迷走
大空は拷問部屋でひたすら虐げられていた。
殴られたせいなのか、それともこの拷問部屋の蒸し暑さなのか、彼の視界は闇に包まれそうになる。
だが、大空に襲いかかった一撃は闇を追い払ってしまう。
その一撃は[拳から来る物]ではない。
大空は殴られ、人に見せられないほどの顔をその少女に見せる。
歳は大空とは変わらず、幼い感じも漂わせている。
が、幼いというのは一種の凶暴性を秘めているらしく、少女は躊躇せず、鉄塊を大空の腹に叩き込んだ。
グシャア!とそれが人から出るとは思えない音を部屋に響かせながら、大空は口から血を吐く。
内臓が破裂したというのが、腹の内出血の具合を見て分かる。
しかし、大空は死なない。
もう一度叩き込まれる。
衝撃に耐えられなかったのか、潰れた内臓が脇腹からはみ出ている。
それでも、死なない。
「頭を完全に胴体から切り離さないと死ぬことはない、私達だけが持つ呪われた肉体」
少女は冷酷に言い聞かせる。
「それがAIH部隊, aberrant(常軌に反した)・influence(影響を及ぼす)・human(人間)部隊が持つ唯一無二の生態兵器。」
「だからこれだけ体にダメージが入ってもただ痛みだけが影響する」
「センパイ…。私時々思うんです。もしかして私達は人間じゃないんじゃないかって」
「何故そう思う?」
大空は聞いた。
最も、その答えは彼が思っているのと同じなのだが。
心臓を撃ち抜かれても死なない。
青酸カリの何十倍の毒性の物質を飲んでも死なない。
再生だけでなく、素手で虎の頭骨を割る程の怪力もある。
それは人間ではない、化け物だ。
[体]は強靭でも、[心]は強靭ではない。
なんと滑稽な話だろうか。
少女は笑うことが好きだった。
笑えば何もかもが吹っ切ることが出来たからだ。
しかし、今の少女は笑ってなどいない。
笑えない程に少女は傷付いていた。
「センパイ…。また一緒に戦ってくださいよ…。」
すがる少女は言う。
「このままじゃ私は機密情報を外部に漏らさないためにあなたを殺さなければいけません…」
「そんなのは嫌なんです…。だから…」
「僕はお前には殺されない。もうここには戻らない。それだけだ。」
その言葉だけでどれだけ少女は傷付いただろうか。
「フフッ」
その言葉だけでどれだけ少女は変わっただろうか。
「フフフッ」
この時、大空は余りにも自分勝手だったと言える。
少女の目は絶望というより失望と表現するのが最も的確であった。
「アッハハハハハハハハハハ!!!!」
「ホント馬鹿ですよね…センパイ」
「殺されない?どうやって?あなたは今両手足の自由がきかないんですよ?」
「見くびるなよ…麻里。僕が[こんなもの]で本当に自由がないと?」
そう言うと大空は手足にある邪魔な物を簡単にひきちぎった。
肉体は既に元に戻っていた。
「センパイ。もしかして武器も何もない丸腰の状態で私に勝てるとでも思ってる?センパイこそ見くびらないでほしいな…」
「どうかな?お前にはコレ(拳)だけで十分だと思うよ!!」
2人は互いに殺しにかかった。