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第四話 「災い」

「お金、ちゃんと振り込まれてたよ」

「そうか」

「それで、生きるチャンスをやろうだっけ?あの男が本当に改心したら殺さずに生かすの?」

「そう思うか?」

「う〜ん・・・今までの経験を踏まえると、答えはNoね」

「どうしてNoだと分かる」

「だって、今までチャンスをやろうって言ってきた相手は、誰一人歪の提示したチャンスをものにしなかったもん」

「クククク・・・冴えてるな」

「長い付き合いじゃない。歪の知らない歪も知ってるわよ」

「女の方はどうだった?」

「良い感じの人だったよ。約束も守ったし。あんな人の良さそうな人が殺しを依頼するとは!!っていう感じ」

「人は見かけに寄らんものだ。だから騙される」

「まあ、それはあるかも」

「今回の依頼は男も悪いが、依頼者にも原因はある。甘ったれた初恋などいつまでも持ち続けるからバカを見る」

「だけど初恋って大事なのよ。女に取っては」

「じゃあなにか?その大事なもののために騙され、孕み、金を奪われても良いと言うのか?」

「そうじゃないけどさ・・・なんていうか・・・」

「世の中には3種類の人間が居る。騙す人間、騙される人間。そして偽善者だ。

このいずれかが無くなっても人間社会は成立しない。つまり無くてはならない人間たちだ。

しかしな、身の危険は自分で守るのが鉄則だ。それ無くして責任がどうとか言える立場ではない」

「・・・・・」

「もっと視野を広げて生きるべきだった。まあ今さら嘆いても遅いがな」

悪を破滅に導く歪だが、だからと言って彼は善に回るわけではない。彼が最も嫌うのが「甘さ」であり

現実から目を逸らそうとする人間そのものだった。目を逸らすからこそ悪が見えず

いざその悪が目の前に迫ると怯えるのだと、歪はそう考えている。

悪いものは即刻排除と言う現在の日本に置いて、彼のような考え方はある意味では理想そのもの。

しかしだからと言って彼のやっている事が許される事ではないのもまた事実だった。

歪と何か討論すると紅麗はいつも勝てない。それもそのはず。現実世界がどうであれ紅麗もまた歪の世界の中に居るのだから。

それに歪の言う事はいつも的を得ている。破天荒な部分もあるし、苦笑いをしてしまうような発言もあるが

彼の言うことをまとめると「甘えるな」「自分で守れ」であり、今の日本人に最も欠けている部分を指摘している。

「でも今回はどうやって殺すの?」

「見てのお楽しみさ。あいつの言う弱肉強食の法則に基づいたやり方だ。既に手は打ってある」


宮地の頭の中から「余命1日」と言う声は消えなかった。

それどころか時間と共に恐怖を伴い。嫌な感触を残していく。

本来なら今日も女の所へ行って金をせびる予定だったのだが、嫌な予感を覚えた宮地は家から一歩も出なかった。

宮地は家から出なければ何事も起こらないだろうと考えたのだ。

外へ出ればそれこそ何処で刺されたり、突き落とされるか分かったもんじゃない。

その点家に居れば余計な災いは無いだろう。用は大きなアクションさえ起こさなければ問題は無いはずだ。

同棲中の秋子ももうそろそろ帰ってくる時間だ。あいつが帰ってきたらまず最初に押し倒そう。

性欲を満たしてから今後の事を考えればそれで良い。

謎の男が言っていたリミットまで残り3時間余り。秋子とのプレイを想像しても、頭から離れる事の無い言葉。

「余命1日」そのリミットが迫っている。

いや、大丈夫だ。今日はもう外に出ない。このままやり過ごせば問題ないはずだ。

「ただいま」

ちょうどその時、秋子が帰って来た。宮路はたまらず玄関まで出て行き、秋子に抱きついた。

「ちょっと、なになに〜」

秋子は笑っている。

「なあ、ベッド行こう。したいんだ」

宮地はそう言いながら秋子の服を脱がしに掛かった。

「ちょっと待って。喉が渇いてるのよ。何か飲ませて、ね。それからでも良いでしょ」

「分かったよ」

「これ買ってきたの」

買い物袋から秋子は缶ビールを2本取り出した。

「一緒に飲みましょう」

「ああ」

そう言えば自分も喉が渇いている事に気付いた。余命1日の言葉に怯え、ほとんど飲まず食わずだったのだ。

宮地は缶ビールのプルタブを開けると、そのまま一気に飲み干した。

秋子も喉を鳴らしながらビールを飲んでいる。

しかし、何故かその表情は不敵に笑っている。

「あれ・・・・なんか眠く・・・・」

意識を失う瞬間に見たのは、ニタ〜と笑った秋子の不気味な笑顔だった・・・。


意識が戻るか否かの境目は快感か不快かのいずれかに別れる。

夢などを見ていた際は不快になり、深い眠りの場合は快感となる。

