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「柚鈴葉、ちゃんと謝らないとダメじゃない!2人ともごめんね……」


申し訳なさそうに謝ってくるゆりあに対して、柚鈴葉は小さく頭を下げるのみで顔を背けたままだ。


「ううん!気にしてないから大丈夫。初めまして、赤羽 結衣っていうの。良かったら仲良くしてくれない?」


手を差し出して握手を求める結衣へと一瞬目を移すが、柚鈴葉はすぐにまた顔を背けてしまう。

そんな彼女にゆりあは、柚鈴葉!と名前を呼んで注意するが、相変わらず顔を背けたまま目線を合わせてくれない。

あまり友好的ではないようだ。


「わたしは青葉 渚です。ゆりあを取ってしまったようでごめんなさい。もし良ければ、わたしたちとも仲良くしてくれませんか?」


そんな彼女へ丁寧に挨拶すると、彼女は少しだけこちらを見てくれたので警戒を解いてもらおうと、精一杯の笑顔を向ける。

すると何故か柚鈴葉だけでなく、隣にいるゆりあまでも驚いた様子でこちらを見つめていた。

何事かと首を傾げていると、ゆりあを挟んで反対側に座っている結衣があー、と言いながら困った表情をしている。


「渚ちゃん!笑うとすごく印象変わるね!!」


そう言ってきたゆりあは少し興奮した様子だ。

柚鈴葉も先ほどまで、一切こちらに目線を向けてこなかったのに、今はじっとわたしの顔を見てくる。


「この子ねぇ、気付いてないのよ。以前から何度も渚の笑顔は最大の武器だって教えてるのに、そんな訳ないとかいって全く信じてくれないのよ」

「えっ?!」


驚いた様子のゆりあと柚鈴葉に対して、結衣は困った表情のまま見つめてきた。


「いい加減に自覚してね、渚。あなたの笑顔はすっっっっごく可愛いってことを!!」


またか、と思ってしまった。

こういう事を言われるのは初めてではなく、中学の頃から何度も言われ続けている事だ。

そんな事を言われても、鏡の前で作った笑顔をみても、自分自身では平凡な顔が笑っているだけにしか見えないのだ。


「そろそろ自覚してくれないと……困るのよ。こんな笑顔を見せたら、野蛮な狼どもが狙ってくるに決まってるんだから」


はぁ、と重たくため息をつく結衣。

そんな結衣の手を掴み、両手で優しく包み込んだゆりあはうんうんと頷いている。


「結衣ちゃん!私、協力するね!渚ちゃんの笑顔を極力周りに見られないようにする!!」


(ちょっと待て、どうしてそうなった)


困惑するわたしは蚊帳の外で、2人は手を握り合っていた。

目の前でみている柚鈴葉も何も喋らず、その様子をただただ見守っている。


「ゆりあ……!ありがとう!!正直、私と昴だけじゃ隠し通すのは難しいと思っていたから助かる!」


強く手を握り合っている2人は、まるで相棒を見つけたかのように喜んでいる。

さすがにそこまでの影響力があるようには到底思えなくて、思わず待ったをかける。


「いやいや、そこまでの影響力は絶対ないから!そんなこと言ったら結衣だって、笑顔すごく可愛いし、ゆりあだって可愛い!2人とも大袈裟すぎだからっ!!」


思わず少し大きな声で喋ってしまうわたしに、全く動じた様子のない結衣は頭を左右に振った。


「渚、そんなことない。あなたが自覚していないだけで影響力はかなりあるのよ。それに少し落ち着いて……」




《素が出ている》



結衣から告げられた言葉で、ハッと我にかえる。

ここは外で、周りにも結構人がいることを忘れていた。

大人しくなったわたしを見て、ゆりあはどうしたの?と心配そうな表情でこちらの様子を伺ってきた。


「えーと……とりあえず、もうお昼終わりそうだから1回教室戻らない?ごめんね、ゆりあと柚鈴葉さん。寮に戻ったらきちんと説明するね」


結衣はそう話すと、お弁当を片付け始めた。

それを見て、わたしとゆりあも後片付けを始め、柚鈴葉を連れてその場をあとにした。









「結衣、ちょっと来い」


教室に戻るや否や、結衣は昴に呼ばれて教室を出て行ってしまった。

どうしたのだろうかと思い、出ていった教室の扉をみていると2人はすぐに戻ってきた。


「結衣?どうしたの……?」

「ううん、何でもないの」


そう言った結衣の表情は明らかに不機嫌そうで、何もないわけがなかった。


「結衣、ちゃんと言って。じゃないと、力になれない」


真っ直ぐ結衣を見て、そう告げると結衣は少し驚いたような表情をしていたが、すぐに小さく笑い出してわたしの頬をつまんできた。


「力になってくれるなら早く自覚してくださーい。この鈍チンさん」

「………………鈍くないです」


さりげなく悪口を言われたが、結衣を見ると先ほどまでの不機嫌さは消えているようだったので一安心。


その後はすぐにチャイムが鳴り、周りがバタバタと席につき始めた。

結衣は寮に帰ったら昴来るから、と早口で伝えると前を向いてしまった。


先程2人で出て行った時のことだろうか、と考えているとホスト担任が教室に入ってくる。

わたしは考えを中断し、学園の説明をし始めた担任へと耳を傾けた。



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