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理由

維月は、維明と二人で庭を散策しながら、ふと思い出して維明に問うた。

「そう言えば維明様…やり残されたことって何でしょう?何かお手伝いできることでしょうか。」

維明は頷いた。

「まだ、白桃をならしておらぬからの。ブドウも、メロンもぞ。主が好むと聞いて、庭で育てておるのに…あれを、主に食べさせてやりたい。」

維月はびっくりしたように維明を見て、そして見る見る涙ぐんだ。

「まあ…維明様…。」

維明は驚いて立ち止まった。

「なぜに泣く。」と、慌てて維月の涙を自分の袖で拭った。「泣くでないぞ。我は何かおかしなことを申したのかの?」

維月は、首を振った。

「いいえ。とても嬉しゅうございます。そのように思ってくださっておられたなんて…。」

維月は、維明に身を寄せた。維明は驚いたように維月を見たが、そっと抱き寄せた。

「ほんに…主は不思議ぞ。」維明は言った。「このようなことで、そのように寄って来るとはの…。我には分からぬが…。」

維月は微笑んだ。

「そのお気持ちが嬉しいのでございます。」そして、フフと笑った。「女心って複雑ですのよ?」

維明は目を丸くした。

「…分からぬ。今までそのようなもの、分かろうとも思わなんだゆえ。ただ、我はそうしたいと思うたことをしておるだけよ。主に好まれようと思うた訳ではないのだが。」

維月は笑った。

「まあ!では、嫌われたほうがよろしいのですか?」と、維月は駆け出した。「では、そのように。」

維明は驚いて、慌てて維月を追った。

「そうではない。待たぬか!維月。」

維月はキャッキャッと嬉しそうに駆けて行く。

維明はそれを追いながら、いつまでもこうして追っていたいと思った。


離れた庭先でその様子を見ながら、維心は黙って眉を寄せた。十六夜が、隣でため息を付く。

「お前そっくりで、天然で維月を惹きつける才能ってのを持ってるんだよな、維明は。お前だってそうだったじゃねぇか。特に維月に好かれようと思っていなかっただろうが。でも、好きだから維月を想ってしてることが、いちいち維月のツボにはまってドンドン気持ちを持ってっちまうんだよ。元よりお前と同じ見た目なんだから嫌いな訳はないし、中身がアレなんだから好きにもなるだろうよ。お前だって、そう思ったから維月に維明のことを知らせずに来たんじゃねぇのか?」

維心はしばらく黙っていたが、頷いた。

「…叔父上は、我よりずっと出来たかたぞ。我より後に生まれながら既にたくさんの知識を持って生まれて来たので、まだ宮にあった時はいつも我を庇おうてくれた。争いの元になってはならぬと、西の屋敷に篭られた時には、まだ20歳にもなって居なかった…それからはご自分の気を抑えるため気の補充もほとんどせず、ただじっとあの屋敷で我を気づかって生きておられた。我は…あの叔父には敵わぬと思うておったからこそ、維月に言えなかったのだ。我と叔父なら、維月は叔父を選ぶであろうて。叔父は同じと言うが…全く違う。我は、己のことしか考えておらぬ…。」

十六夜は、維心の寂しそうな顔を見て、居たたまれなくなった。

「そんなに自分を悪く言うな、維心。それでも、維月はお前を好きなんだ。維明のことを愛してる訳じゃねぇよ。お前がここへ来たのを感じ取った時の維月が、どれほど待ち遠しい顔をしていたか知らねぇだろう?あいつはなんかっちゃあ維心様維心様って、そりゃあ腹が立つんでぇ。お前は自分が見てる所しか知らねぇからな…人の頃から見てるが、あいつはあんまり愛情表現しまくらねぇタイプだし。」

維心は眉を上げて十六夜を見た。

「そうだろうか?子らには鬱陶しいのではないかというほど抱きついたりして表現しておるがの。」

十六夜は視線を上に向けた。

「お前なあ、どうせそれを羨ましいとか思って見てたんだろ。」

維心は驚いた顔をした。

「…なぜに知っておる。」

十六夜は呆れた顔をした。

「予想が付くんだよ。仕方ねぇ、今夜は譲ってやるから、そこんとこ話して来な。維月はなかなか好きになんてならねぇし、お前にはオレから見たってムカつくぐらい執着してるんだからな。維月の口からそれを聞いて来い。」

