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あんたがったどっこさっ

「あっ、そこ降りるんだよ!」


 ICを降りる。

ICから出るともうそこは見慣れた都会の風景とはかけ離れた世界だった。


「田舎だ………」


 田園風景が広がる…というほどでもないが、そこそこの田舎だった。

太陽はてっぺんにのぼり、木々は青々としている。

なにより山が高い。

景色を楽しんでいると恵那峡の文字が見えてきた。

坂を下ると駐車場があった。


「んんん~ついたぁ~」


 ふじが背伸びをして達成感を味わっている。

そんなことは気にせず恵那峡という謎の場を散策することにした。

また坂を下っていくと、湖のようなものが見えてきた。

右側には店が並んでいる。

目を引く看板を目にしてしまった。

くるみ五平餅。


「すいませーん!」


 我慢できず店に入る。

一人のおばあさんが出てきた。


「はいはい、いらっしゃい」


「五平餅二つ下さい!」


「おい!まだ食うのか?」


 ふじが止めてくるがそんなものは関係ない。

美味しいのだから。


「五百円になります。お客さん、観光かい?」


 気さくに話しかけてくれた。


「はい、東京から!」


「東京!まだ若いのにそんな遠いところからこんなところにわざわざ……」


「いえいえ!良いところですね!恵那峡の他に面白いところはありますか?」


「あんたみたいな若者の好む場所はないかもしれんが………孫呼ぶで孫に聞きゃあ………あんた何て言うん?」


「田床将左偉門です。」


 おばあさんから五平餅を受け取り湖を眺めながら食べる。


「あれってダムかなぁ…?」


「ダムだろうな」


 ふじと何気ない会話で待ち時間を潰す。


「あんたが田床さん?」


 振り向くと可愛らしい女の子がいた。


「え………あぁ、はい。そうです。あなたは?」


「私は肥後弩子(ひごどっこ)。で、どんなとこにいきたいの?」


 狐のようなつり目が綺麗さを引き立たせていた。

さらにこの素っ気なさ。

タイプだ。


「自然の綺麗な場所にいきたいな………」


 本当は田舎っぽい場所に行きたかったが、失礼だと思い、できるだけ良いように言った。


「それなら笠置山の方かな。」


「笠置山?」


「あそこに見える山のこと。」


 指差した方を見ると少し高い山が見えた。

確かに自然は豊かそうだ。


「弩子~!」


 名前を呼びながら少女が走ってきた。

胸がまるでふじのバイクのようにブルンブルンと音をたてるように揺れている。

さらに長い髪に素朴な顔立ち。

タイプだ。


「あれ、この人たちは?」


「なんか東京から来たんだって。だから観光するにはどこがいいのか教えろっておばあちゃんが。」


「そーなんや!」


 ふじと目をぱちくりさせていると少女は笑顔で言った。


「私は熊本弩子(くまもとどっこ)。弩子とは幼馴染で同じ名前なの!笑っちゃうら!」


「アハハハ」


 とりあえず笑ってごまかしておく。

わらっちゃうらとはどういう意味だろうか。


「こいつが自然が見たいらしいんだけど、どこがいいかな?」


 ふじは出来る限りの格好いいフェイスで話しかけた。


「自然は…ごめん、あんまりわかんないや!弩子、どうする?」


「もう仙波さんに呼んだら?」


 めんどくさそうに狐目の弩子が言う。


「あ!そーやん!それがいいわ!」


 なにか閃いたかのごとく、ハキハキと巨乳の弩子が言う。

まるで光と闇のように正反対の二人だ。


「詳しい人呼んでくるでここでまっとって!」


 二人は走っていってしまった。

かわいいなぁ。

二人の後ろ姿を見ながらにやける。

隣から強い視線を感じた。


「お前、あーゆーのがタイプなの?方言すごかったけど。」


 俺の二人に対する態度がキモかったのか冷めたようにふじが言う。


「かわいいじゃん!方言も!」


「なにいってるかわからないじゃん………」


「おっぱいも大きかったよ?」


「そんなの東京にたくさんいるから!」


「素朴な感じがいいんだよ…」


 少しゲスイ話をしたなと反省する。

足音が聞こえてきた。


「はぁ……お待たせぇ!この人に聞けばバッチリやよ!」


 巨乳弩子は相変わらず明るい。

後ろからついてきたのはおじいさんだった。


「この人はね、仙波さんっていうの!あの笠置山も仙波さんのものなんだよ~!」


 山が自分のもの…?

