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みなさんはBLの王道をご存知だろうか?
私はつい最近まで[普通の女子中学生]だった。
それがなんの宿命なのか、BL王道展開とやらをわたしは将来熟知することになる。
その日は、いつも通り何のトラブルもなく、時間が流れていた。
けれど、放課後に起きた出来事によって私の運命は大きく変わる。
「あっ!本、落としたよ!」
「えっ?……あっ!」
受験勉強のため、図書室へと向かっているとすれ違った女子生徒が本を落とした。
その子より早く気付いてしまった私は、落とした本を手に取り、彼女へと渡す。
明らかに焦った様子の彼女に首を傾げて、手にある本を見てみる。
うん、とても過激なタイトルの本だった。
しかも、自分の目が疲れているせいなのか、表紙のイラストは男性同士の様にも見える。
肌色が多い表紙に目を背け、彼女へと目線を向けると、今にも泣きそうな顔でこちらを見つめていた。
「あー……喋らないよ?」
安心させるように笑顔を向けるが、引きつっているかもしれない。
誰にだって知られたくない秘密の1つや2つあるはずだ。
「…………けた」
「えっ?」
俯いている彼女が呟いた言葉がよく聞こえず、思わず聞き返す。
「見つけたああぁぁぁぁ!!!!」
その叫び声とともに力強く握られた両手。
私の運命はここから変わった。
それから1年。
中学2年となった私たちは受験真っ只中。
周りは志望校を決めている中、私と目の前の彼女はいまだ決め兼ねていた。
「だからね!来年から獅子王学園が共学になるの!だから私たちが最初の女子生徒として入学出来るんだよ!!!」
興奮している彼女の名前は、赤羽 結衣。
去年、彼女の本を拾ったことをきっかけに仲良くなった友だち。
仲良くなったというよりも強制的に友人になったともいえる。
あの日、両手を強く握られた後、彼女はその力強い手で私を図書室まで連れて行くと、突然友だちになってくれと言ってきた。
あの時の勢いと必死の形相に私は怖くて、頷くことしか出来なかった。
そんなこんなで1年たち、彼女が大好物であるBLという代物を強制的に知らされる。
まぁ、足を踏み入れた結果、わたしとしてはそこまでハマらなかった。
もちろん面白い漫画や小説もあるし、キュンとくる展開もある。
けれど、彼女の様にBLが1番!とまではいかなかった。
「それで?わたしの進路用紙を提出させない理由は何?」
彼女は今日が提出期限である進路用紙を、わたしから奪って一向に返してくれない。
本来であれば、去年の終わりには決めていなければいけないはずが、彼女が先生に何とか今日まで待ってくれと懇願したのだ。
何故か私まで巻き込んで。
「渚!私と一緒に獅子王がっ!」
思わず、彼女の口を塞いでしまった。
あまりにも恐ろしいことを口にしようとした気がしたからだ。
「わたしは地元の高校へ行く。偏差値もそこそこの普通の高校へ行く。ってことで返して」
結衣の口を塞いだまま、もう片方の手で進路用紙を奪おうとする。
すると彼女は口を塞いでいたわたしの手を掴むと、力強く引っ張ってきた。
その力強さに抵抗できずに、そのまま机の上に上半身だけ乗っかってしまう。
「敵うと思ってんの?」
男性にしては高めの声でわたしの耳に語りかけてくる。
これが男性であったらパニックになるものの、相手は 彼女 だ。
「きゃー!こういう展開を見れるかもしれないなんて!!!!幸せっ!!」
そう、彼女の思考はいつでもBLのことばかりだ。自分の好きな展開を勝手に実行してくる。わたしを相手に。
「本当……力だけは強いんだから……。鍛えようかな……」
「だめよー!渚は今のままで素敵なんだから!」
そんな無茶苦茶な友人だが、わたしにとっては大切な友人だった。
だからこそ、彼女のお願いを断ることができないのだ。
月日が経つのは早く、あっという間に高校生だ。
そしてあれだけ嫌がっていたわたしは……
「獅子王学園……!去年までは全寮制!お金持ちの御曹司ばかりの学園!……あぁ!なんて王道」
大興奮している彼女の横で、わたしは遠い目をしていた気がする。
これから待ち受ける試練を予想しながら、わたしは足を踏み入れた。
※一部修正しました7/17