04 初めての依頼
腹ごしらえも終わり、私達はリヒトロッデから徒歩で数時間かけて蒼の森へとやってきていた。
道中はだだっ広い草原で、たまに馬車とすれ違ったり、野生の動物が歩いていたりするくらいだった。
今回の依頼は蒼の森で発生した狼型の魔物の群れの討伐で、依頼ランクはEの最低ランクだ。
ヒューディリアさんが同行するならもっと難易度の高いものでもいいのではと言ったが、初回の依頼だし依頼自体は簡単なものにして、今回は魔物討伐の流れを学ぶという目的だということだった。
「さて、ここから森に入る訳ですけれど…リリさんは魔力の流れとかはわかるのかしら?」
「うん」
「それじゃあ、ここからは魔力をより感じる方に進んでいきますわ。とは言っても、魔力を発しているのは魔物だけじゃありませんの。もしかしたら魔物よりもより多い魔力を発している─例えば遺跡や秘境、他のギルド会員などがある場合もありますわ。
だから、一番魔力を感じる方へと進みながらも周囲の魔力の流れに目を配って、その魔力の発散源が動いているか、その場合どちらに動いているかを読んで魔物の位置を推察しますの。リリさん、お願いしていいかしら?」
「うん。ヒューディリアさんは出来ないの?」
私がそう聞くと、ヒューディリアさんは困ったように笑った。
「いえ…いつもなら出来るのですが、リリさんの発する魔力が強すぎて今は無理ですわね…」
「…なんか、ごめんね」
なんと、私と一緒にいるとそんな弊害が生まれてしまうとは…
ヒューディリアさんの分まで頑張らないとと思った私は、張り切って魔力の流れを読み始めた。
「うーんと………左側から大きな魔力が一つ。あと、前からちょっと左に逸れたところに魔力の流れがたくさんある。これが魔物の群れかな?右の方に流れていってるね」
私は、感じた魔力の流れを意図的に一部除いて報告をした。バレないかと少し不安になったが、そんな私の不安は杞憂なようでヒューディリアさんは目を見開いて驚いていた。
「リリさん、そこまでわかるんですの!?
そんな詳しく流れを読める人なんて、聞いたことがありませんわ。わたくしだってせいぜいどっちから魔力を感じるか程度ですのに…
この森には、たしかにリリさんが大きな魔力を感じると言ったところに魔力石が取れる洞窟がありますわ。三種類というのは、森に用があって来た人達でしょうか…
それにしても、これは大物を確保してしまったかもしれませんわね…」
後半の方はボソボソとしか聞こえなかったのでよくわからなかったが、どうやらヒューディリアさんは驚いているようだった。
褒められて悪い気はしないが、もしかすると流れの事に気を取られるばかりでやらかしてしまったかもしれない。
よく考えたら、魔物をすぐ見つけられないこともあると言っていたから、こんなに詳しく伝えるのはダメだった。いや、どう考えても不自然な魔力の流れを感じていて気を取られてしまったので、今回は仕方ない。……仕方ない。
「とにかく、先回りしてしまいましょう」
ヒューディリアさんがそう言うと、魔物達の流れの先へと向かっていくのだった。
☆☆☆★★★☆☆☆★★★
魔物達が動いている方向に先回りして待っていると、魔物達から逃げるようにして旅商人と思われる大きな荷台を引いた馬車がたくさんやってきた。
「あら?なぜ馬車が…?」
「うーん、おかしいな…あの馬車からは全く魔力が感じられないよ。微量でも魔力があればわかるのに」
そう言うと、ヒューディリアさんは深刻そうな顔をして呟いた。
「魔力隠蔽…」
「魔力隠蔽?なにそれ?」
「自然に発する魔力を0にすることが出来る魔道具ですの。国が所有権を有するほどの貴重品ですのよ」
「何でそんなものが…?」
「わかりませんわね。国からの重要な使者でしたら、ギルドに護衛の依頼が来ているはずですが、そんなものは無かったはずですわ」
「依頼ってそんな全部確認出来るものなの?」
「お恥ずかしながら、わたくしは巷で依頼中毒者なんて呼ばれているのですわ。
コロシアムの日や準備日を除いてはほぼ毎日依頼をこなしていますの。そんなわたくしはギルドの方にも感謝をしてもらえているようで、どんな依頼でもわたくしに確認をとってくれるのですわ」
