夫婦、謝罪につき書類申請を行う
「ま、起きた事をあーだこーだ言ってもどうにもならないし。これからどうなるのか説明してよ。」
祥子さんが女神様に言う。
横目で彼女を見たら、目がキラキラしてた。たぶん異世界に行く気満々だこの人。
「申し訳ありません。えっと、異世界召喚のシステムとしては、生活に必要な資金をいくらかお渡ししますので、そこからはお二人とお連れの動物で、異世界で生活をしてもらいます。」
……え?
「すみません」
「はい、芝野さん」
「えっと、つまりは老夫婦と猫一式でもらった資金で余生を過ごしてくださいってことなのでしょうか?」
「はい、ただ、今回はこちらの不手際もありましたので、資金は多めにお渡しする予定です。」
「ちなみにおいくらですか?」
「異世界の通貨で100万クラ。お二人の世界の相場だと100万ですね。」
安っ!!!そりゃあ今まで誤って召喚された人はキレるハズだわ。とりあえず、自分の中にある異世界召喚の知識を引き出して交渉しないとー。
「いや、それは無理でしょ。」
祥子さんが一言、女神様からの提案を否定した。
「若者ならまだしも、私らみたいな老夫婦に100万だけ渡して後はどうにかしてくださいって無理があるでしょ。せめて若返らすなり、チート能力もらうなり、詫び石ないとこっちはそうですかって同意できるわけないでしょ。」
「ですが、私の方では出来ることに限りがありましてー」
「じゃあその限られた中でもう少し対応をしてもらえないとこっちも困るって言ってんのよ。異世界の相場がどうなのかわからないけど、100万なんて普通に生活してたらすぐに溶けるわよ。」
たしかに。
僕達は年齢が70代の年金生活者。節制して生活をしても確かにお金はかかるし、この年齢で仕事にありつけるかと言えばそれも難しい可能性もあるなら、祥子さんの提案はもっともな事だ。
「女神様、私たちも2000万も1億も資金提供してほしいとは言いません。ただ、妻の言っている通り、この体一つで数ヶ月の生活費だけで放り出されれば、たちまちすぐに死んでしまうことでしょう。もちろん、無理は言いません。女神様のお力でできるのであるなら、私たちの身体を全盛期に戻していただけるなり、何か能力を授けていただければ、それで後は自分達だけで生きていきますので。」
資金は方法次第ではいくらでも稼ぐことはできる。問題は肉体のデメリット、老いの解決が優先になる。それと可能であれば特殊な能力を得ることができればそれで先に繋げることはできる。
「うーん、資金は本部から予算を決められているので。資金以外のご提供。それでしたら……。」
女神様は後ろの壁にある資料を取りに行き、厚めのファイルを持ってきて、その中からいくつかの書類を取り出す。
目の前に【身体調整申請書】【加護申請書】【必要資料申請書】と3枚の書類が並べられた。
「これは?」
「この書類でお二人のご要望に添えればいいのですが。まず、身体調整申請書。こちらで希望の年齢や筋力・魔力などの申請をしてください。2枚目は加護申請書。こちらでご自身にお付けする加護を最大3つ選択してください。そして、最後は必要資料申請書。これで異世界に行くにあたって必要な資料をお一人につき3つまで提供することができます。」
「わかりました、ありがとうございます。(お、おおー。何という会社システム……。)」
「にゃぁあ〜。」
「ねぇ、女神様。この子はそう言うの無いのかい?」
「え?猫ちゃんですか。えっとー、今まで前例がありませんでしたので……では、同じように申請してみますので、私の方でヒアリングののち、代筆で申請しておきますね。」
「え、女神さまって猫語わかるんですか?」
「はい。ポンさん、よろしくお願いします。」
「んなぁあ〜!」
こうした、僕と祥子さん、ポンの異世界への準備が始まった。
始まりはここまでで、次からは2人と1匹を異世界にぶち込みたいと思います。
本部と予算のクソさよ……。