宮地の感じていた感触は明らかに不快感だった。

全身に痛みが走り、身体中が痙攣している。

そんな中で目を覚ました。

「うはっ!!」

宮地が目を開いた瞬間、その目を狙って強烈なビンタが決った。「ビシッ」と言う音を立てて痛みが走る。

それと同時に巻き起こる「アハハハ」と言う複数の女の声。いずれの声も聞き覚えがあった。

宮地は椅子に縛り付けられており、ビンタの衝撃で椅子が倒れた。それに伴って宮路も転倒する。

両手足をロープで縛られている上に、その上から強力なガムテープでグルグル巻きにされている。

身体は椅子にガッチリと固定され、おまけに金属の金具で止められているため、身動きがまったく出来なかった。

「秋子・・・みゆき・・・恭子・・・里香・・・」

宮地の目の前には現在宮地が騙している女たちが勢揃いしていた。

「バ、バカな・・・ど、どうして・・・・」

「驚いた?そうよね。あんたの騙している女が全員いるんだもの。当然よね」

みゆきが言った。

「よくもまあ騙してくれたわね。まったく気付かなかったわ」

次は里香が言った。

「私は薄々気付いていたけど、まさか自分以外にも居るとは思わなかったわ」

恭子が言う。

「次は私の番ね」

そう言うと秋子は宮地を起こし、持っていた金属バッドを振り上げた。

「や、やめろぉ!なにする気だ!!」

「見ての通り、ぶっ叩くのよ!!」

「ぎゃああああああっ!!」

秋子の振り下ろした金属バッドは、宮地の右腕を直撃した。凄まじい激痛が走る。

「あああああ・・・・な、なんでなんだ・・・どうしてこんなことを・・・・」

「知りたい?」

秋子が言った。宮路は静かに頷いた。

「貴方たち騙されてますよって、ある人が教えてくれたの。その人は私たちが騙されている証拠を持っていたわ」

「写真付きでね。それで私たちは自分が騙されている事に気付いたってわけ」

「これは今まで騙してくれたお礼よ。その人は私たちがどれだけあんたを痛めつけようと警察にはバレないと言ったわ」

「何かあった場合は全て自分が責任を取るから、殴るなり蹴るなり好きにして良いって。良い男だったわ」

宮地は「あの男だ」と思った。あの時、宮地の家で聞こえた声の主だ。

「それであんたを眠らせて、拉致したってわけ」

「そ、そんな・・・・・」

「その人は殺さなければ何をしても良いって言ってたからね。もう少し楽しませてもらうわよ」

そう言うと4人の女たちは縛り付けられている宮路に近づいた。

その手には狂気が握られている。

「や、やめろ・・・頼むよ、お願いだから止めてくれ・・・痛いんだ」

「そう痛いのね、可愛そうに」

恭子は優しくそう言った。だが次の瞬間、握っていた木刀で宮地のスネを叩き割った。

「うぎゃあああああっ!!」

「あ〜らごめんなさい」

「あっ!私もごめんね」

「ぎゃあうわあああああっ!」

里香は謝りながらも持っていたハサミで宮地の耳たぶを切断した。

「私は謝らないわよ」

「がはあああああっ!」

みゆきは平然としながら持っていたメリケンサックで宮地の頬骨を砕いた。

もはやリンチである。宮路の顔は原型を留めぬほど晴れ上がり、血が流れている。

しかしいずれの攻撃も致命傷には至らないため、死には繋がらなかった。それが余計に苦痛を増殖させる。

身動き一つ取れ無い状況で、攻撃を回避する事は不可能。もはや止まるまで耐えるしかなかった。

「分かる?宮地。私たちはもっと痛かったのよ。身体を弄ばれ、金は奪われ、何もかも失った。

本当は殺してやりたいけど、それをやると罪になるから、この辺で許してあげるわ」

秋子はそう言うと、ヘドロを吐き掛ける様に、宮地に唾を吐き掛けた。

「ど、どぼじて・・・ご、ごんなごどに・・・」

「アハハ!!情けない男ね。これだけ痛めつければもう再生できないわよ、きっと」

「もう少し顔を殴っておこうかな」

「あ、私もやる」

みゆきと恭子は部屋の片隅にあった棒切れを手に取ると、二人で勢い良くそれを振り上げ、宮地の顔目掛けて叩き付けた。

「あぎゅあわうえわっ!!ぎゃ、ぎゃべでええ・・・・!?」

宮地の顔はもはや獣のように醜くなっていた。

「ああ、気が済んだわ。じゃあね」

「じゃあね、バカ男」

4人の女たちは高笑い上げなら去って行った。

宮地は項垂れた。どうしてこんな事に・・・。その時、外にある廊下でこちらへ向かってくる足音が響いた。

そして扉が開くと、そこにはウエスタンハットを被り、全身黒尽くめの男が入ってきた。

「ククク・・・まるでバケモノだな、色男」


男の声はあの時部屋で響いた男の声と同じものだった・・・。



END



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