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02 『ロータス』

 

 私がお昼寝から目覚めると、時間は既に夕方になっていた。

 キューちゃんを探すと池の辺で気持ちよさそうに眠っていたので、今のうちにご飯を済ませておくことにした。

 寮ではいつでも使えるレストランが二つとギルド食堂という所が用意されており、私はそのうちのギルド食堂に行くことにした。

 ギルド食堂ではギルド会員はタダでサービスを受けることか出来るらしく、券売機にギルド会員カードをタッチすれば券を買えるそうだ。


「何にしようかな?」


 私はレインさんとの旅の時に色々なものを食べたが、それまでは妖精の森の木の葉しか食べたことがなかった。

 そのため、胃がちょっと弱いのだ。油っこいものとかを食べるとすぐ気持ち悪くなってしまう。

 券売機と数分間にらめっこした私は、お味噌汁を食べることにした。


「うう…券一つ買うのも大変だよ…」


 身体の小さい私は、そもそもギルドカードを持ち運ぶので精一杯な上に、券売機のボタンを押すのにもたくさん動かないといけない。

 これは、ギルドの人にお願いして簡単に買えるようにして貰わないと結構憂鬱だ。

 なんとか買うことの出来た券とギルドカードを抱えながら食堂に入っていくと、私を発見した人達から好奇の視線を向けられた。

 今まではホテルの部屋に引きこもっていたのでこんな視線を受けたことは無かったのだが、自分より遥かに大きな人達から見つめられるというのは、何ともいたたまれない気分だ。

 しかし、ここにいる人達とはこれから同じ寮で暮らしていく仲間になるはずなので、揉め事なんかも起こしたくはない。ここは、あえてスルーする方向で行こう。

 あまり気にしてないといったオーラを出しながらカウンターを目指していると、周りからは「あれがあの…」とか「すごい小さーい」とかいった声が聞こえてきた。やっぱりちょっと恥ずかしいな…


