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第七話 「Guilty or Not Guilty」〜2〜

「田宮弁護士、今回の無罪と言う判決についてどうお考えですか?」

「正当な判断だったと思います。犯行当時、被告人は著しく精神を病んでおりましたし

後の精神鑑定で精神分裂病であることが確認されています。つまり犯行当時、大場被告には責任能力が無かった事を裏付けているのです」

「しかし被害者を殺害しただけでなく、バラバラにすると言う残忍な手段を取った被告人に、無罪とはどうなんだと世論は声を上げていますが」

「そのようですが、正直言って私たち弁護士たちからすればどうだって言い世論ですよ。我々の仕事は弁護ですから」

「田宮さんは死刑廃止運動の会に所属しており、以前からずっと死刑廃止を訴えていましたね」

「その通り、死刑など廃止するべきなのです。例え罪人が死刑になっても、殺された被害者は帰って来ないのです。

それならば加害者は生きてその罪を償い、真っ当に生きるべきだと、こう考えております」

弁護士の田宮は鼻高々だった。世間が注目する裁判で見事勝利を収めたのだ。

しかも自らが訴える死刑廃止を一歩前進させると言う成果まで得られた。もはや感無量である。

裁判所の前で田宮はその饒舌振りを如何なく発揮した。報道関係者がごった返す法廷前では凄まじい熱気が立ちこめている。

そんな賑やかな雰囲気とは別に、裁判所から離れた場所で新山勝次はポケットの中にあるナイフを握り締めた。

どうしても許せなかった。一番憎いのは犯人の大場だが、あのように被害者の遺族を侮辱するような発言を繰り返す弁護士も憎かった。

何が死刑廃止運動だ、こっちは愛娘を殺されて失意と悲しみのどん底にいると言うのに。

あの男は自らの勝利を自らで祝福しているではないか。まるで加害者の勝利だと言わんばかりの態度だ。

勝次はポケットの中でナイフを鞘を外し、ゆっくりとナイフを取り出した。

「お待ちください」

「な・・だ、誰だ!!」

ナイフがポケットから出る直前、勝次の背後で女の声がした。

「ずいぶん物騒な物をお持ちですね」

勝次はハッとした。この女は自分が何をしようとしているのか分かっているらしい。

「あの弁護士を殺そうと言うんですね。だけど無駄です。そんな事をしても貴方が捕まるだけです」

「そ、そうかも知れんが、もはや許せんのだ」

「我々が受けた仕事はあくまで加害者の大場を殺す事。貴方がやろうとしている事は我々の仕事の妨げになるんです」

「・・・・・」

「今日、指定した銀行から入金を確認しました。この時点で我々が仕事を請けることが決ったのです」

「だから・・だからなんだと言うんだ」

「余計な真似はしないで欲しいのです」

「し、しかし!?」

「貴方のやろうとしている事は犯罪。そんな事をして、小春さんが喜ぶと思いますか?」

「・・・あんたは一体・・・」

「私は先日貴方が仕事の依頼をした男の仲間です。いろいろと調べてみたんですが、どうやらこの裁判には裏があるみたいなんです」

「な、なんだって・・」

「勿論、娘さんを殺害したのは大場です。それは間違いありません」

「そ、それじゃ一体何が・・・」

「それを現在調べています。ですがご安心ください。全ての真相を掴み、依頼を果たしたらまた詳しくお話します。

だからポケットの中にある物をしまってください」

「うう・・・・」

勝次はそれに従うしかなかった。確かにこの女の通り、自分が罪を犯しても小春は帰って来ないし、喜ばないだろう。

「分かった」

「良かった。それじゃ、また」

そう言い残し、女の気配は消え去った・・・。


精神病棟に搬送された大場要は、まず最初に適切な検査を受け、その後隔離された病室へと向かった。

精神鑑定は既に終わっている。そのため搬送された今日、再び精神鑑定に掛けられる事は無い。

それは大場にとってホッと胸を撫で下ろす要因の一つだった。

