07 被験者のコア
森を暫く突き進み、そこそこ奥まで進んだ所で私達は作業を始めることにした。
まずは、ヒューディリアさんが生き残らせていた三人を殺して土に埋めた。
その後に、荷物の検査だ。
三つの流れを感じていたのはやはり三人いて、先程の少女と中年のおじさん、若い男の三人だった。
一応三人とも連れ出すと、三人はまだ若干警戒しているようだったが、少しは緊張が緩んだようだった。
「それにしてもリリさん、三人とも面倒を見ますの?」
元々は一人にする予定だったのだが、一応全員の魔力の色を見てみた。
すると、興味深いことになっていた。
まず、全員四色だった。ここまでは想定通りだが、全員に共通する色があったのだ。
そこでまず思い当たったのは、契約魔法だ。
契約魔法というのは、その名の通り相手をある条件下で縛り付ける魔法である。少女の奴隷発言もあった事だし、恐らくこの共通している色はそれで間違いないだろう。
しかし、契約魔法は色が決まっている。奴隷にする魔法は興味もなかったので色を覚えていなかったが、それでも私は契約魔法の八割方の色を覚えている。しかし、この人達の色はどれも見たことがないのだ。
「あなた達、契約魔法を使われてるよね?
三人とも嘘はつかないように、使われた契約魔法を言って」
すると、三人は顔を見合わせてから、代表するように若い男が答えた。
「俺は奴隷の刻印をされてます。他の二人も、そうだと思います」
「それ以外は?」
「えっ?」
すると、三人はまた顔を見合わせた。
今度は、横からヒューディリアさんが割り込んできた。
「えっと…契約魔法って、一つまでしか使えないのではないですの?」
「え?そうなの?」
「ええ、そうでしたわよね?」
ヒューディリアさんが三人に確認すると、三人全員こくこくと頷いた。
「そうなんだ。契約魔法使ったことないから知らなかった」
慌ててそう誤魔化したが、契約魔法が一つまでしか使えないというのはどういうことだろうか?
普通に何個でもかけられるはずなのだが、どうしてそう勘違いしているのかも検討がつかない。
しかし、ヒューディリアさんまでそう言っているということは嘘ではないだろう。
しかし、そうなってくると尚更興味深い。
本来一色しか持たないはずなのに、契約魔法を抜いてもこの人達は複数の色を持っている。かくいう私も、持っている色は一つだ。
まあ、それは半分わかっていたことなのでいいだろう。問題は何人にするかということだが、やはり全員色の数が同じなら一人でいいだろう。最初に声をかけた少女にしておこうかな。
「その子だけでいいから、他は殺しちゃおう」
そう言って私が少女を指差すと、二人は顔を青ざめさせた。
「ま、待ってください!俺、何でもしますから!」
「私も!何でもします!だから殺さないでください!」
二人は私の前にひれ伏して、懇願した。
少女はただ呆然とそれを見ていて、何故自分が選ばれたのかという顔をしていた。
「こう言っていますけど、どうしますの?」
「じゃあ、気になってたことがあるから試させてよ」
私がそう言うと、二人は生かしてくれると勘違いしたのか私に感謝をしだした。
その言葉を聞きながら、私は彼らをの事を本当に見下していることを自覚した。
どうせ殺すのに私に感謝している姿を見て、何も思わなかったからだ。もし私が彼らを対等に見ているのなら、自分のことを悪役みたいだと思っただろう。しかし、私は子供が蟻をいたぶって殺すような、そんな意味合いの感情しか湧いてこなかった。
まさに実験動物といったところか。これ以上喋られるのも鬱陶しいので、早速気になっていることを試してみることにした。
「じゃあまずそっちの人ね」
そう言って私はおじさんの方に向けて魔法を撃った。
至って簡単な魔法で、水魔法と呼ばれる水に関する現象が起こる魔法の中の初級とも呼ばれる魔法の『アイススピア』だ。
おじさんのコアが右足の腿あったので、そこに目掛けて撃った。
私の疑問は、この人達のコアを破壊したらどうなるか。ということだ。
「いっ…!?」
一瞬何が起こったのかと痛がった後、おじさんは息絶えた。
「……どういう事ですの?」
おじさんが息を引き取っていることを確認した後、ヒューディリアさんは私に問い詰めてきた。
それは、何故殺したかということではなく、何故『アイススピア』程度の魔法を腿に当てられただけで死んだのか、もいうことだろう。
いや、『アイススピア』程度と言っては語弊がある。魔法は込める魔力によってその威力が変わるのだが、今回の『アイススピア』にはそれなりに魔力を込めた。コアはかなり硬いので、威力が弱いと傷つけることすら出来ないからだ。
今回はたまたま火力が丁度良く、コアを破壊した上で足を貫通はしなかった。
つまり、一見すると腿を貫通しない程度の威力だったということだ。
「ちょっと考えさせて」
コアを破壊されたら死ぬということは確実だ。ということは、この人達は魔物なのだろう。
しかし、魔物にしてはおかしい点がある。
まずは、一見ただの人であること。つまりは、意志を持って生物を襲わないことだ。
そして二つ目は、今回の現象だ。
魔物が死ぬと、器が崩れる。つまり、器が土の場合は魔物の姿が土に戻るのだ。
しかし、今回はおじさんのままだ。
これは、器がおじさんだと考えるのが妥当だろう。すると、どういう事だろうか?
少女は、魔物を身体の中に入れられたと言っていた。しかし、その魔物は既に死んでいるはずだ。
その際に破壊されたコアが、おじさんを器として認めておじさんの魔力を自分の魔力としたのだろうか?
いや、そんなことはありえないはずだ。
この契約魔法を除いて三色あるのが原因なのだろうか?そうなると、恐らく一色は本人のものでもう一色は魔物のもの。だとすると最後の色は…?
「うーん、わからないね…」
私がそう呟くと、ヒューディリアさんはおじさんに何が起こったかがわからないという意味で捉えたようで、勝手に納得してくれた。
「そうですの…元々弱っていましたし、とどめの一撃になってしまったのでしょうか?」
「それは…どうだろうね…」
私は少し雑に返事すると、次は何を試そうか考え始めたのだった。