「小さいのがいいな」


 カウンターまで辿り着くと、そう言いながらそこにいたおばさんに券を見せた。


「はい。熱いから気をつけてね」


 すると、これも私専用かな?というサイズの器とお盆が用意されていたようで、それにお味噌汁を入れたものを渡された。

 お盆の下にギルドカードを敷いて持ち運び、どこかに空席がないか探してみたが、どうやらこの時間は混む時間帯のようで空席は全然見つからなかった。


「おーい。こっちで一緒に食べよー」


 私が席を探しながら食堂をさまよっていると、食堂の隅の方から声をかけられた。

 初対面の人と食事をするのはちょっと心細いが、席も見つからないので近づいてみると、そこには三人組の女性がいた。


「やっほー。もしかして、あなたが噂のフェアリーさん?」


 私が空いている机の上に座ると、横に座っていた先程声を掛けてくれた人がそう話しかけてきた。

 この人は華奢というよりは筋肉質っぽい体つきをした人で、頭に二本の立派な角が生えているのが特徴的だった。


「うん。フェアリープリンセスのリリだよ」

「リリちゃん。可愛い名前だねー。

 あたしは鬼神族オーガのデリーナ・オルガレアだよー。よろしくね」


 そう言ってデリーナさんが右手を差し出してきた。

 私がどうしていいのかわからずに戸惑っていると、私の正面に座っている女の人が助け舟を出してくれた。


「デリーナさん。リリさんが困っていますわよ」

「んー?おー、そっかー。リリちゃんのサイズじゃ握手できないかー」


 デリーナさんがわざとらしく舌を出す。

 お礼を言おうと正面の人の方を見ると、その人と目が合った途端に天敵に睨まれたかのような気分になった。


「リリさん。はじめまして。わたくしは蛇翼族エキドナのヒューディリアと申しますわ。

 わたくしの性質で、目が合ったものに圧迫感を与えてしまうというものがありますの。不快でしたら申し訳ございませんわ」

「う、うん…大丈夫だよ」


 ヒューディリアさんからは、いい人オーラというかとても礼儀正しい人だという感じがしたので、本当は圧迫感があるがちょっと無理をして笑顔を作った。

 ヒューディリアさんの身体はその種族名の通りで、下半身が蛇で上半身は人。そして背中から蝙蝠のような羽が生えていた。あと、目の前の料理を見る限り虫が主食らしい。

 流れ的に、最後の人の番かな?と思ってちらりと対角に座る人を見ると、竜と人を足して二で割ったような顔をしていた。


「それでは、最後に私が。

 私はエレカ。竜人族ドラゴニュートよ」

「おー。エレカちゃんが喋ったー」

「うるさいですよ、デリーナ」


 エレカさんがそう言うと、デリーナさんがおおーと謎のリアクションを取って会話が終わってしまった。

 喋ったってどういうこと?と思ったが、なんとなくデリーナさんのリアクションで一区切りという感じだったので、聞くことは出来なかった。



 ☆☆☆★★★☆☆☆★★★



 私の食事が終わると、何故か私のことを待ってくれていた三人がある提案をしてきた。


「リリさん。改めて自己紹介をしますわ。

 わたくしはヒューディリア。『ロータス』というパーティーのリーダーを務めていますの。

 パーティーメンバーはこの三人ですわ。今回は、リリさんにわたくし達のパーティーに参加して貰いたくて声をかけさせて頂きましたわ」

「パーティーに?」


 急に持ちかけられた話だったので、思わず聞き返してしまった。


「ええ。それとも、既にギルドの方から参加するパーティーを指示された後でしたか?」

「ううん。参加するパーティーは、候補の中から選んでくださいって言われたよ」

「なるほど…もしかすると、その中にわたくし達のパーティーも入っているかもしれませんわね」

「そうなの?」

「ええ。わたくし達のパーティーは現在、純粋な魔法使いが居ないのですわ。リリさんは素晴らしい魔法を使うと聞いております。なので、わたくし達とリリさんの相性は抜群ですわよ」


 確かに、レインさんにパーティーというのを詳しく聞いた時には、役割が被らないような構成が一番だと言っていた。私は物理的な戦いは絶対に無理なので、見るからに強そうなこの三人とは役割が被らなそうだ。


「ほらほらー。ここで会ったのも何かの縁だしさー」

「貴方なら歓迎です」


 他の二人もこうは言ってくれているが、私はあまりピンと来なかった。

 いや、別にこの三人が気に入らないという訳では無いが、私の中には簡単に決めていいものなのかという疑問があった。


「ふふ。簡単には堕ちて頂けませんか…

 それでは、具体的なお話をしましょう。まずは、わたくし達の強さからですわ───」



 ☆☆☆★★★☆☆☆★★★



 その後、数十分程の『ロータス』のアピールタイムが続いた。

 今得た彼女達の情報を纏めると、こんな感じだ。



 ──────────────


 ・ヒューディリア 蛇翼族エキドナ ランクS- ギルド順位7位

 役職は司令塔。眼に関する能力を幾つか有しており、戦闘の状況を見てチームメンバーのサポートや指示を出す。必要な時は前衛にも中衛にも後衛にもなる。

 事実か謙遜かはわからないが、ランクや順位は歴が物を言うと言っている。


 ・デリーナ・オルガレア 鬼神族オーガ ランクB- ギルド順位126位

 役職は前衛。肉体能力が凄まじく、とても大きな剣を使う。魔法は一切使えない。

 オルガレアというのは神名で、オルガレアの加護というものを受けているらしい。デリーナの家系がオルガレアの祖先ということで、その加護云々は本人もよくわかっていない。


 ・エレカ 竜人族ドラゴニュート ランクA- ギルド順位63位

 役職は遊撃。飛行能力があり、力が強く魔法も使えるという器用さ。そして、ギルド会員の中でもトップを争うレベルの速さを持つという凄まじい単体能力を誇り、パーティーの連携とは一歩離れた位置から遊撃を行うことでその真価を発揮する。

