雨
4月11日
「で?僕に何の用なのさ」
大空は一緒に廊下を歩いているJKに問いてみた。
学校の授業が昼で終わり、さあ帰ろうというところで昨日喋ったJKに「ちょっと一緒に来て」と言われ今にあたる。
…のだが、現時点をもってしてもいまだ一緒に来てもらう道理を教えてもらっていない。
JKは少し微笑むと「まあちょっと来て」何て言うばかりだし、大空にとっては正直、迷惑の他ならなかった。
外を見てみると、いまだに強く雨が降り注いでいる。
雷がなる。と言うほどまでではないが、それでも豪風が止んですらいないのは開いている窓の僅かな風切り音で分かった。
また、雨というせいもあってか学校の廊下は酷く、不気味な暗がりを見せている。
しかし、目の前の女子はそんなことも気にせず何の恐れもないようにどんどん前へと進んでいく。
大空は無理に帰ることもないかと思い、そのままJKの後に続いた。
ふと、大空は思い出す。
「そういえば、君の名前まだ知らないんだけど何て言ったら良い?JK」
「ん?私は河原結奈よ。ゆいなでもかはらでもJKとか訳わからん呼び名以外なら何でも良いわよ。」
「JKって呼ばれるの嫌いかい?」
「いや、そもそもJK(女子コーセー)なんていっぱいいるから紛らわしいじゃん?」
「僕は君のことJKで刷りついてしまったよ」
「あ、着いたよ」
見事にはぐらかされた大空は横に視界を移すと、書物保管室と書かれた横には文芸部と紙で貼られたドアが見える。
ガラス越しに見える光と人影は明らかに誰かいることを察することができた。
「はーい。連れて来ましたよー。」
そう結奈が言いながらガラガラと音をたてながらドアを開けた。
20畳位の部屋に3人位が使う机を2つ合わせたものが中心に、左側には本棚があり、辞典や小説、図鑑等が敷き詰められている。
その奥には何故にか涙を必死に堪えている眼鏡をかけた女子が一人立っている。
「かわっち…。ウチは信じていたよ…。お前ならきっと希望に答えてくれるとおぉぉぉぉ!!!」
号泣しながらこちらに歩みよってくる。
すると、いきなり両手を掴まれ手をブンブンと縦に振りながら、
「初めまして!文芸部部長の一ヶ谷叶って言います!ようこそ!我が愛しの文芸部へぇぇぇ!!」
「河原、これは一体…?」
大空は戸惑いの目で結奈を見る。
結奈とは言うと、反省の素振りも見せず、平然と
「だって大空さ、部活何も入らないんでしょ?じゃ文芸部入ってよ。暇そうだし。」
ーーーーーいや、暇そうって見た目で決めないでよ。
「もしかして、僕を連れてきたのは…これ?」
「実はさ、ここ(文芸部)の部員さ、私と部長しかいなくてさ、で、この学校のルールで部員は3人以上じゃないと部活と見なされないんだよね。だから…さ、文芸部に入って?」
「いや、僕や…」
いや、僕やだよと言おうとしたのだが後ろからとてつもない陰鬱な気配を感じる。
まるで蜘蛛の巣に捕まってただ喰われるだけの餌になった蝶のような。
「いや、僕やったことないけど。(文芸部を)それでもいいなら別に構わないよ」
それを聞いた叶は先程の気は何処へ行ったのか満面の笑顔を見せていた。
「いいよー。いいよー。ぜんっぜんいいよー。ばっちこいだよー!!」
ーーーーー心配だー。
「じゃあ、これにサインして登録しといてー」
結奈が1枚のプリントを渡す。
「名前と学年と組だけって…、ずいぶんとあっさりしてるね…」
とはいえ、簡単なのは良いことだ。
大空はそれを叶に渡した。
それを手にした叶はというと。
「うう、ひっく…」
泣いていたのであった。