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第十二話 「新興宗教」〜3〜

「天誅会に入会するという事は、単に救いを得られると言うことだけではなく

人間本来の本質を見直すと言う時間を得ると言うことです。天誅、死神様は世の中の悪事を絶つために

日々あらゆる悪事と向かい合い、そしてそれを排除しているのです」

天誅会の教祖「ザスター」が何か言葉を発するたびに、会場には大きな拍手が巻き起こった。

「悪事はいずれ絶たれると言うことです。だから皆さんも悪事を働かぬよう、心がけ、そして生きていく事が大切な事なのです」

「死神様、万歳!」

「死神様に光あれ!」

教祖のザスターもそうだが、紅麗はこの異様な雰囲気に包まれているだけで気分が悪くなった。

紅麗は本来神など信じていない。信仰にはまったく興味が無かった。

「ザスター教祖に栄光を!」

「ザスター教祖に栄光を!」

教祖のザスターはもはや神だった。信者たちはザスターの教えを信じ、そして崇拝している。

本来崇拝するはずの天誅、死神よりもウエイトは大きいようだった。

「紅麗!」

「真奈美、琴音!」

歓迎会が終わった後のパーティ会場で、紅麗はかつての旧友、真奈美と琴音に再会した。

「紅麗も入ったのね」

「う、うん。まあね」

「どう?楽しんでる?」

「今日からだからまだちょっと緊張してるよ」

「そのうち慣れるわ。天誅会は最高よ」

真奈美と琴音が交互に話した。

なるほど、巴の言っていた事はあながち間違ってはいなかった。

真奈美も琴音も何処か艶っぽくなっている。学生時代はあれだけ地味な雰囲気を持っていた彼女たちが

突如として妖艶な雰囲気に変わる事など、通常は考えられない。

外見的な妖艶さを纏う事は出来ても、人間本来の本質まではそう変わるものではない。

二人はその本質までもが変わってしまっている。それは女ならではの紅麗の直感がそう語っていた。

「貴方ですね、新しく我が会に入会されたのは」

「えっ・・・」

突然話しかけられ驚いた紅麗の後ろに、教祖のザスターが立っていた。

「ザスター様」

「ザスター様」

真奈美と琴音は自らの前で十字を切り、ザスターの前に跪いた。

「お名前をお聞かせいただいても宜しいでしょうか?」

「夜美也 紅麗と言います」

「紅麗さん・・・実に美しくお綺麗な名前だ。美しい方は名前までも美しいのですね」

歯が浮きそうだった・・・。イマドキこんなセリフを吐く若者は居ない。

紅麗は首筋が痒くなりそうだったが、どうにかそれを抑えた。

「我が会の方針はお聞きになりましたか?」

「い、いえ・・・まだなんですが」

「そうですか、ではこちらをどうぞ」

ザスターはそう言うと小さなパンフレットを取り出し、それを丁寧に紅麗へと差し出した。

「全てそちらに書かれてます。貴方も今日から天誅会の一員です。我が同士ですよ」

「は、はい」

「それではパーティをお楽しみください。また近い内お会いするでしょう。失礼します」

そう言うとザスターは去って行った。

「光栄な事よ。ザスター様のほうから話しかけてくるなんて」

「そうなの?」

「ええ。凄い事だわ。紅麗気に入られたのよ」

ありがた迷惑だ。そう思ったが紅麗は口にしなかった。

「そうだ。施設内はまだ見て無いわよね」

「うん。なんせ今日からだから」

「だったら案内するわ」

「行きましょう」

半ば強引に紅麗は真奈美と琴音に連れられ、施設内へと向かった。


「どうして二人は天誅会に入ったの?」

紅麗は確信となる部分を率直に聞いてみた。どんな反応を示すか気になったのだ。

「救いが必要だったからよ。天誅会に入る前は絶望だったから」

「私も同じ。生きる事に迷っててね・・・・でも天誅会に入ったら道が開けたわ」

「貴方もきっと心底美しく慣れるわよ」

「そうよ。自分以外の存在が全部醜く見えるほどにね」

二人の言動は明らかに妙だった。いくら高校卒業から3年が経っているとは言え、こんな事を言う人間ではなかった。

それに二人の目はやたらとギラついている。これは幸福感を内側から感じているときに滲み出る

人間の輝きではない。明らかに人為的に施された輝きに見える。

二人が案内した施設は手入れが行き届いており、とても清潔だった。

礼拝堂から寝泊りの出来る施設まである。入会しているのがほとんど女性である事から

女性信者専用のマンションまであるのだ。ずいぶんと金の込んでいる団体である。

夕方になると再び会場にザスターが現れ、祝賀会を収める言葉を残した。

信者たちはその一言一言を胸に秘めるような仕草でザスターを見ている。

どの目も潤んでおり、心から陶酔している様子が伺えた。

パーティが終わると、紅麗は別室へと通された。そこには真奈美と琴音がいた。

「お疲れ様、座って」

「何をするの?」

「別に何かするって分けじゃないわ。新しく入会した人には2、3質問があるのよ。私たちはそれを担当しているの」

「そうなんだ」

「うん、だから座って」

「うん」

テーブルの上には綺麗な色をした緑茶が綺麗なグラスに注がれていた。

「どうだった?天誅会のパーティは」

「え、ああ・・とても良かったよ」

紅麗は苦笑いを作った。

「いろいろと歩き回って疲れたんじゃない?」

「そうね。歩いたり喋ったりしたから、ちょっと疲れたかな」

「お茶もあるからここからはまったりと行きましょう」

「そうだね」

そう言うと紅麗は目の前にあるお茶を口に含んだ。しかし口に含んだ瞬間、奇妙な違和感を感じた。

それは以前、歪が言っていた味とまったく同じ味だった。

「これって緑茶?なんだか妙な味がするね」

「ああ、それは高級品なのよ」

「そ、そうなん・・・だ・・・・」

紅麗の意識は徐々に薄れる。

「ええ、そうなのよ。もう少しで貴方も楽になれるわ・・・・」


次の瞬間、紅麗の意識は途切れた・・・。



4へ続く・・・。



END

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