プロローグ
『家庭教師』
家庭において勉強を教える私教師。
現代では主に、小学生から高校生に対して、学校とは別に家庭で勉強を教える、雇われの教師を指す。
学校の授業の補習や、志望校合格のための受験勉強のために依頼されることが多く、教師が家庭に出向く学習塾のようなイメージだ。
大学生や社会人などが本業の傍らでアルバイトとして家庭教師を行うこともあれば、プロの家庭教師と呼ばれる、職業として家庭教師をしている人もいるらしい。
……と、少し前に調べてみたことを並べてみたが、元々俺は、家庭教師とは全く関わりのない人間だった。
バイトとして家庭教師をやるような歳でもないただの高校生。かつ、受験生でもなければ、家庭教師を雇わなければいけないほど低い成績というわけでもなく。
つまるところ、家庭教師というものに接する機会など今後あるはずもないだろう、そんなことを考えることすらもなかった。
しかし、いかんせん現実は「突然」というものが好きらしい。
前置きなんて毛頭なくて、疑問と不安しかないスタートで。
だが、不服ながらも現実は「日常」という至福の時間も与えてくれた。
始めてみると案外という、満足で価値のある折り返し地点で。
でも、結局のところ現実は「運命」という名のいたずらだったと、結論に行き着いてしまう。
根拠と問われれば、俺の目の前に立つ彼女がそうだと言える。
うるうると揺れ動く、大きな瞳。
朱色に染まっていく、真っ白な頬。
風に揺られてなびく、さらさらの髪。
俺の鼓膜を響かせた彼女の声はいやに鮮明で、脳の奥までもよく響いた。
「私は、先輩のことが──」
すべての始まりはあの日。二年生の春、四月半ばのとある日の放課後。
小悪魔かわいい後輩の彼女から家庭教師に雇われた、忘れもしないあの日。
脳裏にするりと入り込んだ彼女の鮮明な声が、俺の鮮明な記憶と共に反響する。
跳ね返ったそれを逃さないように閉じていた目を、ゆっくりと開ける。
再びそのレンズが写し出した彼女。
その彼女から発せられた次の言葉は──