表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引き籠り剣士の冒険の書  作者: 胡桃のあ
第一章 始まりの書
2/4

第一話 冒険の始まり

『やっりー!また職業レベル上がった!』



『もう!?私はまだ2しか上がってないよー』



今日の天気は晴れ。普通なら絶好のお出掛け日和なのだが外には出たくない。

何故なら俺達は誰が見ても分かる引き篭りだからだ!

別に自慢をしている訳ではないけど、学校にはもう2ヶ月以上行ってない。

毎日先生が(うち)に訪問しに来るのだけど、正直出るのがメンドいしダルい。

チャイムを二回程鳴らしては大きな声で俺の名前を呼んで来る。

あの先生は近所迷惑って言葉を知らないのだろうか。呼ばれたからって「はーい」って誰が返事する?

両親はずっと不在で居ないからこの家には俺しか居ない。一応仕送りはして貰ってるが。



因みに俺には一つ年下の可愛い幼馴染みが居る。別に幼馴染みなだけで付き合ってる訳ではないけど。

その幼馴染みの子も引き篭りらしいから一緒にネトゲーのオンラインゲームで遊んでいたとこだ。

チラッと目線を窓の外に向けるとまだあの先生が腕を組んで立っていた。

いい加減どっかに行ってもらいたいとこだ。

はぁ、と溜め息を溢しながらも俺は目線をパソコンへと戻し、メッセージが何件も来てる事に慌ててパソコンのキーボードを打った。



『どしたのー?返事しろー!』



『わりぃ、わりぃ!余計な邪魔が入ってさ』



『あー、蒼真君も大変だね(笑)』



今メッセージのやり取りをしてる子が俺の一個年下の幼馴染み、汐波(しおなみ) 花怜(かれん)。俺のたった一人の唯一の友達でもある。

引っ込み思案で少しおどおどしてるが、本当は優しくて素直な子なんだけど彼氏を作りたがらないのは引き篭りのせいでもあるのだろう。



『でもさ、正直この設定ってどうなんだ?』



『何が?』



『いや、ほらよ・・・』



俺は花怜の設定画面を開いたままSS(スクリーンショット)を撮る。自分で言うのも何だが上手い事SSが撮れたからメールで送り付けた。



『美人で皆の憧れのお姉さん?』



『だってお前、俺よりも1個下じゃん!それなのにお姉さんは無くね?』



『私だってたまにはお姉さんになりたい時だってあるの!それに蒼真君だってあの設定は何なの?』



幼馴染みからそう言われ自分の設定を確認してみるが、俺からしたら普通だと思うのだが。

俺の幼馴染みはメールやネットゲームだと気が強い。だが現実ではかなり大人しく、いつも部屋に閉じ籠っては俺曰く、パソコンの画面を見つめてる。

まぁコイツも親元から離れて独り暮らしをしてるんだが、俺よりかは遥かに頭が良すぎる。



『俺は良いんだよ、俺はな!』



『またそうやってすぐ理由を付ける!』



友達が少ない俺にはあれぐらいの設定じゃなきゃ周りからバカにされる。こいつは幼馴染みしか友達が居ない可哀相な奴だとか、ネットが友達だとかあれこれ言われるのは性に合わない。

だからネトゲーの中ぐらいは友達が多く、彼女が居ると言う設定で居たいんだ。

そして何と言っても一番大事なのは初期設定だ!



最初に自分の性格とか体型を決めれるのが、このネトゲー《RPG.online(ロールプレイング.おんらいん)》の素晴らしさであって、職業も二十種類ぐらいはある。

その二十種類の中から一つだけを選ぶとなると慎重に選ばなければならない。

何故ならば一回その職業を選んでしまうとクリアするまで別の職業に転職が出来ないと言うシステムだからだ。

その時に俺は思ったんだ。今一番なりたかった自分を。



『剣士って格好良いし、皆から尊敬されてそうじゃね?』



『はいはい。どうせ人気者にでもなりたいんでしょ?』



『悪いか?』



そんなやり取りが俺には楽しくて仕方が無い。友達が居なくても幼馴染みだけど、幼馴染みの友達が居る。

友達のような幼馴染みだ!

