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第八話 「Guilty or Not Guilty」〜3〜

死刑廃止運動の会。その本部がある代官山の事務所では、電話が引っ切り無しに鳴り続けていた。

今回の裁判の結果を受けて、他の法律事務所や弁護士の会。そして住民からの苦情が相次いだ。

中でも世論からの批判は凄まじいものだった。

「倒産しろ」「絶対許さないからな」「人間をなんだと思ってる」

加害者の大場に無罪が下った翌日から、そんな内容のクレームが殺到。

その電話を受けるテレフォンレーターの女性アルバイト2人が次々と辞めて行った。

しかしそれでも会長の田宮は動じなかった。今はまだ世論からの批判が相次いでいるが

自分が死刑を回避させたと言う事実に抜かりは無い。今後彼に弁護を依頼する事件は増えるだろう。

特に殺人と言う重罪を犯した加害者からの仕事は右肩上がりで上昇するだろう。それは確かだった。

会のメンバー、並びに今回の事件で弁護を務めた他の6人の弁護士たちも歓喜の声を上げている。

彼らは正当な裁判、そして正当な弁護の元で行なわれた今回の一件について

自分たちの正義が勝利したと心から思っている。無論、それが事実なら胸を張って喜ぶべき事だ。

しかし、事実は理想とは違う。偽りや嘘は星の数ほど存在しても、事実だけは一つしかない。

その事実は現実とは違い、甘いものではない。理想と現実はまったく別世界だと言うことを

田宮以外の弁護士たちは知り得てなかった。


「これで我々に対する評価も一気に上がりますな」

今回の弁護に参加した一人の大内が田宮に言った。

「そうだな。これは我々の勝利だ。胸を張って喜ぼうじゃないか」

「おおお!!」

その場にいた他のメンバーたちが唸りを上げた。

「ささ、田宮さんも飲みましょう」

「いや、私はまだやる事があるので後にするよ」

そう言って田宮は事務所の二階にある彼専用のオフィスへ向かった。

彼にはまだやる事が残っている。そう、それは今回の裁判で使った証拠を隠滅すると言う仕事だ。

あれがバレてしまったら元も子もない。そう思うと田宮は足早になった。

オフィスに入ると田宮は真っ先にデスクの引き出しに隠してあった封筒を取り出した。

この中には今回の裁判に関する綿密な詳細が書かれた資料がいくつも納まっている。

これさえ抹消してしまえば証拠は全て隠滅した事になる。

不安要素は精神病院に搬送された大場が口を割らないかと言う部分だが

大場には精神異常と言う鑑定結果が下されている。そんな状況で万が一大場が喋っても

誰一人まともな扱いはしないだろう。何より精神病院とは言え彼の病室は隔離されているのだ。

封筒に開けられた痕跡は無い。封もちゃんと閉じられている。田宮は安堵の溜息を漏らした。

デスクに置かれている灰皿を手繰り寄せると、持っていたライターで封筒に火を付けた。

書類の入った封筒は下から徐々に燃えて行く。半分くらいまで火が点いた所で彼は封筒から手を離した。

「これで終わりだ」

「お前は腐れ外道と言う言葉を知っているか?」

その時、突然男の声が響いた。

「なっ!だ、誰だ!!」

「腐れ外道とは道理に背く考え。また、その考えをもつ者。邪道。その中でも最も腐ったクズと言う意味だ」

「誰なんだ!?」

田宮は部屋中を見渡した。しかし誰もいない。

「腐れ外道・・・お前ほど似合う人間はいないな」

「一体誰だ!姿を見せろ」

「ここにいるぞ」

その瞬間、田宮の真後ろで声が響いた。田宮は瞬時に振り返る。

しかし男の姿を見た瞬間、田宮の意識は遠退いて行った。


次に田宮が目覚めたのは見たことも無い部屋だった。

どこかの廃屋だろうか。それとも工場?複雑な機械がそこら中に散乱していた。

「痛・・・・」

田宮は椅子に座らされていた。しかし足を拘束されており身動きが取れない。

おまけに彼の両手首には注射器が刺さっており、その先端はチューブに繋がっている。

そしてそのチューブの先には大きなバケツが置かれており、そこへ血液が流れ落ちていた。

「これは・・・・まさか・・・」

田宮の顔から血の気が引いた。

