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あなたに呼んでほしいから  作者: 三里志野
光が僕を照らすから
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9 大切なあなたとの未来

セディ編は今回で最後です。

よろしくお願いします。

 僕とクレアの結婚式は延期になってしまった。

 でも、僕は仕事をしばらく休むことになったので、その間はお屋敷でクレアと一緒に過ごすことができた。




 僕が仕事に復帰すると、秘書官室の先輩たちが近頃あちこちで耳にするという、とある貴族子息の噂について教えてくれた。


 その人は初恋相手の幼馴染を最低の浮気男との婚約から救い出すと、彼女に自分の熱い想いを伝えて求婚、婚約した。子息は婚約者と一瞬でも離れがたくて、彼女を実家から攫って夫婦のように一緒に暮らしはじめた。

 一方、浮気男は浮気相手のひとりだった女と結婚した。妻になった女は子息の婚約者を逆恨みして襲ったけれど、子息が身を挺して婚約者を庇った。

 子息は怪我を負ったものの、愛する婚約者の献身的な看病のおかげで命は助かった。


 何だか、僕もこの話を知っている気がした。


「僕もどこかで聞いたことがあるみたいです」


 僕がそう言うと、先輩たちが呆れたような顔になった。


「いや、セディの話だろ」


 僕は目を見開いた。


「そうなんですか?」


 僕は聞いたばかりの噂を改めて頭に浮かべた。


「でも、僕が再会した時にはクレアはもう婚約破棄してたし、僕はクレアを攫ってはいないです」


「つまり、その他はほとんど真実なんだな」


「だいたい、そうかな」


 僕は首を傾げた。真実っぽいけど、何だか自分のことには思えない。まあ噂だし、そんなものなんだろう。

 そう言えば、あの女の人、クレアの元婚約者の結婚相手だったんだ。


「あのクレア嬢と、夫婦のように一緒に暮らしてるのか?」


 僕が怪我して王宮に泊めてもらった時、先輩たちはお見舞いに来てくれたからクレアとは面識がある。


 僕とクレアが夫婦のようというのは、多分そのとおりなんだろう。

 クレアの部屋にある小説とかを読むと、婚約者はやっぱりあんなことやそんなことはしていなかった。するのは夫婦になってから。

 それに、トニーやお屋敷の皆はクレアを「若奥様」と呼んでる。


 問題は、ここで僕が肯定したらクレアとの約束を破ることにならないかどうか。多分、一緒に暮らしているのと、あんなことやそんなことをしているのは別のことだよね。


「はい。一緒に暮らしてます」


 僕がそう答えると、先輩たちがなぜか「おお」とか言って盛り上がった。


「セディはそんな顔してちゃんと男なんだな」


 横にいた先輩にはバシバシと肩を叩かれた。

 あれ、大丈夫だよね。


 家に帰ってからその噂を皆にも教えてあげると、父上が愉快そうに笑った。


「真実とは多少違うが、まあ良かったな。これでクレアのことを悪く言う者もいなくなるだろう」


「そうだよね」


 僕も笑って父上に同意した。

 でも、なぜか母上は胡乱な目で父上を見てた。母上の視線に気づいたクレアは、何かを悟ったような顔で深く頷いた。またふたりで隠し事かな。




 それからすぐに、クレアの誕生日が来た。

 誕生日のプレゼントは少し前から考えていた。求婚の時に贈れなかった赤い薔薇の花束と、クレアが大好きだと言っていた天使。


 僕は勤務時間を短くしてもらっているのを利用して、仕事帰りにクレアに相応しい天使を探した。クレアの両親には申し訳ないけど、僕はクレアの部屋にいるあの天使以上の天使を見つけないといけない。


 最初は前にも買い物をした雑貨屋。天使はたくさんいたけれど、どれもいまいちピンとこなかった。

 次に本屋。天使の画集とか、天使の絵本とか、天使の辞典とかが見つかったけど、何か違う。

 お菓子屋にも天使のクッキーとかあったけど、食べたらなくなってしまうから駄目。


 それから僕は、ふと気づいた。僕はクレアの婚約者なんだから、身につけるものを贈っても受け取ってもらえるんだ。

 アクセサリーなんて、きっと婚約者への誕生日プレゼントの定番のはず。でも、天使のアクセサリーってあるのかな。


 とりあえず、僕は初めてアクセサリー屋に行ってみた。そこにも天使はいた。ブローチとか、ペンダントとか。だけど、ちょっと違う気がする。

 僕はさらに店内を見て回った。すると、綺麗な天使の翼を見つけた。ブレスレットのようだ。僕はトニーを介して女性店員に確認した。


「これって、天使の翼ですよね?」


「はい、さようでございます」


「翼だけなんですね」


「天使の翼は幸運の印なのですよ」


「幸運の印……」


 それは大切なクレアへの誕生日プレゼントにぴったりだと思えた。


 誕生日の当日に花屋で買った赤い薔薇の花束と一緒にブレスレットを渡すと、クレアはさっそくそれを着けてみせてくれた。クレアがとっても喜んでくれたから、僕はとっても満足した。




