きに渡りフレアおばさんに説教をされていた。
グレックさんはどう見ても貴族……、フレアおばさん……。
——アンタ何者だよ!
処分は最終的にアニーさんたちが完治するであろう2週間ほどまでに家族みんなで話し合い、フレアおばさんに事前報告する事になった。
フレアおばさんに任せておけば上手く、この家族を良い方向へと導いてくれるだろう。
そんなこんなで騒動は鎮静、私は帰路へと孤児院を出た。
——だいぶ遅れちゃったな。
そして、帰宅後……、私は感情を爆発させる事になる。
「くっそ! あのババァかぁぁ!!!」