03 依頼の準備
翌日、『ロータス』への参加を決めた私はヒューディリアさんと一緒にギルド本部を訪れていた。
キューちゃんは今日はお留守番だ。魔力濃度が低かったのが原因なのか、最近は少し元気がないようだったので、あの部屋で休ませている。
「リリ様ですね。本日はどのようなご要件でしょうか?」
「パーティーの参加を決めたの」
「わたくしが『ロータス』のリーダーのヒューディリアですわ」
そう言って、私とヒューディリアさんがギルド会員カードを提示する。
「かしこまりました。リリ様のパーティー『ロータス』への参加の手続きを致しますので、しばらくお待ちください」
受付の人が奥へと消えていくと、ヒューディリアさんが一枚の紙を渡してきた。
「今後の『ロータス』の予定を纏めたものですわ。渡しておきますわね」
紙を受け取って見てみると、次の予定は一週間後のコロシアムとなっていた。そしてその次もコロシアムで、その次もコロシアムだ。
「『ロータス』は基本コロシアムしかやらないパーティーなのですわ。なので、次のコロシアムまでは休暇の予定になっていますわね。
リリさんが依頼を受けてみたいというなら、個人的わたくしがお付き合いしますわよ。最初だと色々と勝手がわからないでしょうから」
たしかに依頼の受け方やなんやは全くわからないので、教えてくれるのはありがたい。しかし、コロシアム専門チームとなると、依頼はどうしているのだろうか?
それを聞くと、シンプルにそれぞれがソロでやってるといった返事がきた。
「そんなの、パーティーとしてありなの?」
「ええ。全員がきちんと依頼をこなしていれば、文句は来ませんわ。
それに、依頼はパーティーの揉め事の種になることが多いんですの。報酬の内訳とか、依頼を受ける頻度とか色々と」
そんな話をしているうちに、受付の人が戻ってきた。パーティー参加の手続きは無事に済んだようで、今日はここで解散かと思ったが、ヒューディリアさんがある提案をしてきた。
「リリさんがよろしければ、この後依頼を受けてみるのはどうでしょう?元々わたくしはこの後依頼を受けようと思っていたのだけど、リリさんも依頼の事が気になっているようですので」
「いいの?じゃあそうしうかな」
『ロータス』に所属している以上、依頼はソロでこなさなければならないかもしれない。ならば、早いとこ依頼に慣れておきたかったので、この提案はありがたかった。
本当に突然今日で大丈夫なのかな?と思ったが、ヒューディリアさんは既に依頼を受ける気満々のようで、そのまますぐに別の受付へと案内された。
ギルドの依頼を受けるにはそれ専門の受付で依頼の一覧を見せてもらい、その中から依頼を選んで受けるという至って単純なものだった。
しかし、もちろん全ての依頼が受注可能な訳ではなく、受注条件(主にランクなどの制限)を満たす必要がある。
今回は、私とヒューディリアさんの二人ということで簡単な依頼しか受けることは出来なかった。私達は、その中でもこのリヒトロッデに一番近くの依頼を受けることにした。
「狼型の魔物の討伐って、だいぶ大雑把だね。名前とかないのかな?」
「魔物に名前はありませんわね。同じ魔物は二度と現れない…とまで言われるくらいですの。
それと、この依頼はかなり前情報がしっかりしていますわよ。危険な依頼になると魔力濃度だけで判断する場合が多いので、何かの魔物が発生したかもしれないということしかわからないのですわ」
同じ魔物は二度と現れないって、本当にそう思っているのだろうか?
いや、ギルドが名前をつけていないということはそうなのだろう。だとすると、種族達の魔力への理解度はかなり低いのかもしれない。
「魔物ってどうやって見つけてるの?」
「それは、ギルド役員が見回りで発見したり、旅商人の方の報告だったりですわね。
基本的には、周りより魔力濃度が高いと魔物が発生している場合が多いのですわ。その中でも魔力濃度が低ければ役員の方で魔物かどうか確認をしますが、魔力濃度が高ければ魔物が発生しているかどうかを調べる依頼がこちら側に回ってきますわね」
つまり、目視出来るまでは魔物かどうかわからないということか。
うーん、本当に魔力への理解度が低そうだ。
「でも、それだと依頼が出てから受けるまでの時間差で、魔物が移動しちゃわない?」
「さすがリリさん。鋭いですわね。
その通りで、魔物討伐の依頼はまず魔物を探すところから始まりますわ。まずは依頼にある発生場所まで行き、魔物の生物の魔力を求めてさまようという習性や地形を考慮して移動して方向を推察しますの。それで見つけたら討伐といった流れですわ。
依頼が発注されてから時間が経つと、探すのが難しくなる上に魔物の力が上がっていきますわ。なので、低ランクのギルド会員が簡単な依頼をこなすことには大きな意味がありますの」
「それってすぐ終わるの?」
「いえ、見つからない時は見つからないので、魔物討伐に出かける際は色々と準備をしてから行きますわ」
「ふうん」
「という訳で、まずは準備ですわよ」
依頼の受注を済ませると、次は魔物討伐の準備をしに寮に戻るのだった。
☆☆☆★★★☆☆☆★★★
準備といっても荷物が多すぎると逆に邪魔になるようで、用意するものは最低限の衣服とサバイバルセット、あとは様々な便利な小物くらいにした方がいいそうだ。
それと、依頼中に一番気をつけなければいけないのは食糧の問題らしい。
確かに水は魔法で生み出せるが、食べ物はそうはいかない。かといって大量に持っていくのは荷物になる。そして、現地で確保するにしても得られる保証はないということだ。
といっても、私は魔物はすぐ見つけることが出来るので関係ない話になるが。
「それでは、依頼前のお食事と行きますわよ」
「ご飯食べてから行くの?」
「ええ。わたくしは依頼前には豪華な食事をすることにしていますの。単に食糧問題を少しでも減らしたいというのと、無事に帰ってきてまた美味しいものを食べようという気を湧かせるという意味も込めて…ですわね。
リリさんのお好きな食べ物はなんですの?」
好きな食べ物と言われると、正直少し困ってしまう。
妖精の森から出たのは最近だし、今まで食べてきたもので特に好きだと思うものはあまり無かったのだ。
しかし、その中で唯一美味しいと思えたのがある。しかし、なんというかあれは食べ物なのだろうか…
「どうかしましたの?」
「あ、ううん。好きな食べ物は…特薬草かな」
「薬草…ですの?」
「ううん。特薬草。薬草は味があんまりしないから」
「そうですのね…多分、食事処にはないですわ…」
「やっぱり…」
なんとなくそんな気がしたのだ。特薬草は、私がホテルの部屋に引きこもってた時にレインさんが薬として持ってきてくれたのだ。
実は、後半の方は特薬草が食べたくて引きこもっていたのは私だけの内緒である。
「じゃあ、美味しい葉っぱが食べたいな」
葉っぱ以外も食べられるが、やはり私の口には葉っぱが合ってるらしい。というのがレインさんとの旅で学んだことだ。
「それじゃあ、行きつけの焼肉屋さんに行きますわよ。お肉を包んで食べる葉が、とても美味しいんですの」
「うん。そこにする」
この後、すぐお腹いっぱいになるになってしまった私は、ヒューディリアさんが身体の何処に入ってるの?と思うくらいの焼肉を食べるのを一時間くらい見続ける羽目になったのだった…