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会敵

 予想以上だった。魔力操作スキルのレベルは高く、なのになぜあんなノーコンだったのかとは思っていたけど、本来の実力は天才と言う言葉が控えめに思えるほどだった。


「うふ、うふふふふふふふ、そう、これよ!」

 ガラテアが笑いながら拳を突き上げる。普段は物静かで、大声を上げることのない、そんな彼女のテンションが上がり切っている姿にほかのメンバーはポカーンとしていた。


「ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 クリスがトロールの魔石を手にこちらも叫んでいる。今日のダンジョン攻略で斃してきたゴブリンやコボルトたちの魔石を全部足してもさらに上を行くサイズだった。

 僕はその魔石を収納に入れる。

「山分けにするから」

「はいっ!」

 クリスの返事は非常にイイものだった。


「え? 何が起きた?」

 半ば気を失っていたリンは状況を理解していない。

「ああ、うん。なんというか、ガラテアが覚醒した」

「ほう、それは良いことだな」

 シーマの返答にリンは胸を張って笑みを浮かべる。細かいことは気にしない彼女はある意味リーダー気質なんだろう。

「そう、だな。うん。リンの言うとおりだと思うよ?」

 シーマは複雑な表情を浮かべている。そして突然ガラテアがへたり込んだ。


「あ、あれ?」

 立とうとするが足腰に力が入らないようだ。

 クリスはリンの回復をしていたが、すぐにガラテアの状態を見る。

「極度の緊張で腰が抜けたみたいですわね」

「なるほど」

「ふえええええ」

 何やら情けない声を上げているガラテアは僕がおぶって移動することになった。

 本来は一度引き返すべきなのだろうが、今回のミッションは仲間の救援だ。

 ここで引き返すことは彼女を見捨てることを意味する。だから誰一人として引き返すという選択肢を選ぶことはなかった。


 先ほどのトロール討伐でレベルが上がったようで、オークの群れにも苦戦することはなかった。

 順調に集まる魔石に、クリスはもはや慈母のような表情を浮かべている。底を突きそうな財布を心配しなくていいとはなんと良いことだろうと、讃美歌を口ずさんでいる。

 これほどまでに欲にまみれていながら彼女の信仰心は本物なのだろう。鼻歌の讃美歌で、周囲の空気が浄化されている。

 

「教会の教えって清貧を旨にしてなかった?」

「うむ、クリスのことだろう? なら聞くが、彼女が華美な装飾は身につけているか?」

「……いないね」

「うむ、彼女が金に執着するのは……師匠の影響もあるんだが、まあいずれ知ることになるだろう」

 リンは少し言葉を濁した。確かに今それを長々と話している時間はない。


「こっちだ」

 リンはよどみなく歩を進める。

「うん。ところで二層は初めてなんじゃなかったっけ?」

「ああ、最初にも伝えたが、カレンは私の主筋に当たる方でな」

「契約?」

「うむ、主従契約によって互いの状態がわかるのだ」

「じゃあ、向こうもこっちが近づいてることを把握しているわけだね」

「そう、だな。最悪の事態を考えるなら……死ねば契約は切れる。まあ、だからこと生きているのがわかるわけだ」

「急ごう」

 リンは頷くが、その歩調はこれまでと変わらなかった。ガラテアは僕の背中ですやすやと寝息を立てており、僕の膝は疲労で小鹿のように震えていた。


「む?」

 シーマが足を止め、手を振って合図してきた。

「敵か?」

「いや、戦いの音だね。この先だ」

「確かこの先にはちょっと広い部屋があったはずだね」

「まさか!」

 リンが走り出し、クリスとシーマも続いた。

 いきなり背中が軽くなったと思ったら、ガラテアも続いて走り出す。

 力の入らない足をぴしゃりと叩いて僕も息を切らせながら後に続いた。


「グルアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 魔力のこもった咆哮を浴びると、反射的に身をすくませてしまう。棒立ちになった冒険者たちを青い肌のトロールが薙ぎ払った。

 立ち直った魔法使いが火球を放つが、トロール変異種には通じない。

 普通のトロールは炎を嫌うが、変異種には効果が薄いことを知らないのか。


「リン!」

「ああ!」

 盾を打ち鳴らしつつ前に出る。薙ぎ払われた冒険者たちは……半数がすでに物言わぬ姿になっていた。残りも五体満足ではない状態で少なくともこの戦いには参加できないだろう。


 改めて周囲を見る。部屋の先には通路が続いているが、あの先は行き止まりだったはずだ。

 矢継ぎ早にシーマが矢を放つ。彼女もレベルアップしているようで、針の穴を通すような精密な射撃はそのままに、矢の力強さが増している。

 並みのトロールなら射抜いているであろう力は変異種の特殊な表皮によって弾かれた。

 

「くっ、なんだこれは!?」

 大振りの拳をよけてカウンターで剣を叩きつけたが、分厚いゴムのような感触にリンが戸惑っている。


「ガラテア、氷結弾を当てて!」

「はい、わかりました」

 彼女が杖を振ると、3つの弾丸が虚空に現れて一斉に放たれる。魔力をあらかじめ集中していたのだろう。

 トロールは腕を交差させて弾を受け止める。表面が凍り付き、弾力が失われた。


「そこ!」

 リンが僕の意図を読み取って、凍り付いた表皮に剣を叩きつけると、斬撃が通りトロールは血をしぶかせた。


「今のうちに下がって! 負傷者はあっちの通路へ!」

 すでにレイドを組んだ冒険者たちの半数は戦えない状態になっている。

「申し訳ありません、彼女を守るため治癒魔法はご遠慮させていただきますわ」

 クリスは杖を構え、リンに防御魔法をかける。

「神に逆らいし者に神罰を与えん、振り上げた拳は汝に帰らん。リフレクト」

 先のトロールとの戦いで使った反射魔法だ。受けた攻撃の一部を相手に跳ね返す。


「リン! 攻撃を受け流すんだ!」

「わかった!」

 振り回してくる拳のうちの一つを捉え、盾で横から弾くと、真横からの力を受けて体勢が流れる。

 動きが鈍ったところにエナジーボルトが叩きつけられた。

 さすがに針のように絞り込むとはいかなかったが、回転を与えられ貫通力が増した矢はトロールの足にダメージを与える。


 カパッと口を開け、咆哮を放とうとしたところに、シーマの矢が撃ち込まれ、トロールの頭が炎に包まれた。

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