第三話 ギルドの貴公子
「ギルドの穴場へようこそ~!」
俺達は今、ギルドの連中が集まってると言う穴場に来ている。ギルド街に着いたのは今から30分前ぐらいだ。
目的地へと無事辿り着いたのは良かったのだが、おてんばで、天然な姫様ルーラ。
あの姫様のせいで俺達二人がどれ程苦労したか・・・・・・。
ギルド街に着いて早々、あまり外に出たことのないルーラは興奮して勝手に一人であちこち行くし、お店に入っては全部の品を買い占めようとするし。
店から摘まみ出されたと言う訳だ。
王様が言ってたがルーラを狙う敵が何処で出会すか分からない今、興味本意であちこち出歩くのは危険を及ぼすと言うもの。
少しも姫様から目を離してはいけない。それが俺に与えられた任務だ!
だがこの街の人達はまだ疫病が流行ってないのか?ルーラを見ても誰も姫様と気付かないもんな。
周りを見渡すとギルドの連中が騒いだり呑んだりしていた。女性も何人か居るようだ。
「ご用件は何でしょう?依頼ですか?それともお食事をされますか?宿泊か休憩とかですか?」
目の前で俺達に用件を聞いてくる。ギルドの女店主はとてもじゃないけど、綺麗な人なんだなとつい見惚れてしまう程だ。
「仲間の募集をしたいのですけど」
「仲間だと!?」
そんな事聞いてないぞ!つい台をバンってしてしまう。仲間とは信頼出来る者同士が旅を供にする事であって、それをどっかの誰かも分からない奴を仲間に誘うって?
どんな奴が仲間になるかも分からないのに、アトレラは一体何を考えてるんだ!
ルーラが世界の誰かに狙われてるって事を忘れてないよな?
俺の脳内思考がグルグルと駆け巡る。
「仲間が少しでも多い方が剣士様も助かりませんか?私と姫様は援護とかの魔法が多いですし、近距離は苦手なんです。ですが、それだと近距離の相手を剣士様一人で戦う事になりますし大変だと思われます」
「そうだけど、俺一人でも戦えるようにレベルアップすればさ・・・・・・!」
「それは無理だな」
後ろの方から落ち着いた若い男性の声が聞こえてきた。ゆっくりと後ろに振り返ると上から物を見るような冷たい目で俺達を見下していた。
周りの人達がこの男に向かって急に跪き、目を閉じている。
この状況が掴めないが何処かの貴公子みたいな格好で俺達に話を進める。
後ろに立ってるのは兵士?
「お前のレベルを調べさせて貰ったが、この街に来てまだレベル11だと?笑わさせないでくれ」
「は?」
「お前はこれから仲間達と一緒にレベルアップをするみたいだが、この街に居る者達は皆、レベル30以上はいってるぞ?そんなんで良くこの街まで辿り着けたもんだな」
相変わらず冷たい目で俺達を見下しては小馬鹿にするような口調で挑発して来る。コイツは一体何が言いたいんだ。イライラが心の底から沸き上がりそうだ。
「あ、貴方はグラルス公爵家の息子、ジル・グラルス様じゃありませんか!?」
突然アトレラが叫んだ。どうやらこの上から目線男を知ってるようだ。今公爵家って言っていたが、この街の貴族なのだろうか。
周りを見れば跪いてる人達ばかりだし偉い人なのだけど、俺は意地でも絶対こいつにだけは頭を下げる事はごめんだ!
ジルって奴を睨むがどうも気にしてないみたいだった。
何かイラつく男だ。
「そちらは姫とお世話役の方か?」
「おいっ!俺を無視するな!」
「はぁ・・・・・・。君は本当に落ち着きのない人だ。少し黙ってもらおうか」
《キィィィィン》
な、何だ?急に頭がクラクラして来た。ジルって奴からおでこに指を当てられると何か呪文を唱えていた。そのまま俺は倒れ込み意識が遠くなる。
「剣士様!?」
「ソーマ様!」
二人が駆け寄って来たがジルから手を掴まれたようで二人は身動きが取れないでいた。
「安心しろ。安眠の魔法を掛けただけだ」
「ジル様・・・・・・」
「私達をどうするおつもりですの?」
「どうもせん。君達に話を聞きたいだけだ」
「お話?」
ルーラが首を傾げて聞き返すがジルは兵士に命令を下した。
「二人を屋敷へお連れしろ」
『はっ!!』
「あの~、ジル様。剣士様はどうしましょう?」
「こいつにも後で話を聞きたい。今は二階のベッドで休ませといてくれ。宿代は俺が出す」
「分かりました!」
* * * * *
どれくらいの時間が経ったのか分からないが気付いた時にはルーラとアトレラ、ジルの姿が何処にも見当たらなかった。俺は慌ててベッドから飛び起き下へ降りていく。
他の人達は何故か何も無かったかのように、呑んで騒いでいた。
「店主!あいつ等の行き先分かりますか!?」
「お目覚めになられたのですね!ジル様はお二人と一緒にお屋敷に行かれました。ですけど剣士様には此処で待機をしてもらうようにジル様から言われてますので・・・・・・」
またジルか。この街の人は皆あの男を慕っていた。まぁ確かにこの街では偉い人なのだけど、俺はあんな男は嫌いだ。
見た目で言うと俺と歳はあまり変わらないだろう。
それでも19、20ってとこか。
「関係ないね。俺は自分の仲間を連れていかれたんだ!あの二人は取り戻す!」
「あ、剣士様!!」
女店主から呼び止められるが今はこんなとこで寛いでる場合じゃない。俺はどうやらあの貴族の奴に眠りの魔法を掛けられたに違いない!
