姫様の涙
いつもの倍くらいあるので注意。
よろしくお願い致します。
私は、ぼうっと窓の外を見つめる。
今頃、私と彼の合作物語が、ホールで上演されてるのだろうか。
当然私も参加するつもりだったけれど、彼に、
『あとで報告にいくから、部屋で大人しくしているように』
と言われたので、体調不良を理由に早引きをして来た。
…なにかおかしいと思わなかった訳ではない。
しかし、彼が裏切るメリットはない筈だ。
それに、私は彼の役に立てれば、それが戦友だろうが捨て駒だろうが構わないと思えば、どうでも良くなった。
我ながら、ずいぶんひねくれた恩返しだと思う。
けれど、文句なら私をこんな風に育てた人たちに言って欲しい。
勿論、師匠である宰相を含めた"人たち"だ。
そんなことをつらつらと考えてた時だった。
コンコン
窓を叩く音がする。いつの間にか下がっていた目線を上げ、窓を見る。
…ああ、終わったのだろうか。
…何故、この人はこんな人目を凌ぐようにして、いつもやって来るのだろうか。
「貴方、またそんなところから来たの?」
つい、キツイ言い方になってしまう。
人から冷たいと言われる無表情を向ける。
でも、こればっかりは、彼が悪いと思う。
「今回は良い物を持ってきたんだよ。」
楽しそうに彼はいう。どこか緊張してるように見えるのは、気のせいだろうか。
でも、そんなことより、今は大事なことがある。
「そんなことより、例の件はどうしたの」
彼の仕事は、まわりの波紋を探るだけだった筈だ。
彼のことだから、きっと適当な人をきっちり用意した筈だ。
「ああ、劇のヒロインちゃんは、とても良い仕事をしていたよ。」
「幻覚は、ちゃんとかかっていたのね?」
「勿論。僕からでも君の母さんがいるように見えていたよ。君も、なかなかにえげつないことを考える。」
「冷徹宰相様に言われたくないわね。ふふふ、あの王様は永遠に母に溺れたままなのでしょうね。父に似てしまった私へのこの冷遇が良い証拠。」
「…目が笑ってないよ。」
彼が私に痛わしいものでも見るかのような瞳を向けてくる。
「気のせいよ」
私が人に愛されていないことは、とっくに分かっている。
だからこそ、いらない私が全てをかぶって、この世の、いえ、彼の邪魔なものを排除しようと思ったの。
それに、こうすれば、もしかしたら彼の心に私を、残すことができるかも知れ
ないじゃない。
…私は何を考えているの?
「あら?」
何故だか目から涙が溢れだした。
「おかしいわ。気が緩んだからかしら。」
涙は、何かが決壊したかのように、後から後からとどめなく溢れた。
ありがとうございました。