 それから少しして、僕の怪我がすっかり良くなったある夜、僕がお屋敷に帰ると、出迎えてくれたクレアは何だか怖い顔をしていた。

 ふたりで僕の部屋に入ると、クレアが厳かに告げた。


「セディ、あなたに大事な話があるわ」


 僕は緊張した。

 ううん、大丈夫。クレアは僕を嫌わないし、見捨てない。「あなたの怪我も治ったし、離婚しましょう」なんて言うはずがない。ああ、まだ結婚してないから婚約破棄か。

 とにかく、絶対にどっちもない。きっと、僕の求婚に頷いてくれた時みたいに良い話だ。


「子どもができたの」


 ほら、良い話だった。誰にできたんだろう。ヘンリーか、レイラかな。

 でも、クレアはなかなかそれを教えてくれなかった。ただ頬を赤らめて、僕を見上げてる。何でそんな可愛い顔してるの。


 僕は目を瞬いて、しばらくクレアと見つめ合った。答えは僕の中に唐突に落ちてきた。


「もしかして、クレアと僕の子、なの?」


 僕たちにできてもおかしくない。だってクレアと僕は結婚してないけど夫婦みたいに一緒に暮らしてる。


「そうよ。セディと私の子よ」


「ええええええ」


 僕は吃驚して、クレアをぎゅっと抱きしめて、少しだけ離れてまたクレアの顔を見た。


「えっと、まず何から用意すればいいの? 子供部屋、産着、乳母、あ、名前?」


 クレアが笑い出した。苦笑いかも。


「どれもまだ必要ないわ。生まれてくるまで時間はあるから、お義父様やお義母様とも相談して、ゆっくり準備しましょう」


「あ、父上、はまだ宮廷だから、母上に知らせないと」


「もうご存知よ」


「そっか。じゃあ、クレアの父上とヘンリーとレイラにも」


「もう遅いから、明日知らせるわ」


「そうだね。陛下も明日でいいよね」


「ええ」


 僕はやっと一息吐いて、またクレアを抱き寄せた。クレアの頭に頬ずりする。クレアも僕を抱きしめた。


「まだ信じられない。夢じゃないよね?」


「私もまだ信じられないけど、現実みたいよ」


 しばらくそうしていてから、僕はハッとしてクレアを放した。


「クレア、そっちに座って。ごめんね、気づかなくて。それともソファまで抱っこしようか?」


 僕は非力だけど、クレアくらい抱っこできるはず。


「ほんの5、6歩でしょう。いいから、セディは早く着替えて」


「ああ、うん。クレアは手伝わなくていいからね」


「それなら、あなたの言葉に甘えて座って待っているわ」


「うん。甘えて甘えて」


 その後、帰宅した父上や母上と話し合い、早急にクレアと僕の結婚式を挙げることになった。

 披露パーティはまた後日、クレアの体調を見ながら。新婚旅行は中止。

 公爵領の視察は近いうちに父上と母上で行くことになった。父上は「何があっても孫が生まれる前に絶対に帰れる日程で」と言った。




 そして翌週、僕はようやくウェディングドレス姿のクレアに会えた。僕が選んだウェディングドレスはまさにクレアに相応しいウェディングドレスだった。

 クレアは言葉にならないくらい綺麗で、僕はクレア姉様に会えなかった6年間のこととかが頭に浮かんで、今があんまり幸せで泣きそうだと思ったら、もう泣いてた。


 教会で結婚式がはじまると、僕はいつクレアの体調が悪くなってもいいように、しっかり隣でクレアの様子を伺っていた。

 だけど、こんなに綺麗なクレアが、ずっとずっと大好きだったクレア姉様が、本当に僕のお嫁さんになったんだと思うと、また涙が出てきた。

 クレアはそんな僕を昔のままの笑顔で見上げながら、優しい手つきで涙を拭いてくれた。僕の頬が勝手に緩んだ。


 神父様に促されて、僕はクレアに誓いの口づけをした。

 唇をくっつけるだけだからちょっと物足りないなあと思いながらゆっくり離れると、クレアに小声で「長いわよ」と叱られた。

 だからもう一度、短い口づけでやり直した。




 結婚式から少したった。


 僕が昼休みに帰宅すると、出迎えてくれたのは母上だけだった。僕が静かにクレアの部屋に入ると、新たに置かれたばかりのベッドの中で、クレアはスヤスヤと眠っていた。

 少し前まで、僕はクレアの寝顔を夜の薄暗い部屋でしか見たことなかったけど、今は明るい場所で見放題。可愛い。


 最近のクレアはよく寝てる。朝も昼も夜も。

 母上が「妊娠中は眠いものなのよ。クレアがお腹にいた頃のアメリアもそうだったわ」と教えてくれた。


 僕は部屋にいたアンナに、昼食は宮廷に戻る馬車で食べると、トニーに伝えるよう頼んだ。

 アンナが部屋から出ていくと、僕はクレアの隣に潜り込んだ。小さめのベッドだけど、ふたりなら何とか並べる。

 クレアを起こさないよう、そおっと抱きしめた。僕の大切な奥さんと、そのお腹の中にいる僕たちの愛し子を。


 このまま時間いっぱいまで、クレアの寝顔を見ているつもりだったけど、僕も眠くなってきた。クレアの寝息はすっかり僕の子守唄だ。

 まあいいや。僕もちょっと寝よう。

あとは、おまけ的な話をいくつか考えています。

よろしければそちらもお願いします。

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