終わった村の一人の少女
村は滅んだ。
燃え盛る家屋。響き渡る悲鳴。飛び散る血飛沫。
脳裏に次々と悪夢のような光景が現れては消えていく。そして、この光景は終わった後もまだ続いているのだ。
父と母はもういない。家の地下に自分を隠してくれた後、抵抗した父は魔物に殺され、母は村の他の人たちと共にどこかに連れてかれた。
飼っていた家畜も、育てた農作物も、交易のための品々も全て略奪された。
灰だけになってしまった村の残骸を少女はとぼとぼと力なく歩く。涙はとうに枯れ果てた。一晩中泣け叫んでも、悲しみは洗い流してくれなかった。
悪い夢を見ていると信じたかった。焦げ臭い匂いが現実だと教えた。
どうして、こんなことになってしまったのだろうか。
少女は思い出す。村の長が家にやって来た時に両親と話をしていたことを。
世界を救った英雄がある日突然、あらゆる国々に対して宣戦布告をしたらしい。自ら皇帝と名乗り、自分がかつて戦っていた魔物やならず者を率いてありとあらゆる所で一方的な侵略行為をしていると。
国々も抵抗はしているが、凄まじい魔力と一人で万の軍勢に匹敵する剣の力を持つ皇帝には敵わず、被害は益々広がるばかりと。
――山奥まで逃げるか。近くの街まで避難するか。
村の集会所で大人たちは最近していた相談が決まりきらないうちに、どこからか襲来してきた皇帝の軍が現れ、何もかもを破壊し奪っていった。男は殺し、女子供は連行された。きっと酷い目に合っているに違いない。
「ううう」
少女は唇を噛み締め、目の前の光景を目に焼き付ける。
村の入り口に生えている、地面に突き立てられた槍に貫かれている村の長の首。
村の広場に無造作に積み重なっている死体の山。
村の集会所の壁一面に書かれた皇帝軍のシンボル。
少女は祈る。ただただ祈る。力なく道端で膝をつきながら。
――神様でも、天使様でも、誰でもいい。
――どこかの国の軍でも、魔法使いでもいい。
――悪魔でも、魔物でも構わない。
――誰でもいいから、皇帝を止めて。
少女の祈りは届くのか。それを教えることのできるものは誰もいない。世界は混迷に満ちていた。