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第十話 「新興宗教」〜1〜

「ぐはっ!!」

男は壁に叩きつけられ、力なく項垂れた。呼吸は激しく乱れており、身体は至る所から血が流れている。

全身黒尽くめの男・・・それ以上の情報は得られていなかったが、組織の中で囁かれていた男はこの男だろう。

ブラックレザーのロングコート、頭にはウエスタンハット・・・間違いなかった。

「お前たちの目的は一体なんだ」

歪は自分の目の前で項垂れる男を見下し、そう言った。

「日本で何をしようとしている」

「があっ・・・」

歪は項垂れる男の首を掴み、軽々と持ち上げた。

なんと言うことだ。30もいた仲間が全員殺されてしまった。一体この黒尽くめの男は何なんだ・・・。

「どうあっても喋らんようだな」

「お、お前には関係の無い・・・事だ」

「関係ある、無いは俺が決める事だ」

「よ、世直しのつもりか?天誅、死神・・・」

「ほう、俺を知っているのか」

「当然だ・・・お、お前は我々組織の中では・・・有名だからな」

「それは光栄だ。言え!お前たちの目的はなんだ」

「へへへ・・・例え知っていても・・・言うものか」

「そうか、なら死ね!」

「うっ・・・」

歪は男の首の骨をへし折った。男の口からは大量の血が流れ、やがて動かなくなった。

「連中の目的は何なんだ・・・・」

歪は静かに呟いた。


その組織が裏社会で暗躍を始めたのは今から半年ほど前の事だった。

最初は単なる麻薬売買の斡旋やブローカーとの取引が目立つ悪事を繰り返していたが

様々な情報を元に、詳しく調べてみるとかなり巨大な組織の存在があった。

現在日本で暗躍しているこの組織は小規模なもので、本体となる本部は東南アジアを拠点としている。

インドネシアや中国、ニュージーランドやオアフ島などに住を置き、裏社会で蠅のように飛び回っているらしい。

連中の組織名はまだ不明だが、各国の警察機関は既にその存在を認知しており、極秘に捜査が進めらている。

それでも組織壊滅と言う言葉が上がらないのは、かなり巨大なマーケットを支配している証拠である。

彼らは各国のブラックマーケット、いわゆる「闇市場」を多数所有しており、定期的に開催しているようだ。

そのメインとなるがドラッグと人身売買、そして裏市場で取引される人間の臓器である。

連中はそれらを資金源としており、時間と共に組織は巨大化の一途を辿っている。

既にアメリカやスイス、カナダ、ロシアだけでなく、ヨーロッパ諸国にも進出しており

かなり広範囲に渡って活動の幅を広げていると言う情報もある。

日本ではまだ小規模の組織だが、現在でも神出鬼没でいくら組織の人間を叩こうとも口を割る者はいなかった。

ドラッグと人身売買、そして臓器。これらが彼らの資金源のようだが

核となる本当の目的は未だ不明のままだった。

歪はこの組織に目を付けていた。別に仕事の依頼で動いているわけではない。事実無償の仕事だ。

かと言って正義の味方を気取っているわけでもない。歪に取っては何故か勘に障る連中なのだ。

群れて組織を巨大化させ、それで何かを得ようとする。正当な方法ならまだしも非合法である。

歪はそんな連中が気に触った。クズは一人じゃクズのままだが、それが徒党を組むとクズが組織になる。

組織は人を強靭にさせ、その分だけ凶悪になる。いずれにしても社会では有害な存在になる事は間違いなかった。


そして連中の取引が行なわれる事を知り、こうして乗り込んできたのだが結局収穫はほとんど無かった。

抹殺した30人全員が組織の事を語らずに死んだのだ。いや、殺したのだ。

どれだけ痛めつけようと、口を割る者がいない。

それは組織全体にかなりの統率力があると言う証拠だった。寸での所まで追い詰めるのだが、毎回上手く逃げられてしまう。

唯一の収穫といえば、歪が組織に知られていると言う事だけだった。

まあ良い。いずれ合間見える事になるはずだ。歪はそう思い、その場を後にした。


「紅麗ってどんな仕事してるんだっけ?」

「えっ・・・ああ、何でも屋って言うのかな。そこで働いてるよ」

(まさか殺人の手助けやってます・・・なんて言えないよね)

