第十七話 「新興宗教」〜8〜
「き、貴様・・・・何者だ!!」
「これから死ぬヤローに名乗る必要はねぇな」
両手に刀を持った二刀流の男は自信たっぷりの表情でそう言った。
「なんだとっ!!」
「てめぇは所詮は心螺旋の使い魔に過ぎねぇ。小悪党を殺ったところで何の意味もないが、始末しておかないと後々厄介だからな」
「心螺旋の事を知っているのか・・・」
「まあな。何かと縁のある連中でね」
心螺旋・・・・紅麗には何の事か分からなかったが、何かの組織の名前である事は分かった。
「大丈夫かい?」
二刀流の男は紅麗に言った。
「大丈夫・・・。貴方は一体・・・・」
「うひょー!改めて見るとやっぱり可愛いな!もっと早く出てくるべきだったかな」
「へっ?・・・・」
なんなんだ、この男は・・・紅麗は思わず気が抜けた。
「いやぁ、実はずいぶん前から隠れてたんよ。だけど君がどうなるか先が気になってさ。
もしかしたら裸になるかも知れないじゃん?そう思うと出るに出られなくてさぁ〜」
男は少年のようにオドケテイル。なんだこのお笑い的なノリは。
「つまりあんたは私が捕らわれているの知ってて隠れてたわけ?」
「そだよ」
「そだよじゃない!!可愛く言えば良いとか思ってんでしょ!居るんなら早く助けなさいよ!!」
「だってぇ〜勿体無いじゃん。せっかく無料で裸を拝めるかも知れないのに」
「こ、こ、この・・・!!!」
紅麗の目が炎に変わった。
「じょ、冗談ですがな〜もうジョークだって」
「冗談に聞こえないっつうの!!」
その時、ザスターが男に詰め寄り、隠し持っていた剣を引き抜いた。
「おっと!」
「チッ!」
だが男は楽に交わした。
「君はそこにいな。すぐに終わる」
男はニヤリと笑って言った。
「すぐに終わるだと・・・?」
「ああ、そうだ。お前は今ここで死ぬ」
「ふざけやがって!!」
怒り狂ったザスターは斧を振りかざして男に襲い掛かった。
しかし男は強かった。狂ったザスターの猛攻を意図も簡単に受け流し、刀で斬り付ける。
「ぐうう・・・・」
「口ほどにも無かったな」
男が刀を振り上げたとき、ザスターは袖口から手榴弾を取り出し、そのまま投げ付けた。
「まずい!伏せろ!!」
「えっ・・・・ぎゃあああああっ!!」
その瞬間、凄まじい爆風と共に手榴弾が爆発した。紅麗は壁に叩きつけられたが幸い軽症だった。
「おい、大丈夫か!」
「なんとか平気。あいつ、逃げたわ!追って、私は大丈夫だから」
「かわい子ちゃんを放って行くのは俺の流儀に反するんだが、今回は仕方ない」
男はそう言うとザスターの後を追った。
「変な男・・・・」
「紅麗!!」
男がザスターを追って階段を上がって行った時、歪が部屋に入って来た。
「歪!!どうしてここに」
「無事のようだな。ザスターはどうした?」
「それが変な男が登場して、今まで戦っていたんだけど逃げちゃって、彼追いに行ったわ」
「男・・?・・」
「そうなのよ!ニ刀流の男。ドラゴンの爪を象ったピアスして、プラチナで出来たロザリオのネックレスしてた。
パッと見は結構イケメンだったけど、一人で大丈夫かな」
「ニ刀流の男!?」
歪は驚いている。どうやら何か知っているらしい。
「歪、知ってるの?」
「ああ、ちょっとな」
そう言うと歪はコートの中から愛用のショットガンを取り出して走り出した。
「あ、待って!私も行く!」
「こざかしい!!」
男はザスターに追い付き、攻撃に転じていた。だがザスターもバカではない。男の刀を交わしながら反撃に転ずる。
持っている斧は空を切るが、徐々に男に詰め寄って行った。
「てめぇのその腕は魔薬の影響か!?」
「そうだ。私が発明した傑作だよ。心螺旋に対抗するための最終兵器だ」
