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61 いいおなかの日


「せんぱーいっ。今日、何の日か知ってますか?」

「いいおなかの日だろ? 知ってる知ってる」

「え、知ってるんですか……。なんかキモイですね」

「待って?」


 いつもと変わらない、放課後の椎名の部屋で、二人きりの勉強会。

 椎名に告白し、告白されたあの日から、彼女と正式にお付き合いを始めたということになるのだが、特に日々の生活に変化はない。


 多少、下校時や外出先でのスキンシップが多くなった程度なもので、椎名と二人でいる時間に関しては何一つこれまでと変わっていない。

 そんな感じで相変わらず物理的な距離はゼロ距離だが、心の距離も前よりぐっと近づいたと実感する。


 椎名がどう思っているかは分からないが、俺自身の心境からすると、あれから椎名への接し方に自信が持てるようになった。

 お互いに好意を持っていること、そしてその気持ちに間違いがなく本物であること。

 それを確かめあったというあの日のことは、俺の中で本当に大きな変化であり、忘れることな無い思い出だ。


「普通に、男子高校生がいいおなかの日っていう単語を口にするのってなんかヤバくないですか?」

「俺を含む全国の男子高校生に謝ってくれ」

「なんで知ってるんですか? 先輩おなかフェチなんですか?」

「いや、普通にSNSで見かけただけだが」

「そうですよね。先輩、膝フェチですもんね」

「待って?」


 俺がいつそんな性癖を暴露したというのか。

 そもそも自分で自分が何フェチかを考えたことすらないというのに。

 何を根拠にそんなことを言い始めたんだ、こいつは。


「だって先輩、膝枕してもらうの好きじゃないですか」

「なぜ決めつけた」

「私や今井先輩に膝枕してもらったとき、満更でも無さそうでした」

「撤回を要求する。そもそも俺の意思でした膝枕じゃないはずなんだが」

「先輩が膝枕してほしそうな顔してたんですよ。知らないですけど」

「こじつけじゃねえか」


 膝枕自体は、妹の奏に求められて枕側に立つことは頻繁にあるが、自分がしてもらうことはなかなか無い。

 たしかに、過去にしてもらった記憶はあるが、俺の記憶が正しければ、強制的やなし崩し的になったはずだったと思うのだが……。


「そんなわけで、今から膝枕どうですか?」

「どういうわけなんだよ。休憩するにもまだ始めたばっかりだろう」

「いいんですぅ〜、日頃頑張ってる先輩へのお礼みたいなものですから」

「おい、こらっ」


 そんなことを言いながら、彼女は無理やり俺の頭を押さえつけるようにして自分の膝に乗せようとする。

 いきなりの行動にバランスを崩した俺は、見事に椎名の膝へ顔からダイブしてしまう。


 制服からは着替えておりスカートではないのがせめてもの救い……と思っていたのだが、彼女の今日の私服はショートパンツ。

 実質スカートよりも肌の露出は多いわけで、俺は彼女の素肌の太ももに顔をうずめた状態になってしまう。


「ひゃんっ。せ、先輩、くすぐったいです……」


 うまく息が出来ずにもごもごと抵抗していると、椎名が艶かしい声を上げ始める。

 お前がやったんだろと声を大にして文句を言おうとするが、余計に彼女を刺激してしまう。


 頭は押さえつけられていて彼女の太ももから離れることは出来ないため、妥協して一旦顔を横に向ける。

 視界の端には目に優しくない綺麗な肌色が映り込んでいるが、新鮮な空気を確保することは出来た。


「ったく。少し休憩したらすぐに勉強だからな」

「はーい」


 呑気な返事をする椎名にため息をつきながら、仕方なく目を閉じて彼女の膝に重量をあずける。

 寝心地自体は悪くない……正直に言えば、かなり良いのだが、後輩に甘えている感覚はなんだか体がかゆくなる気持ちになる。


 これをして椎名に何の得があるのかはさっぱり分からないが、機嫌よく俺の頭を撫でている様子は楽しそうなので好きにさせておく。

 俺の価値観だと、年下の女の子は年上の異性に甘えたがるというのがノーマルなのではと思っているのだが、そうでもないのだろうか。


「話は戻りますけど、今日はいいおなかの日なんです」

「それがどうかしたのか」

「先輩。かわいい後輩のおなか、触ってみたくないですか?」

「……は?」


 思わず頭を動かし彼女の顔を見ると、にんまりとしたいたずら笑顔でこちらを見ていた。


「先輩は膝フェチですけど、やっぱり女の子のおなかって需要があるものだと思うんです」

「まず膝フェチってところの訂正をだな」

「でも先輩も、少しくらいは女の子のおなか見てぐへへって思ったりしませんか?」

「俺をなんだと思ってやがるんだ」


 俺、一応は椎名に好かれているはずなのだが、認識はそんな変態なのだろうか。

 いや、たしかに実際のところ、椎名のおなかに関して言えば興味がないと言えば嘘になる。


 別におなかに限った話ではなく、単純に交際を始めた異性のことをもっと知りたいと思う気持ちは思春期の男子高校生からしたら仕方のないことだと思う。

 だから、無差別に異性のおなかを触りたいなんて変態じみた理由ではなく、好きな女の子にもう少し触れてみたいというだけだ。


