第二十三話 「それぞれの思い」〜5〜
紅麗には両親と一緒に過ごした記憶は残っていない。それもそのはず、紅麗の実の両親は紅麗を産んだ後
交通事故によって他界している。事故当時、車には紅麗も乗っていたのだが
まだ幼い赤ん坊だったためシートと足元の空間に落ちた事で難を逃れた。
紅麗は当時赤ん坊だったのにも関わらず、事故当時の感触は残っていた。
だが肝心の両親に対する記憶はまるで無かった。もし事故後何不自由なく生活する事が出来ていれば
多少なりとも記憶は残っていたかも知れない。しかし、事故後の彼女を待ち受けていたのは
あまりにも辛すぎる現実だった・・・・。
「事故の後私は親戚の間で誰が引き取るのかでかなりもめたらしいのね。ウチの家計はどっちも裕福じゃなかったから
経済的にも厳しいのが現状だったみたいでさ」
「何処にでもありそうな家庭だね。裕福よりも貧しい家庭のほうが多い」
「うん。だけどウチはその極端な例だったと思うよ。今思うと笑っちゃうけど、着る服2着しか無かったんだよ」
「マ、マジ?」
「うん!それに財布とか持ってなかったんだよ、初めて自分の財布持ったの高校生の時だし」
「それはちょっと極端だな」
シンは苦笑いを浮かべていた。
「でしょ?すんごいビンボーよね」
紅麗も笑っていた。
小学校に入学するまでの間、紅麗の引き取り先は決らず児童施設で過した。
小学校へ入学すると彼女の引き取り手が現れた。それが最終的に紅麗の両親の役割を果たした二人だった。
紅麗とは遠い親戚に当たる存在で見た目は何処にでもいそうな夫婦だった。
そのため、引き取る際の施設側の審査も問題なく通過した。しかしその事実が後の悪夢を引き起こす引き金になってしまったのだ。
引き取った当時はまだ良かった。それなりの生活が出来たし不自由する事も無かった。
だが引き取られて3年目、一つの転機が訪れた。
当時この夫婦が経営していた企業で汚職事件の内部告発が起こり、会社は倒産に追い込まれてしまった。
刑事責任を問われる自体にまで発展した二人は、当然従業員からの強いバッシングにあった。
倒産に伴い、解雇した従業員の再就職先はどうなるのか?責任は取れる?などがメインだった。
実際に汚職は行なわれており、この夫婦は巨額の金をかすめていた事実が発覚し逮捕されてしまった。
一人残された紅麗はたまったもんじゃない。二人が逮捕された当日の夕方、ガラの悪い数名の男たちがやって来た。
どうやら従業員たちとの繋がりのある暴力団組員のようだった。
本当なら二人を恐喝して金を奪おうと言う目的だったのだが、いざやって来るとそこに金目のものは無く
あるのは残された幼い少女のみだった。これでは何の意味も無い。
そこでこの数名のヤクザたちは幼い紅麗を組に連れ去った。
金目の物は無くても女は役に立つ。それが何を意味するのかこの時点では紅麗には分からなかった。
中学に上がるまでは普通だった。周囲にいるヤクザたちも紅麗の面倒を良く見ていたし、学校にも通わせてくれた。
着る服もある、お金もある程度はある。幼い頃から心に深い傷を持ち続けている紅麗にとって
ヤクザに拉致され、そこで育てられると言う辺境の生い立ちは、別に特異なものだとは思わなかった。
しかし、中学3年にもなるとそれまで普通だった組員たちの態度が豹変。
女の中学3年ともなれば発育の進む時期である。組員たちの淫らな視線が向けられるようになったのだ。
そしてその視線は視線だけに留まらず、とうとう一線を越えてしまったのだ。
連中はこの時を待っていたのだ。紅麗が成長し、順調に発育するこの時期を狙っていた。
女一人の力ではどうにもならない。複数の組員たちから押え付けられ、服を剥ぎ取られる。
泣き叫んでも助けなど来ない。何故なら組員全員がその場に集まっていたからだ。
