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夫婦の攻防(クレア)

「新婚旅行」の前日譚的なお話です。

 セディと一緒に初めてコーウェン公爵領へ行くことになった。

 セディが怪我をしてお仕事をお休みしたことで使ってしまったと思っていた結婚休暇を、改めて取れることになったのだ。


 メリーを連れて行けないのは心配だけど仕方ない。それに、もしかしたらセディを送り出すお義父様のほうが不安でいっぱいかもしれない。




 滞在中に、次期領主夫人となった私を領地の方たちに紹介するためのパーティーが開かれる。

 セディがそこで私が着るドレスを嬉々として考え始めたのを見て、私は口を開いた。


「ねえ、セディ。パーティーで着るの、結婚式と同じウェディングドレスでは駄目かしら?」


 セディが目を瞬いた。


「もちろん、いいと思うけど。ウェディングドレスのクレアはとっても綺麗だったし。でも、新しいドレスじゃなくていいの?」


「せっかくセディが私のために選んでくれた素敵なドレスだから、できたらもう1度着たいわ。それに、領地の方たちにもあのドレスを見ていただきたいし」


 さらに言えば、正直なところ、セディが何かと私のドレスを新調したがるので心苦しいのだ。

 もちろん、コーウェン家の財政状況が私の実家など比べものにならないほど良好なのはわかっているけれど。


 ただ、ウェディングドレスを着るには問題もある。結婚式から1年半。妊娠出産を経て、私の体型が変化してしまったことだ。

 でも、それほど大きく変わったわけではないし、領地へ行くにはまだ時間がある。それまでに体型をあの頃に戻すことは可能なはず。


「お腹周りをちょっと直せば大丈夫かな」


 セディがポツリと呟いたのに、私は目を瞠った。

 ああでも、セディが気づいていないはずがなかったわね。


「ドレスを直す必要なんてないわ。私が体を絞ればいいんだから」


 私はきっぱりと言ったが、セディが眉を顰めた。


「ええええ。そんなことしないでよ。すっごく触り心地良いのに」


 そう言いながら、セディが私のお腹に顔を擦りつけるようにして抱きついてきた。

 私は今度こそ固まった。


 結婚前は私の胸に興味があるようだったセディが、最近はお腹のほうに触れてくることには気づいていた。メリーがお腹の中にいた頃によくそうしていたから、すっかり癖になったのだと思っていたのに、まさかセディが私のお腹のプニプニを楽しんでいたなんて。


「いいえ、絶対に直さずに着るわ」


 私が決意をこめて宣言すると、セディが顔を上げた。


「それなら、念のために別のドレスを作っておこうか?」


「必要ないわ」


 不満そうな表情のセディを、強引に私のお腹から引き剥がした。




 それからというもの、私はせっせと体を動かした。昼はメリーを抱いてお庭をお散歩、夜はダンスの練習などなど。

 食事はきちんととるけれど、セディが嫌がらせのように買ってくるお菓子には手をつけず、使用人のおやつにまわした。


 そんな努力の甲斐あって、領地へ出発する直前には、私は再びウェディングドレスをすんなり着られるようになった。


 セディはだいぶ締まった私のお腹を撫でて物哀しそうな顔をしていたけれど、領地でのパーティー当日に私のウェディングドレス姿を見ると、結婚式を再現するように目を潤ませていた。


 ちなみに、パーティーの翌日からセディのお菓子攻めは激しさを増した。領地の特産品である林檎を使ったお菓子はどれも美味しくて、私は早々に降参してしまったのだった。

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