同じネトゲーで遊んでるし、住んでるとこも近いし。話が合うのは花怜だけだろう。学校に行ったってまた一人になるだけだし家で幼馴染みとオンラインゲームで遊んでた方がよっぽど楽しい。



『さてと、そろそろ落ちるか』



『もう!?』



『また後でログインする』



『そうよね。私も後でログインするよ!』



『じゃあ、また後で・・・・・・』



最後にそうメッセージを送り、俺は開いてた画面を閉じようとした・・・・・・。



《ピコンッ!!》



「メール?花怜か?でも何かがおかしい」



いつも送られて来るメールとは違うような、 メールのとこにノイズが走っていた。

流石にこのまま閉じるのは良くないと思い、俺はノイズが走ってるメールを好奇心で開いてみた。

このメールを開かなければ良かったと、今の俺には考えも無かった。



《エラー、エラー。インストールを開始します------》



「え?」



突然訳の分からないインストールが始まり、ノイズがどんどん激しくなっていく。取り合えず俺は花怜にメールを送ろうとするがパソコンが言う事を聞かない。

仕方無くスマホを取り出し、LINEを開いた。だが、何かが連絡を妨害しているようで花怜に連絡が付かないようだ。

この変なノイズはパソコンだけでなく、俺のスマホにまで影響してるみたいだ。

まさか新たなウイルスじゃないよな?



「どうなってんだよ・・・・・・」



パソコンのカバーを閉じたり再起動したり、他にも色々試みてみるが直る気配はなさそうだ。微妙な睡魔が俺の脳を襲う。

流石に体力の限界だろうか。脳にノイズが走ってるようだ。俺はそのまま深い眠りへと落ちていく------。



* * * * *



「剣士様!!」



ん?ここは何処だ?



「良かった!いきなり倒れるから死んだかと思いましたよ!」



倒れる?俺が?



うっすらとボヤけて見えるが状況が掴めない。この子は誰だ?何故こんな格好をしている?

俺は何故此処に居るんだ?



記憶が曖昧で何も思い出せない。確かボスと戦ってて、後ひと押しってとこで・・・・・・。

ダメだ、全然思い出せない!



「君は誰だ?」



「え?ご冗談は良して下さいよ、剣士様!」



水色の透き通った髪が風に(なび)き、俺の鼻を(くすぐ)る。くしゃみが出そうだったが何とか堪え、その子の顔を見つめた。

あまりに俺が見つめるもんだからか、透き通った水色の髪の美少女は頬を赤く染めそっぽを向いてしまった。



「あ、ごめん。あまりに綺麗な髪をしているから見惚れてしまっていた」



「い、いきなり何を言い出すんですか!目覚めたのなら行きますよ!」



「行くって何処に?」



「はい!?忘れたのですか?今日は剣士様の旅立ちの日ではありませんか!」



「旅立ち!?」



意味が分からないまま連れて来られた場所は金持ちにしか住めないであろう立派なお城だ。水色髪の美少女の後ろを歩きながら興味津々に周囲を見渡す。

何億もしそうな壺に高そうな絨毯(じゅうたん)、お城全体が高級そのものだ。

あまりに周りに見惚れていると水色髪の美少女が立ち止まった事に気付かずぶつかってしまった。



「いたたた・・・・・・」



「何をやってるのですか!ほら、王様と姫様ですよ!無礼のないようにお願いします」



「へいへい・・・・・・」



そんな事言われても何を言えば良いのか分からないんだけど。取り合えず挨拶すれば良いんだよな?


「えー、ごほん。初めまして、王様、お姫様。俺の名は・・・・・・。んーと、えーと・・・・・・」



周りの視線が痛い。王様とお姫様も飽きれ気味のようだ。暫くの沈黙が続く中、頭に何か文字みたいなのが浮かび上がった。

それをマジマジと見ていると名前のような文字だ。



『ソーマ?』



そっか!これが俺の名前って事だろう。記憶が全然ない俺には自分の名前さえも分からない。だが一つだけ分かった事がある。

それは、メニュー表示すれば自分の事が書かれてあるって事だ!

つまり、名前だけでなく自分のレベル、年齢、職業とかだ!