文字通り紅麗は「廻された」全裸にされ淫らな格好をして喘ぐ日々・・・・。
組員からは予め避妊具の一つであるピルを飲まされていた。これによってどんなに膣内で射精されても妊娠はしない。
一度に15人以上の男を相手にする時もあった。その度に紅麗の心は砕かれ、肉体は白い欲望で汚された。
愛などない、誰とも知れない男たちとの淫らな宴。
知性も、理性も、自尊心も、全ての心と理は破壊され、ただ欲望を受け止めるだけの女に成り下がった。
いつ終わるとも分からない女として最悪の悪夢が現実へと姿を変える。
耐え難い屈辱の中で、紅麗は何度も自殺を試みた。だがその度に生への執着心が邪魔をし、成し遂げる事ができない。
代わりに大きくなったのは、憎しみと言う巨大な殺意だった。
話しながら紅麗は泣いていた。そんな姿を見ているシンの視線が少々痛む。
淫らな女だと思われているに違いない。淫乱だと思っているかも知れない・・・。
「ごめんね、だから私綺麗な女じゃないの。本当は汚れ過ぎている女なのよ」
シンに動揺している様子は無かった。ただ話を続ける紅麗を見つめている。とても優しい眼差しで。
紅麗は話を続けた。
「そんな生活は1年間続いた・・・・正確に言うと、1年間で終わらされたと言う方が正しいかな」
その夜も組員たちの性欲を満たすため、紅麗はベッドの上で喘いでいた。
今となってはもう痛みも感じない。その最中は出来るだけ自分を出さないように心掛けた。
「犯されている自分は本当の自分では無いんだ」そう思うことで激痛を苦痛に変えることが出来た。
その分、紅麗の心は壊れ、もはや再起不能に近いまでに達していたのだが・・。
しかし今夜はいつもと違った。何が違うのかを表現する事は難しいのだが、雰囲気が違うのだ。
だが組員たちはそんないつもと違った空気など察していない。エスカレートした行為は徐々に過激になり
紅麗はベッドの両脇、四方から鎖で拘束され、磔の状態となった。
その上から男たちが覆い被さり、紅麗の下半身で欲望を満たしていく。
紅麗が本当の自分を隠すために、閉じていた目を静かに開いたときだった。
「うぎゃあああああああっ!!」
「な、なんだお前は・・・ごえあああああっ!!」
「なんだ!!」
「悲鳴だ!!」
廊下のすぐ向こうで断末魔の如き悲鳴が上がった。組員たちはベッドの脇から拳銃を取り出し、一斉に廊下へ出て行く。
その度に凄まじい悲鳴が轟き、時折液体が飛び散る音が聞こえてきた。
「がああああっ!!」
「ああああ・・・な、なんだよ・・・お前は・・・・」
静かにドアが開かれた。こんな事は今まで一度も無かった。察するに誰かが侵入してきた様子だった。
しかし部屋は暗がりになっており、開かれたドアから誰が入ってきたのか良く見えない。
最後に部屋に残っていた4人が一斉に飛びのく、そして拳銃を構え引き金を引こうとした瞬間
凄まじい悲鳴が上がり、4人分の血液が天井に飛び散った。
「ああ・・・ああああ・・・だ、誰・・?・・・」
両手足を縛られている紅麗は起き上がることも出来ない。おまけに全裸だ。ほとんど丸腰同然である。
薄闇の支配する部屋に革靴のコツコツと言う音が響く。その音はなんとも不気味な雰囲気を醸し出していた。
足音はベッドの右側で止まった。紅麗は必至で目を開き、自分を見下している相手を見た。
しかし部屋が暗すぎてそれが誰なのか分からない。
しばらくすると突然、拘束されていた両手足の鎖が砕けた。どうやら見えないこの相手が鎖を切断したらしい。
自由になった紅麗は咄嗟に身を引き、ベッドの脇にあったライトのスイッチをオンにした。
「あ・・・・あ、貴方は・・・・・」
そこにはウエスタンハットを深々と被り、真っ黒なスーツで身を包んだ男が立っていた・・・。
6へ続く・・・。
END