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「良かったら、一緒にご飯食べない?」


昼食の時間となり、結衣とわたしが声をかけたのは同じクラスの女子生徒。同性は3人しかいないのだからと結衣とお昼ご飯に誘おうと決めていた。


「えっ……いいの?」


遠慮がちに様子を伺ってくる彼女は、肩くらいに切り揃えられた黒髪に前髪をピンで留めている。真面目そうな印象の女の子だった。


「もちろん!女子は私たちしかいないんだし、良かったら仲良くしたいな〜って思って」


笑顔で話しかける結衣。

そんな結衣の笑顔に、彼女だけでなく大半のクラスメイトが心を奪われている。


(その笑顔でいままで何人が落ちたのか……)


彼女との付き合いは2年ちょっとだが、数え切れないくらいに告白されている彼女は中学の頃から本当にモテた。

家族の反対を押し切ってまでも、この学園に入学した結衣はせめてもと家族につけられた条件がいまの外見だ。

今どき珍しい三つ編みに地味目な眼鏡。

そんな格好をしているにも関わらず、可愛いままの結衣。

もはや無意味な気がしてならない。


「えっと……、わたしは青葉(あおば) (なぎさ)でこの子は赤羽 結衣。天気もいいし、良かったら外のベンチでご飯食べない?」


惚けている彼女に声をかけると、慌てて謝ってきた。


「ごめんなさい!私は ゆりあ って言います!木崎(きざき) ゆりあ です」


こちらに向かって小さく頭を下げた彼女は、よろしくお願いします と小さく笑った。








「え!じゃあ隣の部屋だよ!よろしくね!」


あの後、3人で昼食を食べれる場所を探すと、日陰になっているベンチを見つけたため、各々のお弁当を広げた。


「寮って聞いたときは少し不安だったけど、結構融通きくし安心したよね!」


色んなことを聞いてるうちに、寮は隣の部屋であることが判明し、3人で盛り上がる。

楽しいのだが、何故かとても見られている様な気がする。


「いやぁ……和むなぁ……。女の子がいるって本当最高。しかも1人めっちゃ可愛いし、声かけてこようかな」

「おい!抜け駆けすんなよ!」

「ちょっと待て!あの可愛い子、赤羽の従兄弟らしいぜ……。HRの時に、手を出したら殺すとか言ってたらしいじゃん」


(そんなこと言ってたっけ……?)

2人は話に夢中になっていることもあり、聞こえていない様だったが、たくさんの話し声がわたしの耳に入ってくる。

思っていたよりも昴の存在が大きく、周りが結衣に手を出してこないことは良いことだと思う。

けれど、昴が言っていたのは何かあったら結衣自身が 正当防衛 を行うということ。

幼い頃から武道を嗜む結衣は、女性だからといって何かあった際に、全く抵抗出来ないわけではない。


「ゆりあ、何かあったらすぐ言ってね。あたしが蹴散らすから!」

「ありがとう……!私も2人の役に立ちたいから、何かあったら言ってね!!」


ゆりあはとてもいい子で、話していると和む存在だった。そんなゆりあに結衣は急にこれでもか、というくらいに顔を近づけていた。

混乱しているゆりあはあまりの顔の近さに、少しだけのけぞっている。


「ゆりあってさ……」

「ゆりあーーーーー!!!!!!」


結衣の声を遮る大きな声とともに、向こうから全力で走ってくるのは同じ制服を着ている女の子だった。

何故か怒っている様子の女の子は、こちらまでやってくると急にゆりあの腕を掴んで引き寄せた。


柚鈴葉(ゆずは)!」


柚鈴葉と呼ばれた女の子は結衣とわたしを睨み、ゆりあを背中で隠している様だったが、背が小さいためにあまり意味のない感じになってしまっている。


「ゆりあ、大丈夫?早くここから離れよう。すぐに助けに来れなくてごめんね」


その言葉に思わず驚いてしまい、隣の結衣を見ると同じく驚いた様子でこちらを見てきた。

ゆりあは掴まれている手を見て、離してと言っていた。離す気のない彼女に、ゆりあはもう一度離すようにいうと、渋々ながらゆりあの腕を離した。


「柚鈴葉、何を勘違いしてるのか分かんないけど、2人がお昼を一緒に食べようって誘ってくれたからご飯食べてただけだよ」

「えっ……?」


強い口調で話したゆりあは、少しだけ怒っているようにも見えた。

ゆりあはそのまま、先ほどまで座っていた結衣とわたしの真ん中に再び腰を下ろした。


彼女は瞬きを繰り返して、ゆりあを見つめている。

その後、結衣とわたしを交互に見るとぎこちなく頭を下げた。



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