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そうしている内にチャイムがなり、自分の席に着きはじめたクラスメイトを見て、昴も自分の席へと戻っていった。
少しすると、教室の扉が開き、背の高い男性が入って来た。
ふと目の前の結衣を見ると、表情は見えないが体が少し揺れているのできっと喜んでいるはず。
興奮している結衣を尻目に、教卓の前に立つ男性を改めて見ると、かなり背が高い。
スーツに身を包んだ男性は、目にギリギリかからないくらいの長い前髪を軽く横に流し、ワックスで整えているその髪型はまるでホストのよう。
ホスト風の担任教師という王道に、結衣はおそらく大興奮しているはず。
「D組を担任する、北条だ。絶対に面倒なこと起こすなよ」
怠そうに注意してくる担任は、どうみても教師には見えない。
なんでこのスタイルで注意されないのかと考えていると、一瞬だけ目が合う。
正確には女子生徒に目配りしているようで、このクラスにはわたしと結衣を含めて、女子生徒は3人のようだ。
「ウチのクラスには3人か……。知っていると思うが今年からこの学園は共学になった。今年の新入生で女子生徒は12人。CからF組までそれぞれに一定の人数で分けているらしい。くれぐれも変なこと考えて、騒ぎを起こすなよ」
この言葉をきっかけに、ザワザワと周りが騒ぎ出し、男子生徒はそれぞれの形で喜びを表しているようだった。
担任は教卓の上にある名簿を確認したあと、わたしと結衣と、もう1人の女子生徒に再び目線を合わせてくる。
「しばらくは風紀委員が厳しく見回りをするそうだ。大丈夫だと思うが、小さな変化でも気になることがあったら俺か他の教師、またはクラス委員にでも言え」
担任はそう言うと、昴へと目線を移した。
昴は少しの間固まっていたが、意味を理解したのか はぁぁぁ? と声をあげた。
「クラス委員は昴、お前に任せた」
「いやいや!意味わかんねぇし!今までそうやってずっとやってきて、今年からは指名しないっていう条件で去年に最後のクラス委員をやってやっただろうが!!!」
そう言えば、元はエスカレーター式の学園だったと思い出す。
高校からは外部からでも入学出来るようだが、やはりというか外部からの生徒は珍しいと結衣が言っていた。
悪びれる様子もなく、和かに笑顔を向ける担任とは裏腹に昴は担任へ冷たい眼差しを向け、人を殺せるくらいの殺気を放っている。
「よく考えたんだが、やっぱりお前以外にいないんだよなぁ……。だってこのクラスでお前に敵うやつも、逆らえるやつもいないし?」
やっぱり適任だろ?と笑顔を見せる担任に対し、昴の目は既に光を映していないようにみえ、クラス全員が背筋が凍る思いをしながら、成り行きを見守っている。
「ほら、そこの赤羽とは従兄弟だろ?すぐに助けられるクラス委員はいい肩書だと思うぜ?」
結衣へ指を指す担任に対して、昴は睨むことを止めない。
けれど、一瞬結衣へと目線を向けた後に、すぐにわたしを見た。
こちらを見つめてくる昴に、わたしはどうしたのかと首を傾げていると、昴は大きく溜息をついて椅子へと腰を下ろした。
「分かった。だけど、お前の指示は絶対に耳を貸さない」
「俺も一応教師なんだがな……。まぁクラス委員をやってくれるみてぇだし、まぁいいか」
教室は拍手に包まれ、そのままHRが終わった。
そのあとは入学式のため、全員で体育館へと向かう。
入学式の後にHRを行うのが一般的なのに対して、この学園では様々な理由で騒ぎになるのを抑えるために、HR後に学年とクラス毎に体育館へと移動して入学式を行うのだと結衣から教えてもらう。
彼女は何故そんなことを知っているのかと不思議に思いながら、長い入学式を終えたのだった。