「先輩は、私の体に興味ありませんか……?」

「それは……ないと言えば嘘になるが、椎名の気持ちもあるし……」

「私は、先輩にもっと触って欲しいと思ってます……よ?」


 先程とは違う、甘えるような目で彼女はそう伝えてくる。

 俺がそう思っていたように、彼女のほうも同じことを思っていてくれていたのかもしれない。


 付き合い始めたことで、自分の中でどのくらいの距離感でいけばいいのかが、少しわからなくなっていたのは事実だ。

 言ってしまえば、交際しているというだけで何をしても怒られることは無いし、彼女の性格上断られることもないだろう。


 それなのに手を出せていないのは俺がヘタレであるが故でしかないわけで。

 それを彼女の口から言わせてしまったことに、少しだけ後悔する。普通こういうのは、男のほうからリードしていくべきことだろう。


「先輩、こっち向いて下さい」

「お、おう」


 膝枕の状態で、頭の向きは椎名の体と逆方向を向いていたのだが、彼女に言われて寝返りをうつ。

 思っていたよりも彼女のおなかも胸も顔も、すべて目と鼻の先にあり、自分の顔を見られているというのがどうにも恥ずかしい。


 俺がなんとなく椎名の顔を見れずに彼女のおなかとにらめっこしていると、ふいに彼女が服の裾に手をかける。

 そして、何を思ったのかそのままおへその上まで服をたくしあげた。


「なっ!?」


 椎名の私服は、上にその一枚しか来ていないらしく、当然のように俺の目前には彼女の真っ白な肌があらわになった。

 彼女はと言えば、普通に視線を逸らして恥ずかしそうにしながら、たくしあげた腕をぷるぷると震わしている。


「こ、こうしたら、触ってみたくなりませんか?」

「し、椎名……」


 しかし、いまだに威勢は残っており、腕に合わせて声も震わせながらそんなセリフを吐く。

 ここまでされてしまってはさすがに後に引くことも出来ない。というか、ここで俺がヘタレてしまえば、椎名のこの勇気をすべて無駄にしてしまうことになる。

 俺は一つ深呼吸をしてから、覚悟を決める。


「じゃあその……、触ってみても……大丈夫か?」

「は、はい……。ど、どうぞ」


 彼女はあまりの恥ずかしさゆえか、目を閉じてじっと俺がそこに触れるのを待っていた。そんなことをされると余計に触りづらくなるのだが……。

 俺はゆっくりと手を、普段見ることさえないその秘境へと伸ばしていく──



 ──ぴとっ。


「んっ……」



 俺が触れると同時に、椎名はつぐんでいた口からかすかに声を漏らす。

 彼女に触れた手に伝わってきた感触は、驚く程に柔らかくなめらかだった。

 どう表現してもそれこそ変態じみた感想になってしまうが、端的に言えばすべすべもちもちの手に吸い付くような触り心地だった。


「ど、どうですか? 先輩」

「ど、どう、と言われてもな……」


 何を言っても地雷な気がして、気の利いた言葉が何も出てこない。こんなときなんて言えば正解だというのか。

 とりあえず彼女に触れた手は離さずに、撫で続ける。少なからず、ずっと触っていたくなるような気持ちよさだということは伝わるだろう。


 感想が貰えなくてしょんぼりしてしまうかと思いきや、俺が触り続けていることの恥ずかしさに耐えるので精一杯の様子。

 ひたすらに声が漏れるのを我慢し、時々腰を引いて身をよじっている。


「せ、先輩。今更なんですけど、これ結構恥ずかしいです……」

「………」


 椎名が何かに耐えきれない様子で訴えてきているが、俺は特に気にせずに彼女のおなかを堪能する。

 椎名の言う通り、たしかにおなかには確かな魅了があった。現実こんなにも俺は夢中になってしまっている。


「あ、あの、先輩? だからその、そろそろ止めて頂けると助かると言いますか……」

「………」


 もちろんそれは、椎名の体だからというのが一番の要因だろう。

 これまで散々椎名にからかわれてむんむんとしてきた気持ちを、思う存分に吐き出せている感覚がする。


「な、なんで何も言ってくれないんですかっ? あのっ、先輩!」

「………」


 そう、これまでは生徒として一線を引いていたが、もうそれも必要ないということ。

 今日まで椎名からされていたいたずら分、ちょっとくらい仕返しをしても彼女は何も言えないだろう。

 彼女には悪いが、もう少しだけ俺の鬱憤晴らしに付き合ってもらおう。


「あのっ、本当にこれ以上はもう……!」

「あと30分」

「先輩のおなかフェチいいいいい!!!」


 ……こうして、椎名の悲鳴を浴びながらも、その後彼女が力尽きるまで、俺はひたすらに彼女のおなかをまさぐり続けるのだった。

お久しぶりです。いきなりですが、番外編でした!


新作の息抜きも兼ねて、タイムリーな話題で書かせていただきました。普通に遅刻しているのはお気になさらず……。

これからもこんな感じでイベント事に合わせて番外編を書く……かもしれません。

新作も今月11月連載開始予定ですので、よければ。


それでは、また!

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