まぁ、お陰で疲れは取れたけど。
沢山の人々を掻き分けながら屋敷へと向かい、辺りに見張りの兵が居ないかを確認する。
こんなとこで捕まる訳にはいかないからな。
塀を登り屋敷の庭へと降りた。庭の中には沢山の花が植えられている。あの城では一種類しか見掛けなかったが花って沢山の種類があるって事をこの場で知った。流石に屋敷の庭にある花を摘むのは良くないから目に焼き付けとこう。
てか花を見に来た訳じゃなくアトレラとルーラを連れ戻しに来たのに何やってんだ、俺は。
花に見惚れていたが一つの窓を見付けた。此処からなら屋敷の中に侵入出来そうだ。
本当は侵入とか剣士である俺がやる事ではないのだけど、こんな状況でじっと我慢を出来る筈がないのだから。
偶然なのか、空気の入れ換えをしてるだけなのかは知らないが窓が一つだけ開いてるって事は侵入されてもおかしくはない!
まぁ今から侵入する奴がこんな事言えないけど。
「では、ちょっと失礼しますよっと!」
そう言って窓から侵入しようとした。まさか誰かが待伏せしてるとは予想もしてなかったが。
「何している」
「げっ。この声は・・・・・・」
窓側の右の方にあの男、ジルが腕を組んで冷めたような目で此方を睨んでいる。その瞬間ビックリした拍子に庭に尻餅を付いてしまった。
何故この男が居るのか分からず頭の中が真っ白になる。
取り合えず言い訳を考えよう。
「いやぁ、何か寝惚けてたらしくて気付いたらこんな立派な屋敷の中に入ってしまいました!」
うん、これなら完璧に怪しくない筈だ。だが正直俺は嘘を付くのが下手で目がつい泳いでしまう。
それをこの貴公子様は見逃してはいなかった。
「もっとマシな嘘を付けないのか?嘘ってのがバレバレだ。お前はそれが分かりやすい」
「申し訳ないです・・・・・・はい」
「・・・・・・。とにかく中に入れ」
「はい。・・・・・・え?」
「目立つから」
あー、そう言う事か。上から目線で言われるのはムカつくがあの二人を取り戻せるチャンスだから今は大人しくしていよう。
窓から中へ入ると奥には豪華なベッドに下は柔らかい絨毯、壁には綺麗な女の人が載った絵画が飾ってある。流石貴族だけあってどれもお金を掛けてる物ばかりだ。
「何で俺を中に入れてくれたんだ?」
「さっきも言ったろう。あんなとこに居たら目立つからお前を中へ招いてやったんだ」
「あー、そうですか。それは失礼しましたね」
気持ちの籠っていない態度をジルに向ける。ジルは相変わらず冷たい目で俺を見ていたが、そのままドアの方へ行き手を掛けようとする。
だが俺はそれを引き止めるように声を出した。こいつには色々と聞きたい事があるから。
「少しあんたに質問したい」
「何だ?」
「あんたはルーラの事を姫様だって気付いてたよな?何が狙いだ」
「別に何も狙ってなど無い。話がしたかっただけだ、疫病の呪いについてな」
「!!?疫病だと!気付いてたのか?」
「あぁ」
何と言う事だ。疫病の呪いがこんなに早くバレてしまうとは予想外な事に驚いてしまう。
だが他のギルドの連中は誰も姫様だとか、疫病神の呪いだとか騒がなかったのは何故だろう。
色々頭の中をグルグル駆け巡るが何も思い当たる事がない。
貴公子様には何でもお見通しって訳か?