「お目覚めかね。天下の弁護士さん」

「き、貴様は!!」

田宮の目の前で一人の男がやはり椅子に座っていた。男は黒スーツを着ており、その上からブラックレザーのロングコートを羽織っている。

頭にはウエスタンハットを被っており、表情は良く見えなかった。

「これは何の真似だ!」

「死の裁判だ。勿論、被告人はお前だ」

「な、なんだとっ!」

田宮は男を睨み付けた。男は右手に持っていた封筒から一枚の書類を取り出すと、それを静かに読み上げた。

「ずいぶん手の込んだ内容だな。私が尋ねる質問には全て「はい」と答える事」

「ま、まさか・・・」

「加害者を精神鑑定に持ち込むプロセス。それは大場本人を精神異常に見せかける事。以下の項目は精神鑑定の際

大場本人に答えさせる模範解答である。精神鑑定で異常と判断されればもはや勝利はこっちのもの・・・か」

「な、なぜそれを・・・」

「お前は中身を確認せずに書類を燃やした。甘かったな。事前に摩り替えておいた」

「な、なに・・・!?」

「お前は死刑廃止のために今回の事件を利用した。加害者の大場に無罪を与えるためにこうして策を練っていたわけだ」

「しょ、証拠は無いだろ!」

「あるさ。この書類にはお前の指紋がベッタリ付着しているからな」

「うう・・・」

「お前は裁判の直前に大場にこう言った。精神異常を装えば無罪になると。そんなに死刑は嫌いか?」

歪は嘲笑うようにそう言った。

「欲とは恐ろしいものだ。お前を見ているとそう思う」

「ふ、ふざけるな!死刑こそ愚直な判断!無くすべき行為なのだ」

「今のお前が言っても説得力が無い。大場は死刑を望んでいた。しかしお前は今回の事件を利用するために

大場に良からぬ事を吹き込み、無罪へと持って行った。これは列記とした邪道だ」

「お、お前には関係ないだろ!離せ!」

「あるんだよ、俺はある人間から大場を殺して欲しいと言う依頼を受けた」

「な、なに!」

「しかしいざ蓋を開けてみたら、重罪はお前の方だった。大場も確かに重罪だ。しかし大場はもはや精神病院から出られない。

そう言う意味ではこの先有害とは言えない。しかしお前はどうかな」

「くっ・・・・・」

「同じ重罪のお前は今後も暗躍を続ける。死刑廃止などと言う甘ったれた思想を持ちながらな」

「くそっ!!俺は無罪だ、法を犯したわけじゃない!」

「犯してるさ。事実隠滅と言う加害者との凶暴。弁護士である事を盾にして、不当な裁判に仕立てた。有罪だ」

そう言うと歪は手元にあったスイッチを押した。

「な、なんだ・・・」

しばらくすると田宮の両手に刺さっていた注射器の先端から血液が流れ始め、バケツの中に溜まって行った。

「こ、これは・・・」

「そうだ。その血液はお前の血。バケツが一杯になったとき、お前は死ぬ」

「なっ!」

そうしている間にも注射器から血液が抜かれていく。

「持って後5分だろう。お前の命も後5分で燃え尽きる」

「や、止めろ!」

田宮は激しく動き回った。しかし身動きが取れない以上どうにもならない。

歪は持っていた書類を部屋の片隅に置かれていたファックスに設置した。

「この書類は5分後に新聞社へファックスとして送られるようになっている。自動送信だ」

「止めろ!頼む、止めてくれ!!」

「お前にチャンスをやろう。もしお前が生きる道を選ぶのなら、手元にあるスイッチを押し、一連の事実を告白しろ」

田宮は手元を見た。そこにはテープレコーダーがセットされており、録音のスイッチがあった。

しかしそれは自らを自滅に追い込む事になる。

「ファックスの自動送信は止められない。だが、お前が自らの犯した罪を悔い、告白すれば血液の機械は止まる。

生きる事が出来るのだ。さあどうする?生きるか死ぬか、決断しろ」

「う、うわああああっ!!」

田宮の頭はパニックに陥った。もはやどうすれば良いのか見当すら付かない。

「やめろ・・・やめてくれ・・・あああああ・・・」

「惨めなもんだな」


有罪か無罪か。判決を下す決断のゲームが始まった・・・。



4へ続く・・・。



END


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