終章『二匹狼』
イリの傷が回復した後、ニシパとの戦いで恐怖を乗り越えたワクは、
イリと協力しての鹿狩りを何度も練習し、遂に鹿を捕らえることが出来ました。
鹿にしては小柄なその獲物でしたが、イリとワク、二匹の胃袋を満たすには十分な量の肉付きでした。
「美味かったな。
やっぱり狼には鹿が一番だ」
腹が膨れたイリとワクの二匹は、草の上にゴロンと寝転がりました。
「なんでかな?群れで食べた時より、こっちの方がずっと美味しいや」
「一匹狼同士でも、やれば出来るもんだな」
「僕達は二匹でひとつだから、もう一匹狼じゃないよ。
群れって言うには少な過ぎるけどね」
「じゃあ、これからは一匹狼じゃなくて二匹狼だ!」
寝転がっていたワクは起き上がると、イリの前足を甘噛みして引っ張ります。
「イリ、あれやろうよ」
「後にしろ」
「やろうよ!」
イリが誘いを断ってもワクは引き下がらず、激しく尻尾を振っています。
「仕方ねえな……」
イリは折れてしまい、のっそりと起き上がりました。
「いくよ?」
「せーの……」
二匹は合図をして一旦頭を下げ、直後に大きく天を仰ぎ、口を細くして遠吠えをしました。
「アオォォォォォォォン」
「アオォォォォォォォン」
仲良く遠吠えをする二匹の姿は、最早一匹狼ではありませんでした。
イリの言葉を借りるなら、二匹だけなので二匹狼です。
二匹の遠吠えは響き、晴れ渡る青空をどこまでも、どこまでも駆け抜けて行きました。