「殺すのか?」
「お前は分かってない。さっきも言ったが何もする気はない。だから殺したりなどはせん」
ジルの言葉が疑問に思う。何故殺しもしないのに話す為だけに俺の仲間を連れて行ったのか。あの二人は今何処に居るのかを聞かないといけない。
そう思うのに上手く喋れない。
「じゃあ、俺は・・・・・・?」
「お前にも話が聞きたい。だが少しでも嘘を言ってみろ。その時は容赦なく・・・・・・」
こいつはマジだ。マジで俺を殺す気だろう。姫様とアトレラの時とは大違いだ。女には手を出さんって事か?
まぁ、こいつは女好きには見えないけど。
「分かった。本当の事だけ話すから何でも聞いてくれ」
「じゃあ聞くが、何故お前達はこの街を訪ねた?」
「えーっと、ギルドで仲間を集めようと・・・・・・」
最初の目的はギルドで情報収集だったけど嘘は言ってない筈だ。実際、アトレラが俺の為に仲間を募集しようとしてたしな。
「そうか」
あっさりと剣士の言葉を信じたよ、この貴公子!これで良いのか?
顔を窺うがやはり冷たい目をしている。もう少し感情を表に出せば良いと思うが、この貴公子様には無理があるかも知れないから言わないでおこう。
「じゃあ二つ目の質問だ。疫病神の呪いを掛けられてる姫様を旅に同行させるとはどう言う事か分かってるのか?」
「分かってるさ。疫病をバラ撒くかも知れないってな」
「ではお前は考えなかったのだろうな。バラ撒くかも知れないって事は街全体、疫病を流行らすって」
「・・・・・・」
この貴公子の言葉は正論だ。だけど俺には王から姫様を守る任務を与えられている。疫病神の呪いのせいでルーラは世界中を敵に回し、あちこちの街から狙われてるってな。
ギルド街にはまだ疫病が流行ってなかった。だから姫様を殺す者も居なかったのだと。
だが仮にギルドで姫様を殺せと言う依頼があれば報酬の為に働く者も出て来るに違いない。
そうなればアトレラや、ルーラに危険が及ぶだけだ。
その前に疫病についての情報を集め、この街からは離れた方が良さそうだ。
何故ならばギルドの街だから。誰かが姫を抹殺する依頼を申し込む前に。
「確かに疫病神の呪いが掛けられてる姫様を旅に同行させるのは危険だよな。だけど俺には任務があるんだ!剣士である俺にしか出来ない役目だ」
「その役目とは全力で姫様を護る事か?」
「そうだ!この命に変えてもなっ!」
「フッ。良いだろう。お前を信じる」
俺は右拳で自分の胸を叩き、真っ直ぐな目でジルを睨んだ。この言葉に嘘偽りはないのだから。
ジルは今まで見せなかった表情を俺に見せた。今まで冷たい奴だとか思っていたけどちゃんと笑えるんだなと思う。
「それじゃあ、あの二人をそろそろ返してくれないか?まだギルドでやらなきゃいけない事があるんでね」
「そうだったな。今此方に------」
《ガシャャャャン!!!》
遠くで窓ガラスの割れる音が屋敷全体へと響く。何事かと思いきや、兵士の一人が血相を変えて慌てて部屋に入ってきた。
「何があった?」
「ジル様と剣士様の話が終わるまであの二人にお食事を持って行こうと、メイドの一人が客間まで行ったのですが・・・・・・」
「まさか、《あの男》が来たってのか!」
「すみません。他の兵士の皆さんは魔法で混乱状態でして、身動きが取れない状態でございます!」
「くそっ!」
部屋から急いで客間に向かうと部屋の中が既に何者かに荒らされていて、二人の姿が何処にも見当たらない。本当に二人は此処に居たのか疑ってしまう。
「何処に行ったんだよ、あいつ等」
「お前の仲間が連れ拐われたのは俺の責任だ。この責任は俺が必ず果たす」
ジルを見ると歯軋りを立て、目が吊り上がっていた。
あの冷たい目ではないようだけど。
まるで野生のようだ。
「そう言えばまだ聞いてなかったな。お前、名は?」
「ソーマ・ナナセだけど・・・・・・」
「ソーマか。説明している暇はない。俺と一緒に来い」
「え?」
訳も分からずジルの後を追いながら屋敷の外を眺めていると、先程の兵士が言ってたように数名の兵士が混乱で立てないようだ。
相手はどんな奴かは知らないけど、ジルは何か知ってそうだ。取り合えず今は聞かないでおくけど、きっとアトレラとルーラもそこに居るのだろう。
だとすれば絶対に助けなればならない。