他にも色々とあるみたいだが、後々確認してみるとしよう。



「ソーマ・・・・・・ソーマ・ナナセだ!」



「ふむ。ソーマか・・・・・・。剣士殿を呼んだのには頼みがあるからだ」



「頼みですか?」



「剣士、ソーマよ。姫を守り、世界を狙う魔女を倒して欲しい」



「はぁぁぁ!?何で俺がっ!」



「剣士様、此処は王様のお願いを聞いてあげてください」



「だからって何で俺なんだよ!お願いなら他の剣士にでも頼めば良いじゃん!俺は絶対に行かないからな!」



「姫と世界を守り、魔女を倒した暁には特別に報酬を差し上げよう」



報酬と言う言葉に城から出ようとしていた足が立ち止まる。バッと後ろを振り返ると姫様と目が合った。

何か俺に訴えかけてるような、悲しそうな目で此方を見つめてきている。



「まぁ、話だけでも詳しく聞いてあげますよ」



頭をポリポリ掻きながら答えると王様と姫様が嬉しそうに微笑んでいた。よっぽどこの世界が危ないのだろう。まぁ、そのうち俺の記憶も戻るかも知れないし剣士としての役目を果たさなくちゃな!

そんな事を考えていると姫様が俺の元へ来て何か呪文を唱え始めた。

生暖かくて心地が良い。気が付くと不思議な呪文は終わり、俺の懐にある剣が虹色に輝いていた。



「何だ?」



「強化の魔法です、剣士様。(わたくし)は援護系の魔法専門なのです」



「そうなんだ・・・・・・。頼りになるよ」



「では、本題に入ろう。今世界は疫病が流行っていてあちこちの国で死者が続出なのだそうだ」



「疫病?」



「あぁ・・・・・・。その疫病の原因が・・・・・・」



「?」



* * * * *



謁見が終わり俺は旅立つ準備を始めていた。世界が今危険に晒されてるのは分かった。(しか)し、疫病の原因が姫様にあるとはな・・・・・・。

俺は回想を始めた。



『疫病の原因は儂の娘、姫であるルーラ・ネージュにあるのだよ』



『どう言う事ですか?』



『・・・・・・魔女に呪いを掛けられたんです』



ルーラは悲しそうな表情でゆっくりと語り出した。



『ある日私は外の世界に憧れ、お城を抜け出し森へと出掛けました。その時帰り道が分からず迷ってた所を魔女さんから助けて頂いたのです。悪い魔女とも知らずに』



『所がルーラは騙されてるとも知らずにすっかり魔女と仲良くなってしまい、疫病神の呪いを掛けられたのだよ』



『お願いです、剣士様!私の呪いを解いて貰えませんか?このままでは世界中に居る国の者達が私のバラ撒いた毒を吸って沢山の方々が死んでしまいます!』



『どうやらこの疫病は世界中に周るらしくてな、助かる方法が姫を抹殺する事なのだよ』



『抹殺だと!?』



『私が自分でやらかした事を剣士様に頼むのは少し心が痛みます。ですが私の疫病神のせいで誰も死なせたくないのです!助けて下さい、剣士様!』



ルーラは俺の手を強く握った。手が震えてるのが凄く分かる。俺なら精神的に病んでしまって自殺を図ってた事だろう。それを勇気振り絞って剣士の俺に頼んでるんだからやらない訳にはいかないよな。



『分かりました。俺が世界を・・・・・・姫様を救って見せます!』



こうして俺は王様との契約を交わし、姫様・・・・・・ルーラを連れて旅立とうとした。



* * * * *



「はぁ・・・・・・。結局、引き受けちまった。まぁ記憶を取り戻すには良い機会だしな」



「剣士様~!!」



ルーラと旅立つ準備をしていると物凄い速さで水色の髪の美少女が近付いて来た。てか、いつまでこの名前で呼ばなきゃいけないんだ!?



「えーと・・・・・・。誰?」



俺は最初に目覚めた時みたいに人差し指で指したまま、問い掛けた。



「またですか!?私は貴方のお世話係のアトレラですよ!でも魔法は使えますよ?特に水魔法なら!てか、目覚めた時から剣士様の様子がおかしいのは気のせいでしょうか?」



「そ、そうか?」



じーっと見つめられるとつい、目を反らしてしまう。ルーラはそんな俺達の様子を見ながらクスクスと笑っていた。「仲が宜しいのですね」と言われたが聞かなかった事にしよう。

でも何か懐かしい気がするのは記憶を無くす前の俺の感情なのだろか?

何かとても大事な事を忘れてる気がするけど。

この感情の意味も冒険してたらきっと分かるのだろう。

そんなこんなんで俺達の冒険は此処から始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