14 キャンプ飯
イッテツの鍛冶屋をあとにしたスカイたち一行は、みなホクホク顔だった。
当然である。自分たちには高値の花ともいえる魔法練成がなされた武器が手に入ったのだから。
「鍛冶屋のオヤジさん、怖い人かと思ってたらいい人だったね!」
「そーそー! これだけの武器と護符がたったの300¥だなんて、マジありえなくない!?」
「でも、泣かれていたようでしたけど……」
「たぶん嬉し泣き」
「ならばその思いに応えられるよう、必ずやサンダーバードを成敗しようではないか!」
「おーっ! って、ドンってばなにやってんの?」
オッサンは特に喜ぶこともなく、シャルルの腕の中でタバコを取りだし口に咥える。
「ドン、それどうしたん?」
「イッテツからもらったんだ。シャルル、火くれよ」
「それはべつにいーけど、飴ちゃんに火を付けるなんて変わってるね」
「なに?」
咥えていたタバコをよく見てみると、それは棒状の飴だった。
「くそ! イッテツの野郎、俺を子供扱いしやがって!」
「あはははは! よくわかんないけど、ドンにはそっちのほうが似合ってるって!」
「戻ってとっちめてやりたいところだが、それは後だ。
それよりもこれから、サンダーバードのほうをとっちめなきゃな!」
「それじゃあ次は学校の図書館だね! サンダーバードがどこにいるか調べなきゃ!」
「いや、スカイ。サンダーバードの居場所ならもう知ってる。
この前のブルベアくらいの遠出になるから、いったん寮に戻って準備をしてから向かうぞ」
スカイたちはオッサンの指示に従い、女子寮に戻ってから各自準備いを整える。
キャンプ用品の入った大きなリュックを担いでいる少女たちは、なんだか新鮮だった。
「そういえば、お前たちは荷物持ちは雇わないのか?」
上位職ともなれば下位職を荷物持ちとしてパーティに入れることがある。
完全に雑用係であるが、下位職としては上位職と冒険できるのは大変名誉なこととされていた。
しかし彼女たちは自分の荷物は自分で持っているようだった。
スカイは頷く。
「うん。荷物くらいは自分たちで持とうと思って」
「スカイ、ウチらの荷物持ちになりたがるヤツなんていないの間違いじゃない?」
からかうように付け加えるキャルルに、「うっ」となるスカイ。
「そ、それもあるけど……」
それは自虐的なやりとりであったが、オッサンはすかさず他意を感じ取っていた。
――イッテツのところにあった手配書みたいなのが、下位職のヤツらの所にも回ってるのかもしれないな……。
「なんにしても我らの名が知れ渡れば、荷物を持ちたがる者が列を作るに違いない」
「はい、がんばりましょう」
オッサン、そして少女たち5人はクエストに出発するべく、学園をあとにする。
その姿を、校舎の最上階から見守る者たちが。
「イェスマン教頭、どうやらメスガキどもが我らの罠に掛かったようであるな」
「イェス、おっしゃる通りです! これであのメスガキたちの降格は間違いないでしょう!
なんといってもこのイェスマンが考えた一分のスキもない作戦なのですから!」
「ふふふ、イェスマン、おぬしもワルであるなぁ……!」
「イェス! あ、いえいえ、アデル校長には敵いませんです……!」
「「ふっふっふっふっふ……はーっはっはっはっはっはっはっはーーーーっ!!」」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
オッサンの案内でスカイたちは閃迅の谷へと向かう。
スカイたちは初めての道の地であったが、オッサンは何度も来ていたので、まるで自分ちの庭にいるかのようにスイスイ。
特にこれといったトラブルもなく、夕暮れ時には谷の目前の森までたどり着いていた。
「よし、じゃあ今日はここで一泊するぞ」
「なんだと? 毛玉よ、ここまで来ているのだから、谷に着いてからほうが良いのではないのか?」
「いや、ガーベラ。閃迅の谷は風が強くて冷え込むんだよ。
だからキャンプならこの手前の森でするのがいいんだ」
「でも、いつサンダーバードが現れるかわからない」
「その通りだ、バンビ。本来、サンダーバードと戦うには待ち伏せの長期戦が必要になる。
しかし俺に考えがあるから、寒い谷でわざわざ張り込みをする必要はない」
「その考えとは?」
「明日になったらわかるさ」
「ねー! それよりもウチ、はらへったー! もーどこでもいーからゴハンにしよーよー!」
キャルルの一言で、森の中にキャンプを設営することとなる。
5人用の大きなテントを張り、持参した薪を燃やして光源をつくる。
暗くなっていく森のなかで、彼女たちが夕食として食べはじめたのは……。
寮のオバサンに作ってもらって持参した、サンドイッチであった。
「もうすっかり冷たくてパサパサになっってるけど、贅沢は……って、ちがーうっ!」
「わぁ、びっくりした!」
「ど、どうされたんですか、ドンちゃんさん?」
「ここ、ノリツッコミする所違くない!?」
「やっぱり下手」
「いや、お前らなんで冷たいサンドイッチをモソモソ食ってんだよ!