いっている意味がよくわからなかった。


「こいつが自然を感じたいらしいんですけど、いい場所どこかしりませんか?」


 ふじがおじいさんに聞いた。


「そういうことならうちに来ればいいら。自然をたっぷり感じさせてあげるわ。ここに満足したらうちに来やぁ。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ここら辺はワシの土地やで自由に見ていいで」


 仙波さんについてきた。

そこはもう、本当に田舎だった。

畑、綺麗な棚田、異様に綺麗に舗装されている道路、そして山。

求めているもの全てがそこにはあった。

少し残念なのは動物注意の標識が根本から折れていたことだ。


「山にはいってもいいですか?」


 小さい頃からの夢だった。

田舎の少年が山遊びしているのに憧れを持っていた。

断られてもこっそり入ってやろうと心に決めた。


「いいよ」


 なんの問題もないのかあっさりと承諾してくれた。


「本当ですか!ありがとうございます!」


「ちょ、本当に入るのか?虫とかたくさん…」


 ふじはあまり気乗りしないようだ。


「ついてきて!」


 そのまますぐに山に入ろうとした。


「少し待っとれ!ワシもついていかんと心配やわ!」


 そういっておじいさんは家に入るとすぐに出てきた。

手には銃が握られていた。


「えっ………それ」


 よくあるホラー映画の山で殺される的なシーンが俺の頭に流れた。

ふじの頭にも流れたようだ。

硬直してしまった。


「あぁ、熊が出るかもしれんで。鈴、持っとき」


 老人の手に握られた鈴を受けとる。


「じゃあいこう!」


 山にはいると独特な匂いがした。

木の匂い。

深呼吸して自然を感じる。

クモの巣が所々張っているが、全然気にならない。

どんどんと道なき道を上る。


「うわーーーー!!クモの巣!」


 ふじがクモの巣を見つける度に叫ぶ。

イカツイ見た目の男が虫に怯えている姿はかわいかった。


「おじいさん、熊でるって言ってたけど、どんな熊?でかいの?」


 ふじは虫だけではなく熊にも怯えているようだった。


「デカいなんてもんじゃないわ。折れた標識は見たか?あれをやったのは旗抜きやわ。」


「は…旗抜き?」


 おじいさんは怖がらせようとしているのか声色を変えて話す。


「標識なんて簡単に折ってしまうほど巨大な熊がおって、いろんな畑が被害にあってるんやわ」


 想像すると恐ろしかったが、そんな熊が存在するはずがない。

しかし、ふじは本気にしたのか青ざめていた。


「やばいじゃん!その銃で大丈夫なの?無理だろ!」


 ふじはなにやら辺りを見回し、走っていく。

戻ってきたふじの手には錆びた金属の棒が握られていた。


「これで守れる」


いや、銃で無理ならそれで守れるわけないだろ! と心のなかでツッコミを入れるが、口には出さない。

これ以上ビビられたら面倒だ。


一時間は歩いただろうか。


「もう少しで頂上やわ!」


俺とふじは息が切れているがおじいさんは元気に歩いている。

田舎のじじいは元気と聞いたことがあったが、本当だと感心した。

木の葉を踏みつけながら上る。

おじいさんは先頭を歩き、どんどんと進む。


「おじいさん、ちょ、待てよ!」


キムタク張りのちょ待てよだが、おじいさんはどんどんと歩く。


「はよしんと旗抜きが出るぞ」


それを聞いたふじは息が切れているにも関わらず走り出した。

おじいさんの数十メートル先まで走り、突然立ち止まる。


「うぉーーーヤバい!」


ふじが叫んだ。

虫が出たのだろうか。

それとも本当に熊がでたのか。

走ってふじのところまでいく。

目の前の光景に圧倒された。

目の前には自然が、ただ山々がひろがっているだけだった。

しかしその山々は今までに見た自然の中で最も美しく感じた。


「都会の子はあまり目にすることもないら」


でた、謎の言葉、『ら』。

しかし老人のいうことは理解できた。

都会でこんな景色を見ることはできない。

有名な山でも無理だろう。

人の手がほとんど入っていない、田舎の山だからこそ、本当に木だけが広がる自然の景色が見ることができるのだろう。


「すげーな」


ふじも圧倒されているようだ。


「うん、本当に。」


自然に圧倒されていた。

気づくともう太陽は夕陽になろうとしていた。


「ならそろそろ帰るか、本当に熊でるで」


それはまずいと急いで山を降りる。

急ぐといっても筋肉が悲鳴をあげているためスピードは遅いが。


「今日はどこに泊まるんや」


「あ………」


二人して顔を見合わせる。


「うちに泊まっていくか?」


願ってもない言葉だ。

二人で声を揃えて言う。


「御願いします!」


 あと半分ほど降りればおじいさんの家だ。

それだけを考えて山を降りる。

田舎の家に泊まれるなんてなんと幸せなのだろうか。

静かな山に鈴と落ち葉を踏みつける音が響く。

太陽は夕陽に変わり、山が赤く染まっていた。


「まじで熊出そうじゃん……早く降りないと」


ふじがそういった瞬間。


ガサガサ


どこかから音が聞こえた。

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