 竜人族ドラゴニュートは繁殖能力が極めて低く、とても数の少ない種族。しかし、その分生存能力(つまりは、単体の強さ)が極めて高く、誇り高い種族なのだとか。


 ・パーティー『ロータス』 パーティーランクB

 コロシアム順位

 総合 22位

 ルール1 なし

 ルール2 3位

 ルール3 6位

 ルール4 なし

 ルール5 なし


 ──────────────



 ついでに、コロシアムのルールについても教えて貰った。それはこんな感じだ。



 ──────────────


 ☆基本ルール

 ・降参するか、自分のHPが0になったら負け又は脱落となる。

 ・HPについて。試合中は特殊な魔道具をつけて参加してもらい、攻撃が当たるとその魔道具が自動的に威力や攻撃の種類、被弾した部位などを考慮してダメージを算出。そして、そのダメージ分HPが減る。HPの数値はルール毎に設定される。

 ・地形や天候といった試合環境は、試合毎に異なる。事前に発表される場合と、当日ランダムに決まる場合がある。

 ・装備は何を持ち込んでも良い。

 ・試合中に相手を殺した場合、基本的に殺された者がその責任を負う。ただし、HPが0になった後での攻撃による殺害や、執拗に致命傷を狙った攻撃を繰り返した場合、ギルド会員から除名処分とする。



 ☆ルール1

 ○5vs5の三本勝負

 ・一本目 3vs3

 ・二本目 1vs1の三本勝負。一本目は魔法なし。二本目は魔法のみ。三本目は魔法あり。

 ・三本目 二本目に出なかった2vs2


 ☆ルール2

 ○3vs3の三本勝負

 ・一本目 1vs1の三本勝負

 ・二本目 2vs2

 ・三本目 二本目に出なかった1vs1


 ☆ルール3

 ○2パーティー合同の9vs9の五本勝負

 ・一本目 5vs5

 ・二本目 3vs1の時間以内に敵を倒す勝負。

 ・三本目 1vs3の時間以内に敵を倒す勝負。

 ・四本目 1vs1の三本勝負。一本目は魔法なし。二本目は魔法のみ。三本目は魔法あり。

 ・五本目 3vs3の三本勝負

 ・参加者全員は、全ての勝負を合わせて二回以上エントリーしなければならない。(五本目は確実にエントリーされるので、一~四本目で少なくとも一回エントリー)


 ☆ルール4

 ○6vs6の一本目勝負。

 ・4vs4


 ☆ルール5

 ○5vs5の一本目勝負。

 ・常に3vs3になるように最初に3人選出して、脱落者が1人出る度に未選出の人を1人追加。先に3人未満になった方の負け。


 ──────────────



 基本ルールの殺害云々に関しては、今までそんな事件は起きたことは無いらしい。

 そもそもギルド会員はかなり審査が厳しく、少しでも素行が悪かったり明らかにギルド会員同士での悪い意味での対立があったりする場合はすぐに除名処分となってしまうため、コロシアムで合法的殺人をしようなどと考える人はその時点で弾かれてしまうのだとか。


 そしてこのコロシアムは、ギルド会員の中でも、また世の中でもかなり盛り上がっている行事のようで、どのパーティーも力を入れて取り組んでるらしい。

 前は『ロータス』もコロシアムガチ勢と呼ばれていたらしいが、メンバーが減ってしまって参加出来るルールが減り、今は総合順位争いからは落ちてるのだとか。

 参考までに、合計チーム数はいつも60チーム前後になるそうだ。


 そして、パーティーの雰囲気やルールなどの詳しいことは口ではどうもということで、加入してからのお楽しみだそうだ。

 ヒューディリアさんに聞いたところ、パーティーへの参加や脱退は割と気軽に出来るらしい。とは言っても、やりすぎると本部からお叱りを受けるらしいが。

 そういうことならとりあえず入ってみようかなと思った私は、ヒューディリアさん達の誘いを受けて、『ロータス』への参加を決めたのだった。

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