「依頼中毒者…」
…ヒューディリアさんは、ちょっとやばい人かもしれない。
しかし、魔力隠蔽。そんな事が出来る魔道具があるとは…真相を確かめたいところだ。
「そんな目で見ないでくださいまし…」
少し照れたようにしたヒューディリアさんは、咳払いをすると真面目な顔に戻って続けた。
「…これは、確実に何かあると見て間違いないですわ。
あの馬車達が私達に気づいた時に、どのような反応をするかである程度見極めるしかなさそうですわね」
☆☆☆★★★☆☆☆★★★
どうするべきか悩んだ私達は、一芝居を打つことにした。
それは、馬車の連中に敵意むき出しで近づくというものだ。それに対する相手の反応で、助けるべきか否かを見分けるという作戦だ。
そうと決まると、私達は馬車にギリギリ当たらないように魔法を放ちながら突進した。
「隊長!前から何者かの襲撃が!」
一番先頭にいた馬車の騎手が叫んだ。
すると、ヒューディリアさんがとてつもない速度でその者へと迫った。
「死になさい」
そのセリフと共に、ヒューディリアさんが後ろから眺めているだけでもやばいと感じる程の圧力を放った。
「……やりすぎじゃない?」
遅れてヒューディリアさんの元へと駆け付けると、やはりその騎手の人は気絶してしまっていた。
「…護衛をつけていないようでしたので、てっきりある程度はやれる人なのかと……」
「この人達の善悪に限らず、もう温厚に済ませるのは無理そうだけど…」
「……申し訳ありませんわ」
作戦とは少しズレてしまったが、そう言い合いながらも後ろの人達に気を向けていると、彼らはあからさまに慌てているようだった。
「ヒューディリアさん、これはどっちなの?」
「そうですわね…この者から感じたのは焦りと怒り、それに怯えでしたわ。
そして、わたくしに襲われているというのにまるでわたくしを見ていないような目でしたわね」
「というと?」
「あくまで推察の域は超えませんが、襲っているわたくしより危険に感じていることがあったのでしょう。
つまり、何らかの理由でこの荷運びに失敗出来ない…ということだと思いますわ」
「うーん…なんだか怪しいね?」
「そうですわね。限りなく黒ですわね」
そう私達が相談していると、三人の男が襲いかかってきた。
「クソッ!テメェら生きて帰れると思うな!」
「これはまた露骨な悪者台詞を…襲いかかってくるというのなら、遠慮なく行かせてもらいますわよ?」
「うるせぇ!オラァ!!」
二人の男が回り込み、一人の男がヒューディリアさんに斬りかかった。
「剣捌きがなっておりませんわね」
ヒューディリアさんは男の剣を難なく避けると、腰に下げていた二本の深紅の剣を抜いた。
「うわあ、すごい赤い…」
ヒューディリアさんが腰に下げている鞘が赤かったので目立つなあと思っていたのだが、まさか刀身まで真っ赤だとは思ってもいなかった。
そんな呑気な感想を抱いていた私は、次のヒューディリアさんの行動に思わず目を見開いてしまう。
剣を抜いたヒューディリアさんは、何のためらいもなく男の首を跳ねたのだった。
「このアマッ…」
それを見た仲間の男が、我を忘れて襲いかかった。
……というか、私ガン無視されてない?
「囮に構っている暇はありませんの」
ヒューディリアさんがそう言うと、襲いかかってきた方の男を尻尾で串刺しにし、残りの男を剣で切り裂いた。
その光景にショックを受けていると、ヒューディリアさんが私を急かすように声をかけてきた。
「リリさんには刺激が強かったかしら?
でも、そんなことを気にしている場合ではありませんわよ。彼らが時間を稼いでいる間に、馬車は迂回してしまったようですわ。私達に魔物を押し付ける気なのでしょう。本来の依頼的にはそれで良いのですけれど、こうなってしまっては彼らを見逃すことは出来ませんわよ」
「う、うん…」
ヒューディリアさんの言葉で我に帰った私は、馬車を追いかけて逃げていった方へと駆け出した。
どうやら、私は初回の依頼からとんでもないクジを引いてしまったようだ…