屋敷から大分離れた所に森林の中にでっかい家が建っているのが見えた。走ってた足を止め、草影に隠れるように森林の中を窺っている。
何も無いように見えるが一つだけ真っ黒い草があったのを俺は見付けた。
「あれって・・・・・・」
「隠し通路につながってるみたいだ」
「まさか侵入とかしないよな?」
俺の質問に疑問を感じたのか目を丸くするが、それは一瞬であって直ぐに元の冷たい目に戻る。
「お前が言える立場か?」
「ははは・・・・・・」
言い返された。確かに俺が言える事ではないが此処まで来たのなら引き返す訳にもいかない。草影に身を隠すようにし、俺とジルはゆっくりとその草に近付く。
邪魔な草は剣で切り裂き、歩きやすいように次から次へと切り裂く。
「見張りはいないようだな。一応言っておくが足音をあまり立てるんじゃないぞ。それと危なくなったら直ぐ逃げろ」
「分かってるよ」
やはりここでも上から目線らしい。そりゃあ、あの街ではジルが一番偉い人なのだろうけど。
ジルが先頭を歩き、俺は後ろを警戒しながら前へと進む。それにしてもこの隠し通路の中すげー暑くないか?汗がダラダラと垂れて来る。
普通の温度よりか少し高いぐらいだろう。
あー、水が飲みたい。
「少し休むか?」
「いや、大丈夫だ。休んでる暇なんかないしな」
「・・・・・・」
汗を手で拭い、気合いを入れ、重たい足を動かした。足が重たいのは暑さのせいなのか、それとも筋肉痛なのか、それは分からないが長くは持たない気がする。
一歩一歩進める足を動かし、進める足を止めた。
「どうした?」
「誰かがこっちに向かって来てる・・・・・・」
その音は少しずつ此方に向かって来てるようで俺は唾を飲み込んだ。
ジルと俺は剣を抜く準備をしたまま音の鳴る方へ目を向けた。
何が此方に向かって来てるのか検討も付かないが、アトレラとルーラを拐った犯人に違いないだろう!
その音はやがて止み、突然物凄い突風に襲われる。
何とかその突風を剣で防ぎ、堪え切れたお陰で倒れずには済んだ。
「これを堪えきれるとは成長したな、ジル」
「やはり貴方でしたか、兄上・・・・・・」
え?どう言う事?今兄上と言ったか?
目付きの悪そうなこいつがジルのお兄さん?
でも何だ?この違和感は・・・・・・。
「其方も良く堪えれたな。褒めてやろう」
この上から物を言う癖はジルのお兄さんで間違いない。どうやら普通に会話をしてるが何か距離がある気もする。
ぽかんと口を開いたままジルのお兄さんを見ていたら急に鼻で笑いだした。
一体何だって言うんだ。
「ジル、そいつの強さを調べて連れて来たのか?」
「・・・・・・。兄上には関係ありません。そんな事よりあのお嬢さん方二人を返して貰えないでしょうか?」
「おいっ!どう言う事だ?俺にも分かるように説明してくれ!」
「この方は俺の兄でザオ・グラルス。一応あの屋敷の元主だ」
「主?父親じゃないのか?」
「・・・・・・」
俺が訊ねるもジルは黙り込み、それを見下すザオさん。未だにこの状況が飲み込めない。
「でも驚いたよ。他人と関わる事が苦手なお前が人を連れてるなんてな。しかも剣士様を」
「別に。それよりも兄上がこんな隠し通路を作ってるとは知りませんでしたよ」
「そうだな。まぁ、あの二人のうち一人は姫様だし、今あの姫様を殺せば街中の被害は起きないのだよ。分かるよな?ジル」
「では、2年前父上と母上を殺ったのは・・・・・・」
「そうだ、と言ったら?」
「っ・・・・・・!」
何なんだ、さっきから。黙って聞いてりゃ言いたい放題だな。怒りが込み上げて来る。身体中が暑い。
それよりも何かに怯えてるように感じる。何故ならば俺はこの男を見た瞬間、慄然としてしまったからだ。
さっきの違和感はこれが原因と言う訳だ!
「例え兄上でも許せません。父上と母上の敵、取らせてもらいます!!」
「おいっ!待てよっ!!」
「お前はそこで見てるが良い。弱者などに助太刀は要らん!」
こいつ、遠回しにレベルが低いって事を強調してやがる。確かにレベルはこの二人より下だけど。
ジルはザオさんに向かって長剣を向け技を使う。攻撃が早くて見えないがザオさんはザオさんで技を素早く交わしていく。
レベルの低い俺には何も出来ないが俺だって一応戦える。だから強く・・・・・・強い力が欲しい!