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長い廊下を歩き続け、ようやく教室までたどり着いた。
大きな校舎は無駄に広く、無駄にお金がかかっているように見える。
教室へ入ることを躊躇っている私に対し、気にせず教室へと入っていった結衣の後ろに続いて周りを見回す。
見事に男子生徒のみで、皆一様にこちらに注目している。
「初めまして、良かったらあとで校舎案内するよ」
「ねぇねぇ、名前教えて?良かったら一緒にお昼ご飯どう?」
「可愛いね!男ばっかで怖くない?良かったら寮まで送ろうか?」
結衣が席についた瞬間、次々と声をかけてくるクラスメイト。その光景は、まさに狼の群れのようで、わたしは怯えながらも自分の席へと座る。
わたしの前が結衣の席のため、男子生徒が群がっているのが嫌でも目に入る。
どうやって助けようかと迷っていると、突然結衣が大きな溜息をついた。
「昴ー!同じクラスなら助けなさいよ!」
声を張り上げた結衣の声は教室全体に響き渡った。
群がっていた生徒たちはピタリと静かになり、1人の男子生徒へと目線をうつす。
クラスから一気に注目を集めている彼は読んでいた本を閉じ、静かに立ち上がった。
「そいつの見た目に騙されないほうがいいぞ。下手に手を出したやつは、きっと1週間は退院出来なくなる」
平然と言ってのけた彼は、赤羽 昴。
結衣の従兄弟だ。
結衣に群がっていた男子生徒たちはしばらく固まっていたが、 そいつ俺の従兄弟 と昴が付け加えたように話すと、一斉に散っていき、結衣の周りは静かになった。
あまりの展開の早さに思わず驚いていると、結衣は振り返ってわたしに笑顔を向けてくる。
「昴はねー、中学からずっとクラスで1番なんだって!」
周りがざわざわと騒ぎ出し、わたしたちが教室へと入ってくる前に戻った様子を見て、胸を撫で下ろしていると、ニコニコと笑顔のまま結衣は上機嫌で話しかけてくる。
「昴、頭いいもんね?」
「いや違う違う、あっ……頭いいんだけどそうじゃなくて!昴はこのクラスのりっ……いたっ!」
「余計なこと言うんじゃねぇ」
すぐ近くまで来ていた昴は軽く結衣の頭を叩くと、うんざりしたような表情をしていたが、わたしの顔を見ると優しく笑いかけてくれた。
「渚、久しぶり。元気だったか?」
「うん!昴も元気そうで良かった!!」
中学の時に何度か会って以来で久しぶりの再会の嬉しさで、自然と笑みがこぼれた。
ガタガタッー
目の前でそんな音が聞こえ、いつの間にか立ち上がっている2人。
どうしたのかと首を傾げていると、結衣が突然わたしの肩を掴んで来た。
「渚!私たちがいない時に、絶対にそんな笑顔見せちゃダメよ!」
「結衣、いい加減教えてやれ。破壊力ありすぎなんだよ……」
「何度も教えてるのよ!けど、この子ったら全く信じないから、もう私たちで何とかするしかないのよ!昴、協力しなさい!!」
(破壊力とは……?)
そんなに笑顔が見せられないくらいに不細工だったのかと心配したが、2人が立ってくれたおかげで周りからわたしの表情は見えていない。
いまだに言い合いをしている2人についていけず、瞬きを繰り返していると肩を掴んでいる結衣の手が強くなっている気がする。握力が半端ない彼女に掴まれ続けたら、いずれ肩が壊れてしまう。
「結衣?肩、痛い……」
「あっ……!私ったら、ごめんね!またやっちゃった……」
すぐさま手を離してくれた結衣は、申し訳なさそうに肩をさすってくれた。
「お前、その馬鹿力いい加減に制御出来るようにしろよ。渚、大丈夫か?」
うるさい、と一言言い返した結衣は心配そうにわたしの肩を見て来た。
痛みがあったのは掴まれていた時だけで、今は何ともないことを正直に伝えると、心配してくれてありがとうとお礼を言う。
「渚……!本当にいい子!好き!大好き!!」
そう言って抱きついて来た結衣の背中に手を回し、わたしも大好きだと伝えると、今度は力強い抱きしめにより内臓が出そうになった。
(主人公の笑顔は最上級に可愛いのです)