「腕切り落としたのに死なねぇとはな・・・」
男はザスターの斧を受け止めながら言った。
「てめぇの主は心螺旋だろ。裏切るのか!?」
「裏切るも何も無い。私は最初から心螺旋になど興味は無かった。私は私だけで革命を起こす」
「革命だと?」
「そうさ、こんな風にな」
「な、なにっ!!」
男の背後は壁だったはず。しかしその壁を打ち破って数名の信者たちが男の手足を掴んだ。
「な、なんだコイツら!!」
信者たちの顔は明らかにおかしかった。皮膚の色は紫色に変色し、両目は虚ろになっている。
「ゾンビ・・・とまでは言わないが、魔薬によって生きる屍と化した狂信者たちだよ」
「うぐおお・・・」
信者たちは男の手足を凄まじい力で押さえつけた。これでは動く事ができない。
「ケッ!なるほどな。心螺旋の目的が何となく見えて来たぜ。やっぱり単なる麻薬組織じゃないな!!」
「私に取ってはもうどうでも良い事だよ。さあ、終わりの時間だ」
ザスターは持っていた斧を振り上げた。
「ここに来た事を後悔し、そして死ね!!」
「クソッ!」
「死ぬのはお前だがな」
男が「えっ・・」と思ったときには既にザスターは真横に吹き飛んでいた。
男の視界にはウエスタンハットを被った男と、先ほど下の階で会った女が飛び込んできた。
歪は持っていたショットガンをザスターに連続して打ち込んだ。頭、胸、腹、両腕。
更に歪は男を拘束していた信者たちに強烈な蹴りを食らわさせ蹴散らした。
「良いところで出てくるのは昔と変わらねぇな」
「お前も人の事言えないだろう。最初から潜んでいるとは悪趣味だな」
「えっ・・・ちょっと待って、なに?二人とも知り合いなの!?」
「まあ、ちょっとしたあれだ。腐れ縁ってヤツだ」
「お前と縁を持ったつもりはないがな」
歪がそう言ったとき、倒れていたザスターが突然起き上がった。
「な、なにっ!!」
「ぐふうう・・・・て、天誅、死神だな・・・ハハハ、お前があの悪名高い死神か・・・」
「嘘!!頭を射抜かれてどうして!!」
紅麗が叫んだ。
「気をつけろ歪、コイツ普通の人間じゃねぇ!」
男は持っていた刀を構えた。
「ドラッグか・・・」
「い、い、い、いかにも・・・ぐふう・・・我々の研究の結集だ・・・」
「お前心螺旋の者だな。何故心螺旋は日本に来た?」
「勢力拡大・・・それが心螺旋の目的・・・ぐふ・・・か、革命のときが・・・来た・・・」
「革命だと?」
「さっきも同じ事言いやがった。多分、他にも目的があるんだと思うが」
男がそう言った。
「聞け・・・天誅、死神・・・」
「なに・・」
「お前たちはもう、逃れられない運命だ・・・いずれあの方たちがお前たちを殺しにやって来る・・・
その時まで・・・せ、せいぜい・・・楽しんでおく・・・んだな・・」
ザスターの皮膚が爛れ、眼球が零れ落ちた。恐らく魔薬の副作用だろう。
「ううう・・・気持ち悪い!!」
紅麗が呻いた。
「俺が殺されるだと?笑わせる」
「うごおえ!!」
歪はショットガンでザスターの額を打ち抜いた。その瞬間、ザスターの頭部は完全に吹き飛んだ。
「心螺旋か、殺されるのはお前たちの方だ」
そして静寂が訪れた。
「まさかお前が日本に来ているとは思わなかった」
「ちょいと野暮用でね」
「野暮用だと?お前も心螺旋を追っているんだろう?」
「あら、バレてたの」
「当然だ」
「ちょっとちょっと!!二人とも知り合いなわけ?」
「俺の名前はシン・マイズナー。歪とはまあ言ってみれば同業者だ」
「俺たちと同じ裏社会で生きている。元はチャイニーズマフィアを束ねていた男だ」
「つうわけで、よろしく!!」
シンはおどけた表情でそう言った。
それは新しい仲間が加わった瞬間でもあった。
END