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16 妹


「奏さんや。あなたは今何をしていらっしゃるのでしょうか?」

「へ? お風呂に入っていますが、どうかしましたか?」

「……奏さんや。あなたは今どんな状態になっていらっしゃいますか?」

「兄さんの腕の中でくつろいでます」

「…………奏さんや。あなたは今どんな気持ちになっていらっしゃいますか?」

「兄さんと一緒にお風呂に入れて、とても嬉しくて気持ち良いです♪」

「兄さんは悲しいよ……」



 俺の妹、奏はブラコンだ。

 中学生になっても俺に甘えてばかりで、俺さえいれば友達なんていらないなんて言う始末。

 とは言っても、たった一人の愛する妹であることは変わりない。


 俺と同じ血が流れているとは思えないほど整った顔と、中学生になって少しずつ大人になってきた身体。

 兄としての立場から見ても、普通にかわいいと思えるくらい奏は美少女だ。


 そんな彼女が、一糸纏わぬ姿で同じ湯船に浸かっているのだ。

 変な気を起こすとか、そういう意味合いではないが、なんとも落ち着かない。


「なあ、奏」

「はい、なんでしょう?」

「お前、今何歳だ?」

「兄さん? 妹の歳を忘れるなんて兄さん失格ですよ?」

「ただの確認だ。大事な妹の歳を忘れる訳が無いだろう」

「むぅ、本当ですか? 十三歳ですよ、ピチピチの女子中学生です」

「だよな。そんな新鮮ピチピチの奏に聞きたいんだが、高校生の兄と中学生の妹が一緒にお風呂に入ることについて、どう思う?」

「? 仲のいい兄妹だと思いますよ? まさに奏と兄さんのような良き関係だと思います」

「お、おう。そうだな……」


 妹様のお考えでは、この状態は仲睦まじき兄妹でしかないらしい。

 他の家庭を知らないから何とも言えないのだが、これは明らかに仲睦まじいのレベルを超えていると思うのだが……。


 奏は、俺の腕に抱かれるような状態で体を預けてくつろいでいる。

 奏の体がまだ小さいことと、母さんがこだわったらしい広めの浴槽のおかげで、二人で入っても窮屈ではない。

 だが、こんな状況じゃのんびりくつろぐことすら出来ない。


 俺はなんとか逃げ道を模索して奏に問いかける。


「奏、悪いが先に体洗わせてもらってもいいか?」

「大丈夫ですよ」

「ありがとな。じゃあどいてくれるか?」

「はい」


 俺の胸に預けていた体を起こす奏。ふふ、計画通り……。

 先に体を洗う。この行動によって俺の勝利は決まったと言っていいだろう。


 一、俺が先に体を洗いその間、奏は浴槽で待機。

 二、俺が洗い終わると同時に奏に次を譲り、交代で俺が浴槽に浸かる。

 そして三、充分にくつろいだ後、奏が体を洗い終わる前にお風呂を上がる。


 そう。これが、奏を不満にさせず、かつしっかりと疲れを癒すどこにも穴のない完璧な作戦──



「じゃあ、奏が洗ってあげますね」



 穴ぼこだった。


「え、いや、それはさすがに悪いって」

「妹に遠慮なんてしないでください。最近兄さんがお疲れみたいなので、奏がめいっぱいご奉仕してあげます」


 奏はそう言うや否や、浴槽から出て颯爽と俺からボディタオルを奪い、石鹸で泡立て始めた。

 兄妹とはいえ、もういい歳の男女だ。さすがに振り返って止めるわけにもいかず、結局流されるままに洗ってもらうことに。


「じゃあ、洗いますね。兄さん」

「あ、ああ。よろしく頼む」


 高校生になって中学生の妹に体を洗ってもらう。これ、大丈夫なんだろうか。

 いや兄妹だしセーフだよな? やましいことなんて何もないよな、うん。


「んっ、ん。どうですか、兄さん? 気持ちいいですか?」

「ああ、気持ちいいぞ」

「そうですか♪」


 嬉しそうにそう答える、上機嫌な奏。

 落ち着かないのは先程と変わらないが、気持ちいいのは嘘じゃない。

 やってることはちょっと犯罪臭が漂うが、やはり奏の癒し力はなかなかのものだ。


 俺のために一生懸命になってくれているのだと考えると、心があったまるような癒しがある。

 たまに、変な方向に頑張りすぎちゃうこともあるが、やはり俺の癒しになってくれるのは奏しかいない。


「兄さん。髪も奏が洗ってあげましょうか?」

「いや、遠慮しとく。髪くらいは自分で洗う」

「そうですか? それなら背中の次は前を洗いますね」

「待て。それも自分でやる」

「それもダメなんですか? むぅ、仕方ないです。それじゃあ私の成長中のおっぱいで兄さんの背中を念入りに」

「やめろ。それ以上はRが付く」

「へ? あーる?」


 とんでもないことをしでかそうとした奏に待ったをかける。

 さすがにそれはまずい。犯罪的にセーフでも倫理的に完璧スリーアウト攻守交代。


「あとは一人でやる。風邪引くから奏はお湯に浸かっとけ」

「兄さんはツンデレですね。今日のところは勘弁してあげます」

