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死闘

体調不良でした(;'∀')

皆さんも一晩常温で置いたカフェオレを次の日飲むのは避けましょう。

 トロールの頭部が、火のクリスタルの矢じりの効果で燃え上がる。もともと、変異種のトロールは火に対する耐性があり、そこまで大きなダメージを与えられるわけでもない。

 ただ、目くらましの効果はあり、その間に捜索隊のレイドはこの小部屋から退避することができていた。


「グ、ググググ……グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 うめき声から一転、怒りの咆哮を上げる。音の波は魔力をはらみ、抵抗力が弱い相手ならそれだけで体が硬直して動けなくなるほどだ。


 クレアがあらかじめかけて置いてくれた防御魔法で、硬直させられることはなかったが、部屋と通路の境界にいる何人かの冒険者は身をすくませていた。

 トロールの頭部を包んでいた炎は今の咆哮で消し飛んでいた。ギラリと眼光鋭くリンを睨み据える。


「リンがうまくあいつを引き付けてくれている。ガラテア!」

「はい!」

 指示を待つことなく、ガラテアは魔力の集中に入った。その姿を見て、何人かの冒険者が流れ弾を警戒して魔法防御の結界を用意する。

 リンは静かな呼吸で眼前のトロールを睨み据えている。トロールの殺気を真っ向から受け止めつつも揺らぐことがない。


「なんて度胸だ……」

 盾や鎧に亀裂の入った重戦士がつぶやきを漏らす。もうすぐ上位の冒険者に慣れそうな戦士の鎧は、有名なブランド品だった。

 修理代が高くつきそうだなあ。などと場違いなことを考える。


 トロールはすぐには襲い掛かってこず、膝を曲げ、背中に力を入れて機をうかがっているようだ。

「フォートレス!」

 リンがスキル名を口にして、腰を落とし防御態勢を整える。

 トロールはすっとした足取りで前に出ると、そのまま拳を突き出してきた。


「なんだありゃあ!?」

 熟練の拳闘士のようななめらかな動きに驚きの声が上がる。

 リンは落ち着いて盾を斜めに突き出しその拳をかいくぐって剣を横薙ぎに振るう。ガアンと硬いものを殴りつける様な音が響く。

 トロールの肌には毛筋ほどの傷もついていなかった。


「ちっ、硬いな」

 リンは動揺したそぶりも見せず、再び構えを取る。どっしりと構えるリンの前にトロールが立つ。ぶらりと垂れ下がった両腕はゆらゆらと一定のリズムで揺れていた。


「変異種ってのは要するに、長い間戦い抜いてきた個体ってことなんだ」

「何らかの技術を身に着けているということですわね」

 クレアは僕の隣でリンに援護の魔法を飛ばしている。身体能力を底上げする魔法はコントロールが難しく、術を受ける者との連携がうまく行かないと、向上した身体能力そのもので逆にバランスを崩すこともあった。

 いまリンにかかっている魔法は、筋力向上だ。

 リンの力は騎士としては低くない。ただ明らかに格上のモンスターと戦うには、まだ力不足だ。

 技術が群を抜いて高いため何とか渡り合えているが、それでも攻撃を受け流すには力がいる。


 向上した力で剣を叩きつけても全くダメージが通らない。しかし、そんなことはわかっていた。


「ふっ!」

 攻撃を振り切った直後にわずかな硬直時間がある。そこをめがけてシーマがピンポイントに矢を射込む。それはトロールの筋肉の隙間や関節に刺さり、徐々にトロールの動きは鈍くなっていった。


 頭上から振り下ろされた拳をリンは横にステップして避ける。そして剣を膝にたたきつけると、わずかに傷が入った。

 そこを狙いすましてシーマの矢が突き刺さる。矢柄の半ばまで食い込み、トロールは絶叫を上げてへたり込む。


「いま!」

 ガラテアが、先ほどトロールを屠った一撃を再び繰り出した。ほかの冒険者からは何があったかわからないほど絞り込まれた一撃は、突き立った矢を通ってトロールの膝を粉砕し、ちぎり飛ばすことに成功する。


「え!?」「なんだ!?」

 観戦していた冒険者たちから驚きの声が上がった。彼らからすればガラテアが指さした先が爆発したようにしか見えなかっただろう。


「いまだ!」

 僕の合図に従ってリンは盾を外すと剣を両手で構え、強化されている筋力で床を蹴り、自らを一本の槍にしたかのような素晴らしい勢いで突進する。

 ちぎれとんだ足を見て呆然としているトロールはへたり込んでおり、リンの刺突は見事にトロールの目を貫いた。

「くっ、浅い!」

 リンは追撃をすることなく退いた。

 その判断は的確で、間一髪のタイミングで横薙ぎに払われた腕がリン退いた場所を通過する。

 左目をつぶされ、怒りの形相を浮かべるトロールだったが、何か違和感があった。


「グ、グギギギギ。オボエテロ」

 うなり声を聞き間違えたか? と思ったがこいつは明確に言葉を発した。ちぎれ飛んだ足はすでに魔素に還り始めている。

 片足のまま立ち上がると、リンに向けて飛び掛かってきた……ように見えた。天井を殴って急激に方向転換する。突然のことで対応できていなかった冒険者を一人殴り倒すとそのまま逆立ちをして凄まじいまでの勢いで逃げていった。


「なんだったんだ……?」

 盾を拾う暇もなく剣だけで迎え撃つことは分が悪い。だが、足を吹き飛ばし、片目をえぐったことで戦況はこちらに傾いていた。

 もう少し行動に制限が出るようなことがあれば、そのまま周囲の冒険者に総攻撃を仕掛けさせればいい。

 だが、あのトロールは戦況を冷静に読んでいた。だから自身が追い詰められていることを理解し、体力にまだ余裕があるうちに逃げに転じたのだ。


「敵ながら天晴ってところか」

「のんきなこと言いますこと。ああいった変異種のモンスターと冒険者の因縁はどちらかが息絶えるまで続くと言いますわ」

「そうだね。やられてやるつもりはないけれど」

「そうなっては困りますわ」

 戦いが終わって、少し気が抜けていた。だから僕は気づかなかった。魔王の目と呼ばれる監視者が部屋の片隅に潜んでいたことを。


「あ、ああ。ところでだ。当初の目的を果たしに行かないか?」

 リンが少し遠慮がちに声をかけてくる。彼女が再び腕に装着していた盾は、今の死闘を物語るかのように、ボコボコに変形していた。

 探索レイドの冒険者たちは部屋に戻ってくるとキャンプの準備を始めている。

 

「いろいろと話はあるんだが、あとにしよう。あと回ってないのは階段へ向かう通路とその先だ。お前さんのお仲間だって言うなら、お前らが行くのが筋だろう?」

 レイドのリーダー格の冒険者が苦笑いを浮かべながら僕に話しかけてくる。

 その一言に促され、僕たちは通路の奥へと足を踏み入れた。

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