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わたしが普段つけているコンタクトは度が入っていない。


(普通の女の子は黒目を大きく見せるために、黒いコンタクトをつけたりするのかなぁ……)


このコンタクトを見つけるまでに、たくさんの時間を要した。

普通の人は他に代用できるものがあっても、わたしにとっては変えがきかないもの。

自然な目の色に見せるために、いくつものコンタクトを試してきたが、その中のほとんどのものは目が浮いてしまうものばかりだった。

ようやくいまのコンタクトを見つけ、ここ何年かは変えていない。


「結衣、カレー大丈夫だった?」


洗面所から出ると、キッチンでカレーを混ぜている結衣の元へと近づく。

カレーを見ると、鍋の底が焦げている様子はないようで安心する。



「……どうしたの?」


隣から視線が感じられ、ふとそちらを見ると結衣と目があった。

どうしたのだろうかと見つめたままでいると、ふいに微笑まれた。


「うん、やっぱりその方がいいね!」


抽象的な表現だったけれど、結衣の言葉に泣いてしまいそうになる。


(どれだけ、この目を恨んだかな……)


数え切れないくらいの苦しくて悲しいことがあった。すべてはこの目の色のせいで、たくさん悩んだ。

何故わたしは他の人とは違うのか。

わたしにとって、ずっと苦しんでいた事。



「ありがとう、結衣」


ちゃんと笑えているだろうか?

不安になりながら結衣を見ると、優しく笑い返してくれる。


まだ、この目で悩むことはたくさんあるけど、少なくとも以前とは考え方が変わっていた。


《母と同じである》この目をもっと好きになろう。


目を閉じると、幼い頃の記憶が蘇ってくる。

最初に頭に思い浮かぶのは、優しく微笑む母の姿だった。








「それよりも……」


ふと、結衣が発した一言で現実へともどる。

先ほどまでの綺麗な微笑みは消え、いまは怖いくらいにニヤけている結衣は、興奮したように口を開いた。


「担任やばいでしょ?!!もう王道すぎ!やばい、どうしよう!これで王道転校生が来てくれたら、もう完璧すぎてっ!!!早く来い!転校生!!ボサボサまりも頭で瓶底眼鏡の王道転校生!!」


先程までの感動は一瞬で消え去る。

やばいやばいと繰り返している結衣は大興奮しながら、携帯を取り出した。

何を打っているのか分からないが、物凄いスピードで指が動いている。


(そうだった……)


結衣があまりにも“普通に接して”くれていたため、忘れていた。

彼女はBLのためだったら、どんなことも行動に移してしまう強者だったということを。


「結衣……、さっきからバイブなってない?」

「あぁ、多分昴だから大丈夫よ」


結衣は動かす指を止めずに、ひたすらに何かを打ち込んでいる。


「ゆーいー……、申請した人が迎えに行かないと寮に入れないんでしょ?昴、待ってるよ」

「もうちょっと……!待って!!あいつだし、待たせても平気!」

「分かった。じゃあ今日の夕飯、結衣の分はないからね」

「……!すみません!!いってきます!!!」


背筋を伸ばし、わたしに敬礼してから慌ただしく部屋を出ていった。

そんな結衣を見送ってから、わたしはゆっくりと息をはいた。


以前に、結衣が幸せだと感じるのはBLを堪能することと、わたしの手料理を食べることだと言っていた。

有難いことに、結衣はわたしの手料理を好んでくれているので、先程の手段は非常に有効だった。


(まぁ、半分脅しているようなもんか)



ソファへ体を沈めると、どっと疲れが押し寄せてくる。

慣れない学校生活に不安なことばかりだが、結衣と一緒にいれば何とかなるような気がする。


目を閉じて疲れを癒していると、部屋のインターホンが鳴ったので急いで玄関へと向かう。


「昴、いらっしゃい」

「急に悪い……。少し邪魔する」


昴を部屋の中へと招くと、昴を押しのけて結衣が先に部屋に入ってきた。

昴は気にしていないようで、脱いだ靴を揃えて部屋へと入ってきた。



「こんなものしかないんだけど、良かったら。結衣はミルクティーでいい?」

「ミルクティー!!!!」

「悪い、ありがとう」


ソファへと腰掛けた昴に、インスタントコーヒーを差し出す。

結衣は基本的に甘い物しか飲まないので、唯一残っていたミルクティーでも大丈夫かと心配していたが、とても喜んでくれたようで一安心だ。

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