第十八話 「心螺旋」
「シン・マイズナー。父親は中国人で母親はフランス人。2年前まで中国の暗黒社会でその名を馳せていたチャイニーズマフィア
ブラッディ・マリーのリーダー。今は現役を退いて裏社会で暗躍中。「中国版、天誅、死神」と言われ一躍有名に。
歳は30歳。ふ〜ん、私より年上か・・・。妻子は無く独身。歪とは昔から付き合いがあり、同じ殺し屋家業。
なるほど、通りで中国っぽいな〜と思ったよ」
紅麗はテーブルに頬杖を付きながら読み終わった書類を置いた。
「そう、残念ながら、誠に残念ながら妻子が居ないんだ。もし良かったら僕と結婚してね!」
シンはそう言うと紅麗の両手を取った。
「イヤよ。触んないで」
そう言うと紅麗はシンの両手を振り払った。
「ガーーーーン!!そんな〜即答しなくても良いじゃない!!それに投げ捨てるのは止めてぇ!」
「はいはい」
紅麗は半ば呆れている。なんなんだ、この男は・・・それが紅麗の感想だった。
「くうう・・・・紅麗ちゃんはガードが固い!!こんな良い男が目の前にいるのに」
「自分で言うか?普通。確かにイケメンだとは思うけど、私は外見で判断する女じゃないの。
それに、初対面同然で手を握ってくる男なんてタイプじゃないわ」
「んがっ!!」
それはシンが石になった瞬間だった。
「ハ、ハッキリ言うな〜でも、だからこそ落とし甲斐があるのだ!!どわははははは!!」
シン・・・何処までも前向きな男だ。
ザスターとの死闘の後、3人はパトカーのサイレンを聞きながらアジトに戻ってきた。
現場には例のように「天誅、死神」と書かれた紙を置いてきた。と言ってもシンが無理矢理置いたのだが・・。
そのうちマスコミがまたもや死神事件が発生と、まくし立てるだろう。
そんな中、帰ってきて早々に紅麗はシンのプロポーズを断わったわけだが・・。
明らかになったことがあった。それは歪が追っている麻薬組織の名前が「心螺旋」であると言うことだった。
それに涼風杏里から得た情報を重ね合わせると、どうやら単なる麻薬組織ではないようだ。何か裏がある。
それはザスターの異様振りを見れば一目瞭然。ヤツは致命傷を負いながらも死ななかった
それに麻薬を「魔薬」と呼んでいた。魔薬とは一体・・・。
「シン、お前どうして日本に来たんだ?」
「今さら説明する必要も無いと思うが、心螺旋を追って来たのさ。連中が勢力を拡大し、本格的に日本のマーケットを置くと言う話を聞いたもんでね」
「何で心螺旋を追うの?」
「別に理由は無いよ。ただ仲間が数人連中に殺されてね。そのバックにはいつも心螺旋があった」
「天誅会にも背後には心螺旋・・・。なんかヤバそうな雰囲気ね。ところでさ・・・・」
紅麗はそこで言葉を区切った。
「歪は今まで何してたの?ずっと居なかったよね」
「心螺旋からの生き残りが日本にいると言う情報を掴んでな。会いに行っていた」
「心螺旋からの生き残り?」
シンが目を細めた。
「名前は涼風杏里。彼女は2ヶ月前まで心螺旋のメンバーだったが、次第にエスカレートする組織のやり方に付いて行けず
退会を申し出たそうだ。だが組織は彼女をただでは退会させなかった」
「どういうことだ?」
「実は・・・・」
歪は杏里とのやり取りをそのままシンと紅麗に説明した。
「なるほど。しかし妙だな。なんで組織は彼女を殺さなかったんだ?」
「俺にも分からん。だが彼女には特殊な能力がある。それと関係しているのかも知れん」
「凄いね。一度も会ったことがないのに、遠くはなれた場所からも私の危険を察知するなんて」
「記憶と光を失った少女が。心螺旋は一体何が目的なんだ」
「今のところ詳しい事は分かっていない。だが何か裏がありそうだ」
「それにあのイカレ教祖ザスターの異様振りにも気になる」
「あ、それならちょっとだけ何か分かるかもよ」
そう言うと紅麗はパソコンの電源を入れた。シンと歪はパソコン画面に近づいた。
「あの時気になったからザスターの写真を撮っておいたのよ。これをパソコンに取り込んで内視鏡にリンクさせれば
ザスターの体内がある程度見えてくるよ」
「ほへぇ〜紅麗ちゃん凄いね」
「へへ、これくらいはね♪」
そう言うと紅麗は早速取り込んだ画像を予めパソコンに導入してあった内視鏡に置いてみた。
一見すると変わった部分は見当たらない。だが頭蓋骨の断面図に画像を切り替えると、妙な部分が写った。
「なんだこれは・・・」
歪が言った。
「これ、注射の跡よ」
「注射?」
シンが紅麗を見ながら言った。
「うん、頭皮から直接撃ったんだわ。信じられない、この画像を見る限り、注射器の針は脳まで達している」
「なるほど、何となく分かってきたな」
「何がだ?」
シンが歪に聞いた。
「ヤツが言っていただろ、魔薬だと。この注射の跡は恐らくその魔薬を撃った跡だ。紅麗、脳波を調べてくれ」
「分かった」
紅麗は画面を切り替えた。するとおかしな数字が表示された。
「おかしいわ、アドレナリンの分泌が異様に多い。こんな数字普通じゃないよ」
「恐らくヤツが作った魔薬と言うのは脳内のアドレナリンを異常なほど高める効果があるんだろう。
他にも何か影響があるんだろが、延命に役立つ何がある。それでヤツは死ななかった。
いや、一時的に死ぬことを免れた」
「ザスターは心螺旋の下っ端って聞いてるぜ。そんな下っ端がこんな事をしていたとなると・・・」
「ああ、少なくとも心螺旋もこういう人の道から外れた事をするのが目的だろうな」
「冗談じゃねぇ、これじゃまるでゾンビじゃねぇか」
「神をも恐れぬってヤツね、考えただけでゾッとするわ」
「だが俺たちが得た情報はあくまで心螺旋の一部に過ぎん。日本にまで手を出した理由も明確ではない。
この先連中が何らかの動きを見せる事は確かだ。俺たちが連中を追う限り、いつかその時がやって来る」
「合間見えるとき・・・つまり戦のときってヤツか」
シンの言葉に、歪は頷いた。
「これからどうする?」
紅麗が聞いた。
「特に何もしない、いつも通りだ。その時は必ずやって来る。必要最低限の情報を入手しておけばそれで良い」
「いつか殺し合う運命ってわけか」
「俺たちが連中と関わっている限りな」
これは幕開けに過ぎない・・・・。そんな雰囲気が三人を包んでいた。
いつか来るであろう心螺旋との戦い。それは回避できない宿命になるだろう。
「て言うか、歪さ。私が危険な目に合っているとき、女と会っていたんだ。
ふーん・・・ねぇ、どんな女?可愛いの?それとも綺麗なわけ?ねぇってば!!」
「紅麗ちゃん・・・目に殺気が・・・」
「シン、なんか言った?」
紅麗の目が座っている・・・。
「な、なんでもありましぇーん」
前途多難・・・いろんな意味で大変な展開になりそうである。
ちゃんちゃん♪
END