先の法廷、あの時大場は何度心が狂いそうになったか分からない。何度も声無き断末魔を上げ、苦しんだ。

精神鑑定など本当は望んでいなかったのだ。大場はあの少女を殺害した時点で死刑を望んでいた。

勿論死刑は怖かった。人を殺す事は出来ても、自分が死ぬ、ましてや殺されるなど考えたくはない。

人間は自分の都合の良いように解釈し、正当化してから過ちを省みる。

その過程において自分が死刑になることなどなかなか思い付かないものだ。人間はそれだけ傲慢で身勝手だ。

それは犯罪者、健常者関わらず人間全般に言えることだ。何も彼だけではない。

裁判が良い証拠だ。人間は良くないことが起こると、それを自分から遠ざけ、誰かのせいにしなければ気が済まない。

無論、罪を犯したのは大場自身なのだからそれは避けられないが

法廷と言う一種の法律によって、犯罪は正当化され不当な事件にはいち早く蓋をしたがる。

そのため犯人に異常が見つかると、精神異常と言う名目を打ち出し、犯罪者を狂気に仕立てるのだ。

本来人を殺す事自体が異常と言える行為なのだ。そこに加害者の精神状態がどうとか言うべきではない。

しかし現在の日本では「基本的人権の自由」と言うくだらない法が存在する事で凶悪な犯罪が多発する。

そしてその自由を逆手にとった思想が罪無き人間を砕くのだ。

大場にとってそんな日本の現実は痛みを増殖させる種に過ぎなかった。


「ここがお前の部屋だ」

そう言って通されたのは刑務所と同じような独房だった。唯一違うのは窓があり光が差し込むと言うことだけだ。

観察員が出て行くと扉が閉まり静寂が訪れた。大場は頭を抱えながらベッドに倒れ、深い溜息をついた。

「自分を偽る気分はどうだ?」

「えっ・・・」

突然聞いた事の無い声が響いた。大場は部屋を見渡したが誰もいない。

「お前の犯した罪は重罪だ。許されない行為だが、許されない行為をしたのはお前だけではないな」

「だ、誰ですか・・・」

「胸が痛むんじゃないか?お前は死刑を望んでいた。裁判が正当に行なわれていたらお前は間違いなく死刑だった。

しかしそこに邪魔が入った。その邪魔者のせいでお前は死刑を免れた」

誰だか分からないが、この声の主は事の真相を知っている・・・どうして・・・?

「死ぬに死ねない気分はどうだ?」

「どうしてそんな事を聞くんですか!!」

「お前に死以上の苦痛を与えるためだ。誤りたくても誤れない。お前はそんな心境のままずっとここで生きるのだ」

「止めろ、何も言わないでくれ!!」

「辛いだろう。それが後悔、過ちと言うものだ。死を免れた事で生きる事は出来る。しかし記憶は消えんぞ」

「ううう・・・」

大場は両耳を塞いだ。しかしそれでも男の声は響いた。

「後悔しているか?あの少女を殺した事を本当に悔いているか?」

「僕は・・・僕はただ仲良くしたかっただけなんだ・・・誰もいなくて寂しくて・・・誰かに分かってもらいたかった。

最初は殺そうなんて思わなかったんだよ。ただ彼女が暴れだして、どうしたら良いか分からなくて・・・あああ!!」

二度と思い出したくない記憶がフラッシュバックする。殺したときの体温と温もりがまだ両手に残っている。

「お前は有罪だ。本当なら死がお似合いだが・・・・」

「ううう・・・誰でも良い。出来るなら僕を殺してくれ!!もうイヤなんだ!これ以上の苦しみはもう・・・」

「死は安易な道だ。お前には死以上に地獄の苦しみを味わってもらう。死刑にすべき人間は他にいる」

「だ、誰なんだ・・・その死刑にするべき人って・・・」

大場はそう言ったが、もはや男の声は返って来なかった。それが嫌な後味を残す。

「返事をしてくれ!!誰なんだ、誰の事なんだよ!!」


「死以上に辛いもの。それは事実を知らされないまま、犯した罪に死ぬまで悩まされる事だ」


歪の言い残した言葉は、大場には届いていなかった・・。



3へ続く・・・。


END

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