「誰がツンデレだ誰が」


 浴槽に戻った奏を見届けてから、ささっと体と髪を洗い奏と交代する。

 当初の作戦とは多少ズレていたが、ここまで来れば軌道修正完了だ。


 奏が洗い終わるまで湯船に浸かり、タイミングを見計らって上がればいい。

 そう。少し予定が狂っただけで、やはりこれは穴のない完璧な作戦──



「兄さん。次は、兄さんが奏の体を洗ってくれませんか?」



 れんこんだった。


「い、いや。別に体くらい一人で洗えるだろ」

「兄さんに洗って欲しいんです。これでおあいこじゃないですか」

「それは……」


 たしかに奏にだけ洗ってもらうというのは不公平なのかもしれない。

 だがしかし……うーむ。


 元はと言えば、奏が今日こんなに甘えんぼなのは俺のせいだ。

 椎名の家庭教師をしているせいで帰りが遅くなり、奏にいらない心配をかけてしまい、構ってあげることも出来てなかった。


「……わかった。タオル貸せ」

「ほんとですか! ありがとうございます、兄さん♪」


 ハンドタオルを貰いに奏の後ろに行こうとすると、奏が嬉しさを爆発させて抱きついてきた。


「こ、こら。離れろって。これじゃあ洗えないだろ」

「兄さん大好きです~♡」

「わかったわかった。ほら、洗ってやるから前向け」

「は~い」


 ったく。普段は大人しくて出来の良い妹だというのに、一回スイッチが入るとこれだからな。


「んっ。んぁ、ぅん…」

「お、おい。体洗ってるだけだろ、変な声を出すな」

「兄さんのやらしい触り方がいけないんです。奏は悪くありません」

「人聞きが悪いぞ。やさしい洗い方だと訂正しろ」


 俺がタオルを動かす度に、くすぐったそうに体をよじり声を漏らす奏。

 はたから見たら完全に犯罪のそれである。おまわりさん、私です。


「よし、背中は洗ってやったからお前もあとは自分で洗え」

「えー、前も兄さんに洗って欲しいです」


 そう言いながら、くるっと体を180度回転させる奏。

 当然あれやらそれやらがすべて見えている状態。おまわりさん、私です。


「こら、はしたないぞ。兄妹でも男女だ。少しは恥じらいを持て」

「奏は、兄さんに見せて恥ずかしいと思うような体なんて持ってません」

「自信満々で言ってもダメだ。俺は先に上がるからな」

「むぅ~。兄さんはケチんぼさんです」

「なんとでも言え」


 ハンドタオルを奏に手渡し、早足で脱衣所へ戻る。

 奏が上がってくる前に手早く体を拭き、さっさと風呂場を後にする。


 そのまま自室に入り、だらしなくベッドにダイブする。

 何故だろう。帰ってきた直後には結構癒されていたのに、お風呂というリラックスタイム後に疲れが増しているような……。


「兄さん、奏と一緒に寝ましょう!」

「勘弁してください奏さん」


 いきなり俺の部屋の扉(ATフィールド)をぶち破った妹にベッドに横になったまま返事する。


「たまにはいいじゃないですか、兄さん」

「おかしいな、昨日も同じ場面を見た記憶があるんだが」

「兄さん、細かいことは気にしたら負けなんですよ? ママが言ってました」

「よし、俺ちょっと母さんに話があるから席を外すぞ奏」

「だめです~」

「ぐふっ」


 ベッドから立ち上がろうとしたところに。奏から見事なボディタックルを食らう。

 そのまま俺は再びベッドに倒れ込む。


「兄さんは今から奏と寝るんです。相手がママでも譲れません」

「そんな理由で母さんに話があるわけじゃない。年頃の娘の教育方針について少し話し合いをだな」

「そんなのはいつでも出来るじゃないですか。奏と寝られるのは今だけなんですよ?」

「何度も言うが、昨日も同じ場面見たぞ」


 俺の上に乗っかり、抱きつきながら甘えてくる奏。

 ここ最近になって、こんな風に就寝前に奏が突撃してくることが多くなった。

 まあ、これもここのところ奏に構えてあげられなかったことが原因なのだが……。


「お疲れのようですし早く寝ましょう? 兄さん」

「誰のせいで疲れてると思ってんだ……」


 思わずため息が出る。本当に、大人しくしてくれれば良き癒しだというのに。

 もう、ツッコむ気力も抵抗する気力もなくなり、抱きつかれた状態のまま目を閉じる。


「じゃあ電気消しますね、兄さん」

「ああ」


 まぶたの向こうが暗くなるのを感じる。

 相当疲れていたのか、すぐに意識が遠のき始める。


「おやすみなさい、兄さん」


 まどろみの中、温かくてやわらかい感触が右腕に広がる。

 それと同時に肩に触れる、奏のさらさらの髪。

 いつものように、片手でその髪を優しく撫でてやる。


「……おやすみ、奏」


 そう言った後、俺の意識は夢の中へと落ちていった。


おまわりさん、私です。

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