ここは監獄じゃなくてキャンプなんだぞ!? もっと工夫しろよ!」
「毛玉よ、お前はなにを言ってるんだ。ここは寮と違ってなにもないんだぞ」
「あるよ! ありまくるよ! ちょっと待ってろ!」
オッサンはぷりぷりと肩をいからせて森の中に入っていく。
「え!? どこ行くのドンちゃん!? 危ないよ!?」
「いいからお前たちはそこで待ってろ!」
「でも、明かりもなしじゃ……!」
そう言われてオッサンは気付く。
暗い森の中、松明ひとつなくてもあたりがよく見えていることに。
「妖精って、夜目が効くのか」
なんにしてもオッサンにとってはタナボタな能力だった。
少女たちがやたらと心配しているので、近場でさっさと用事をすませようとする。
しかし夜目は効くようになったものの非力な妖精ではなにひとつ採ることができず、早々にギブアップ。
「おい、スカイ! ちょっと手伝え! これを持って行ってくれ!」
「この大きな葉っぱと実が欲しいの? これをなにに使うつもり?」
「これはな、ハナナといって、ごちそうになるんだ」
「これがごちそうに? まさかぁ」
半信半疑のスカイをよそに、キャンプに戻ったオッサンはさっそく調理開始。
といっても、ハナナの葉でサンドイッチをくるんだものと、ハナナの実をハナナの葉でくるんだものを、火のなかに放り込んだだけだった。
「毛玉よ、なにをしている!? サンドイッチが燃えてしまうぞ!?」
「いや、ハナナの葉は燃えにくいんだ。そして温度を一定に保つ性質があるんだ」
「もしかしてドンちゃんさんは、包み焼きを作られているのですか?」
「そうだセフォン、よくわかったな。よし、そろそろいいぞ、火から取り出して、葉っぱを解いてみるんだ。
熱いから気をつけろよ」
少女たちはおのおののサンドイッチをくるんだ葉っぱと、ハナナの実をくるんだ葉っぱを、あちあちと開封する。
すると、ふんわりとした湯気が立ち上った。
「う、うわあーっ!? サンドイッチがホットサンドみたいになってる!?」
「マジっ!? 固かったチーズがとろーりしてて、超うまそう!?」
「表面もトーストみたいになっていて、とってもおいしそうです!」
「おい、お前たち、ハナナを見てみるんだ!」
「うわぁ! なにこれなにこれっ!?」
「サツマイモみたいになってて、超ヤバいんですけど!?」
「ハナナの実が食べられるだなんて、知りませんでした!」
「ハナナの実は生だと固くて苦いうえに、採るとすぐ腐るから、街では食用としては流通してないんだ。
でも採ってすぐに包み焼きにすれば、甘さが引き出されたおいしいホットデザートになるんだ。
さぁ、食ってみろ」
少女たちはさっそくサクサクのホットサンドにパクつき、ホクホクのハナナの実をハフホフと頬張る。
そして、顔を見合わせあったあと、
「おっ……おいしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
歓喜の雄叫びを森じゅうに響き渡らせていた。




