4話:捜査初日 2
車の中でも山さんは押し黙ったままで外の景色をみながら煙を燻らせていた。
「山さん、どうしたんですか?さっきのも何故あんな事を言ったのか理解出来ません。」
暫く沈黙は続いたがタバコを消すと、その重い口が開いた。
「何か引っ掛かる…」
「第六感ですか?」
山さんは以前の捜査の時も時折こんな事を言って、事件解決の糸口を見つけていた。
「何か重要な事を隠しているって事ですか?それとも犯人である可能性が高いとか?」
………
「彼女は犯人じゃねぇ、彼女はコーヒーカップを右手で持ち上げていた…今の所犯人は左利きの可能性が高い…」
「えっ…鑑識結果も出ていませんよ…」
「ホトケの後ろ首の包丁根は左側から斜めに入った傷だった…右利きの人間が刺そうと思っても一撃で急所を付くのは容易じゃねぇ、つまり犯人は左利きであった可能性が高い…」
凄い洞察力と見解だ、あの血の海の中で鑑識並の犯人像を浮かび上がらせた。
「それじゃ、今の所左利きの関係者は徹底的にマークっスね。」
山さんはまた黙ったままタバコに火を付け押し黙った。
「先程、彼氏だった田中にアポ取ってますんでそっち向かいます。」
会社付近に着くと田中さんが待っていた。
一通りの挨拶を終え話を切り出す。
「すみませんお仕事中に…」
「いえ、営業部なんで会社は抜け出し易いですから…」
「一先ず近くにファミレスがありますのでそちらで…」
私達は田中さんに案内されファミレスに着いた。
コーヒーを注文し話を切りだす。「昨日遺体を見られたと思いますが…交際していた神碕さんに間違いないですね。」
「…はい、どうしてこんな事に……」
目にはじわりと涙を浮かべ口に手を充てていた。
「田中さんお気持ちはお察ししますが、私達も犯人逮捕に全力を上げておりますので捜査のご協力をお願いします。
「ううっ…はい……わかりました。」
「神碕さんの身の回りに最近変わった事はございませんでしたでしょうか?」
「えぇ…特には、あぁ…でも…」
「田中さんどんな些細な事でも構いません、些細な事から事件の糸口が見えてきたりするのはよくある事ですから。」
田中さんは先程もってきたコーヒーに口を付けると話を切り出した。
「私と真琴が知り合ったのが一年程前なんですが、真琴の前交際相手がしつこくて…半年程前に電話が掛かって来た時に真琴さんから無理矢理取り、迷惑なので今後電話を掛けないよう強い口調で言いました。
その後、着信を拒否にしてたみたいだし、掛かって来る事はなかったと思います。」
「名前はわかりますか?」
「いやぁ、名前までは…白石さんなら知っているかも知れません。」
私はちらりと山さんに顔を向けたが無言のままだったので話を進めた。
「最後にお会いしたのは何時ですか?後、電話を掛けられたのは?」
「三日前です。電話は一昨日の夜に掛けました。」
「後……事件当日、7時頃はどちらに?」
「えっ?…まさか私、疑われているんですか?結婚も予定していた関係なのに…あんまりじゃないですか!」
彼の心中は察するがこちらも手掛かりを捜すのに気を張っている。特にこのような事件では1番疑ってかかるべき人物であり、参考人なのだ。
「田中さん…被害者の関係者は誰であろうとどんな関係であろうとお聞きしています。先程申しましたように些細な事から集めていくのが私達の仕事ですので。」
田中さんは憤りを感じながらも納得した様子で口を開いた…
「…私はその時間は家に帰っておりました…」
「誰か証明出来る人はいますか?」
「一人暮らしなのでいないと思います。」
「わかりました。山さんから何かないですか?」
「田中さん、コーヒーのスプーンを左手で掻き回してたけど左利きかい?」
「えぇ、何でですか?」
「言えね、被害者の刺し傷が左利きの可能性が高かったもんで…」
「ちょっ…ちょっと!山さん…!」
あまりの直球にびっくりした僕は山さんの話を遮ったが田中さんは怒りのあまりまくし立てていた。
「どうゆう事ですか!貴方達は最初から私を犯人と決め付けて私の所に来たんですか!私も被害者なのに酷い!これだから警察は世間から無能呼ばわりされるんですよ!もういい、帰ります!」
田中さんは席を立ちズカズカと店を出て行った。
「あ〜、帰っちゃいましたね。どうするんですか、今後もう田中さんから聞けませんよ…」
「鎌かけてみたんだよ…」
そういうと何時ものように山さんは押し黙った。