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第四十二章 探偵の指名を受けたのは

 三兄弟以外の三名が一様に驚きの表情を浮かべた。

 無理もないだろう。

 皆が必死に探していた男が現れたのだから。

「どういうことなの悟!」

 強い口調で、私市に問うたのは秀香だった。

「ゆ、夢路を殺しただけじゃ飽き足らず俺らまで殺しに来たんじゃ」

 伊吹が怯えた声を上げる。

 部屋に入ってからずっと俯いていた藤沢が、顔を上げた。驚いたような顔で、伊吹を見る。

 怯んだ伊吹など気にせず、声をかける。

「夢路を殺したって……。倉橋さん亡くなったんですか? 一体どうして」

「何をしらじらしい! あなたが殺したんでしょう」

 秀香が藤沢に詰め寄ろうとした。

 私市が藤沢の前に立って、秀香をなだめるように、両手を胸の高さに上げる。

「まあまあ。落ち着いてくださいよ」

「これが、落ち着いていられるっていうの?」

 私市は、噛みつくように言った秀香に、困ったような笑顔を向けた。

「あなたが落ち着いてくれないので、あの人達が部屋に入れない」

 そう言って、ドアの方へ視線を向ける。つられて、ドアの方へ視線を向けた秀香が声を上げた。

「お父様!」

 あけ放たれたままだったドアの向こうに、車いすに乗った一条老人がいた。その後ろには、瀬戸と千鶴の姿も見える。

 一条老人がちらりと振り返ると、軽く頷いて瀬戸が車いすを押して室内に入ってくる。

 千鶴は祖父の傍らについていた。

「よかった。お父様無事だったのですね」

 秀香が喜びの声を上げた。

「ああ。お前にとって、喜ばしいことかどうかは、別としてな」

 空が初めて見た時の元気な様子は鳴りを顰め、どこか疲れたように老人は言った。

 秀香が、老人のもとへ駆け寄ろうとしていた足を止め、眉を顰めた。

「どういう意味です」

「お前たち兄弟が、集まれば遺産の話をしてもめているのを知らんとでも思ったか」

「もめているのは兄さんたちだけよ。私は……」

「お前だって、この別荘を手に入れようと、随分画策しとっただろうが」

 秀香の言葉を遮って、一条老人が一喝した。

 秀香が黙り込むと、一時静寂が辺りを支配する。

 時計が時を刻む音が急に大きく聞こえたように、空には思えた。

「母親が晩年を過ごしたこの場所を、誰の手にも渡したくないというお前の気持ちが嬉しかった。だが、本当の理由があんなことだとは……」

 一条老人はここまで行って口を閉ざした。

「お父様……やっぱり知って……」

 秀香がそこまで口走ったあと、唇を片手で覆った。

 重苦しい雰囲気の中、口を開いたのは光だった。彼は持っていたティーカップを空にあずけ、立ち上がると、一条老人の方へと歩き出す。空も、渡されたティーカップと自分のティーカップを手近にあったテーブルへ置き、光についていく。海も同様だ。

「本当の理由というのは何だったんです?」

 この問いに、誰も答えようとはしない。

 老人も、その娘も下を向き、口を固く引き結んでいる。老人の隣にいる孫は、祖父と叔母を不安そうに見ていた。

 光は部屋のほぼ中央の位置で立ちどまり一同を見渡した後、一人の男性に視線を向けた。

「伊吹さん。あなたは、知っていますよね」

 突然声をかけられ、伊吹はえっと声を上げた。

 その声につられたのか、皆の視線が伊吹に集中する。

「な、何だって、俺が」

「あなたが二十年前の事故の関係者だからですよ」

 淡々と告げると、伊吹の顔が引きつった。

「に、二十年前、二十年前って。お、俺には何のことだか」

 光から視線を逸らしつつ、伊吹が呟く。

「光君。君には検討がついているんじゃないのかね」

 唐突に、声をかけられて、伊吹に向けていた視線を一条老人に向けた。

「わしが、何故この別荘を賞品にミステリー会をしたのか。なぜ、娘がこの別荘に固執するのか。なぜ、ここで殺人が行われたのかも」

 老人の問いに、光は頭を振った。

「確証が何一つありません」

「言ってみたまえ。その推理が合っているなら、わしも、わしが知っていることは全て話そう」

 老人の本気を感じ取ったのか。秀香が声を上げる。

「お父様っ」

「秀香、これ以上の被害を、お前はだしたいのか」

 父に問われて、秀香は唇をかんだ。逡巡したように瞳が揺れる。

「光君。君のこれまでの活躍は調べさせてもらった。色々な事件をその頭脳で解決しているそうじゃな」

 光は肯定も否定もしなかった。

 だが、その傍らに立つ空がこくこくと頷いている。

 そうだよ。光はすげぇんだぜ!

 と言いたいところだが、今はそんな場合ではない。ないので、首を縦に振るだけに留めたのである。

 光は一瞬目を細めた後、私市に視線を向けた。

 彼は、どうぞというように、手を動かして、光を促した。

 光は俯いて目をつむり、大きく息を吐きだした。目を開いた光は顔をあげ、室内にいる全員を見回しながら告げた。

「僕は、ここに、遺体が埋まっていると思っています」

 え? と誰かが声を上げた。他の誰かが息を飲む音も。

「それが、秀香さんが……。いや、秀香さんたちがこの別荘を手に入れようと必死だった理由、なのだと思っています」

 光が口を閉ざすと、沈黙が訪れた。

 誰も口を開こうとしない。

 光が言った遺体が埋まっているというのは、どういうことなのか。

 混乱した空の口から、この問いがこぼれるのはあとほんの数秒先の話だ。


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