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第十六話 「新興宗教」〜7〜

真奈美たちの攻撃は紅麗に致命的なダメージを与える事は出来なかった。

毎日のように歪と共に殺人と言う仕事をこなしてきた紅麗は、それなりの武術を身につけている。

媚薬とドラッグ漬けにされた二人の攻撃などほとんど受けることは無かった。

「どうしてなの・・・どうしてこんな事になっちゃったの!?」

紅麗は二人の攻撃を受け止めながら言った。

「分かったような事を。こうなる運命だったのよ」

「今さら言ってももう遅いわ。後戻りは出来ないんだから」

「昔は私と巴と一緒に遊んでいたのに・・・カラオケ行ったり、買い物行ったりしたのに。

それがどうしてこんな事になっちゃうのよ!」

紅麗は悲しかった。どうしてかつての旧友と戦わなければならないのか。あれほど仲の良い関係だったのに。

「それはあんただって同じでしょ、紅麗」

「えっ」

「あんただって今は天誅、死神側にいる人間。変わったのは私たちだけじゃない。あんたも十分変わったのよ」

「私は・・・・」

「そうよ。殺人の片棒を担いでいるんだもの、私たちよりもタチが悪いじゃない」

「違う!!私は誰も殺してない!」

「同じ事よ。殺しているのは天誅、死神。あんたはその影に隠れているのよ」

もはや返す言葉が無かった。確かにその通りなのだ。変わったのは彼女たちだけではない。紅麗も変わったのだ。

これに関しては今でも頭を悩ませている。苦悩している。一体何処でどう変わってしまったのか。

自分が悪いのか?それとも歪が悪いのか?いや全ては運命のせい。紅麗が歪と出会った時点で既に運命の歯車は狂い始めていたのだ。

「あの時」紅麗は歪と出会わなかったら何一つ変らずに、失意のどん底から抜け出す事など出来なかっただろう。

だから変わったのは紅麗も同じなのだ。いくら悪人限定とは言え、殺人の片棒を担いでいる。

それは払拭できない事実だった。

「これで決めるよ」

真奈美と琴音は紅麗から離れた。そして改めて聖龍刀を握り直した。

「私も確かに変わった・・・・変わるしかなかった。だから殺人の片棒を担いでいると言われればその通りよ」

紅麗がそう言うと、真奈美と琴音は両サイドから一気に飛びかかった。

「だけど・・・・だけど私は自分を売ったりしない!!!」

「きゃああっ!」

「ぎゃああっ!」

紅麗のトンファーは見事に真奈美と琴音の喉を捕らえた。同時に顎にもダメージを与えており、二人は脳震盪を起こし、床に崩れ落ちた。

「私のやっている事は間違っているかもしれない。だけど私は自分を変えたりしない。私は私」

紅麗の両目から大粒の涙が零れた。心を傷つけられた者が流す真の涙だった。

「素敵な言葉だ。自分を売ったりしないか。上出来だね」

「えっ・・・あっぐううっ!!」

目の錯覚か・・・紅麗の背後、それも少し離れた場所にザスターが立っており、その腕が紅麗の首を絞めに掛かった。

まるで腕が伸びているように見える。

「さすがに天誅、死神サイドの人間ともなるとお強いね。恐れ入ったよ」

「な、なんなの・・・・こ、この腕は・・・」

「これかい?これは偉大なる我々の知識によって成せる業だ。改良に改良を重ねた傑作だよ」

そう言ったザスターの顔はとても人間の顔色とは思えぬ色をしていた。

「あ、あなた・・・まさか、じ、自分に麻薬を・・・・」

「その通り。心螺旋が何をやろうとしているのかは知らんが、私が独自で開発した新種のドラッグだよ。

人間を超越する魔の薬、魔薬とでも言おうかね」

「ぐ、ぐ、ぐうう・・・・」

紅麗の首を絞める力は緩まない。

「密かに研究していたんだよ。これで心螺旋を唸らせる事が出来ると思っていたんだが

まさか君のような女一人に邪魔をされようととは思わなかったよ」

「ああああっ!!」

締め付ける力が強まった。

「君のような優れた肉体を持つ人間を殺すのは少々惜しいが、事実を見られてしまったからには仕方ない」

「ひ・・・・歪・・・・」

「これで終わりだ」

ザスターは左腕を天高く振り上げた。手には斧が握られている。

「死ね!!」

紅麗は目を閉じた。もはやこれまでか・・・。

「そう上手くは行かないぜ」

「な、なにっ!!」

聞き慣れない声が響くと、ザスターの真隣で風が巻き起こった。紅麗の髪がその風によってなびく。

「ぎゃああああああっ!!!」

「きゃああっ!」

凄まじい断末魔と共に、ザスターの右腕が切断され、紅麗はその勢いで後方へと吹き飛んだ。

切断されたザスターの右肩からは夥しい鮮血が飛び散った。

「かはっ!はあはあ・・・・」

紅麗は締め付けられていた首を手で押さえながらむせた。

「ようやく見つけたぜ。まさか日本にまで手を伸ばしているとはな」

やはり聞いた事の無い声だった。

「貴様・・・一体何者だ!?」

「だ、誰なの・・・」

紅麗は頭を上げ、前を見た。

そこにはカーキー色のコートを羽織った男が立っていた。目鼻立ちの整った瑞々しい黒髪。

ドラゴンの爪を象ったプラチナのピアス。胸には同じくプラチナで出来たロザリオのネックレス。

右手には柄の無い日本刀、左手にも同じような刀が握られている。


「可愛い子に涙は似合わねぇ。悪霊退散と行こうか」



8へ続く・・・。



END

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