紅麗は久しぶりに会った友人の凪原なぎはら ともえにそう言った。

「何でも屋ってどんな仕事なの?」

「文字通り何でも受け持つの。それこそハウスクリーニングとか介護とか。でも最近は興信所みたいになってるけどね」

「へぇ〜探偵とは違うんだ」

「うん、ちょっと違うんだけど、まあ似たような感じよ」

「そっか。ところで知ってる?真奈美たちの話」

「真奈美たちの?」

紅麗は高校時代の友人たちの名前を聞き、久しぶりに彼女たちの顔を思い出した。

「やっぱり知らなかったんだ」

「全然知らない。何かあったの?」

「うん、それがね。真奈美とか琴音たちってさ、家族関係でちょっと問題あったじゃない」

「うん、確か親が離婚しているとか、元々親がいないとか」

「そうそう。それで高校を卒業した後らしいんだけど、宗教に入ったらしいのね」

「宗教に?」

「うん、私もね言ったんだよ。宗教は止めなって。でも聞かなくてさ。それで何処の宗教に入ったと思う?」

「さあ、想像も付かない」

「あの天誅会に入ったらしいのよ」

「て、天誅会にっ!!」


天誅会・・・・文字通りズバリ「天誅、死神」を神と崇拝する新興宗教団体のことである。

天誅、死神、つまり歪の暗躍が社会に知れ渡り、悪事だけを壊滅させると言う行為が

健常者の間で熱狂的な信者を登場させ、出来上がった宗教の事だった。

天誅、死神を神と崇拝する人間はかなり多く、インターネット上でも一時期話題となった。

天誅会の事は歪も知っている。歪は「勝手にさせておけ」とほとんど気にしていない。

最近立ち上がったばかりの新興宗教なのだが、一部の情報によるとあまり良くない評判が飛び交っていた。

そのため通常の宗教を重んじる信者たちの間では「邪教」と言われており、天誅会の信者たちは「邪教徒」と罵られている。

世論やメディアからの評判もすこぶる悪く、その存在はオウム心理教を上回るとまで言われていた。

「でもどうして天誅会に?」

「分からない。だけど天誅会に入った後、彼女たちかなり変わってしまったらしいの」

「変わったって?」

「なんだか凶暴になったとか言ってたっけね・・・可愛そうに、きっと洗脳されたんだわ」

「洗脳・・・」

紅麗の中で良からぬ鼓動が高鳴った。仮にも高校時代、苦楽を共にした中である。今でも彼女たちとの思い出は輝いていた。

高校を卒業した後すぐに歪と行動を共にするようになった紅麗にとって

彼女たちと過した高校3年間は何物にも変えがたい素敵な思い出なのだ。

そんな輝く過去で共に生きた友たちが変わってしまった・・・・。しかもそこには宗教の影がある。

調べてみようか・・・・紅麗の頭をそんな言葉が過ぎった。

「悲しいよね、いくら辛いからと言って宗教にハマるなんてさ」

「そうね。他に道は無かったのかな」

「無かったから入ったんでしょう、きっと」

「そっか・・・・」

紅麗は何ともやり切れない気持ちだった。出来る事なら力になってやりたいが・・・。

「さて、気分転換にまた買い物に繰り出そうよ」

「そうね。欲しいものがあるんだ〜今日は買うぞ!」

「行こう行こう」

「うん」


このやり取りが運命を狂わす事になる。

しかし、この時の紅麗はそれに気付いていなかった・・・。



2へ続く・・・。


END

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