維心はじっと十六夜を見ていたが、頷いた。

そして庭のほうへまた目をやった…維月と維明が、こちらへ並んで帰って来るところだった。

「維心様!十六夜~!」

維月が手を振っている。二人は思わず、微笑んだ。


その夜、維心と共に北の庭に出た維月は、二人で歩きながら、星を見上げていた。維心は維月と結婚するまで人の後ろを歩いたことがなかった…だが、今では、維月に限っては後ろを歩くほうが好きだった。後ろからなら歩いていても、維月のことがよく見える。いきなり方向を変えても、ついて行くことが出来るからだ。維月は維心と歩いていても、後ろを歩いていたら何かに気を取られてそっちへ行ってしまうことがある。必ずついて来る訳ではないのだ。最初はびっくりして探し回ったが、今ではすっかり慣れた。維月と歩く時は、後ろか横を歩くことにしたのだ。

今夜も、維月は気ままに、何かの歌をハミングしながら先に歩いて行った。機嫌はすこぶる良いようだ。聞くなら今…。維心は、機嫌を損ねないか不安だったが、維月の横に追い付いて並んだ。

「維月」維心はその肩を抱いた。「その…聞いても良いか?」

維月は不思議そうな顔をして維心を見上げた。

「なんでしょう?維心様。」

維心は思い切って言った。

「…主は、我を愛しておるか?」

維月はきょとんとした。しょっちゅう言ってるのに。今更何を言っているのかしら。

「はい。愛しておりまする。」

維心は眉を寄せた。言い方を間違えた。これでは普段と変わらぬではないか。

「そうではない…その、我ぐらい愛しておるかということだ。」

維月は眉を寄せて首を傾げた。

「…維心様ぐらいと申しますと…?」

表現があまりに自分中心過ぎて伝わらなかったらしい。維心はどう言えばいいのか悩んだ。

「なんと申せば良いのか…我はこの手の言葉を知らぬので…。」

ー沈黙。

維月も困っているようだ。維心が何を言いたいのか、必死に考えているようで、眉を寄せたままウンウン唸っている。

「でも…私なりに維心様のことを愛しておりまする。それ以上お答えのしようがありませぬが…。」

維心は諦めて、頷いた。

「我も愛しておる。すまぬ、突然に聞いてしもうて。」

維月は頷きながら、維心が求めていた答えではなかったのは分かっていた。でも、何が聞きたいのか分からないんだもの…。

維心は、維月の手を取って、自分の部屋へと戻って行った。それを月から見ていた十六夜は、維心にそんなことを進めた自分に後悔した。そもそもあいつがそんなことを維月から聞き出せるはずがねぇ…。

十六夜は、次の日までに考えようと、心に決めた。


次の日の昼頃、十六夜が涼を連れてやって来た。維心も維月もびっくりして十六夜を見た。

「まあ、珍しいこと。涼、李関は元気?」

涼は微笑んだ。

「ええ。母さんが帰ってるって聞いたのに、顔を見てなかったと思って、十六夜に頼んで来たのよ。ね、ちょっと話さない?」

維月は、珍しいこともあるものだと思い、もしかしたら李関との間に出来た子の、子育ての悩みとかかもと考えて、すぐに立ち上がった。

「ええ、いいわ。」

「じゃあ、学校の談話室に行きましょう。」

涼が、先に立って維月を連れて出て行く。維心と十六夜は、それを黙って見送った。

十六夜は、回廊を歩いて行く二人を見てから、言った。

「維心、お前にあんなことを勧めたオレが悪かった。思えばお前が言葉を知ってるはずはねぇ。それによく考えたら伝わったとしても、どれだけ愛してるかなんて、維月自身からお前に、恥ずかしがって言わねぇだろうしよ。で、考えた。前に瑞姫に維月が話してたのを聞いたことがあったろう?あの原理で行こう。」

維心は、十六夜を見た。

「…もしかして、涼に話させるのか?」

十六夜は頷いた。

「オレがどう言えば維月が白状するか指南したから、絶対うまく行く。あいつのことは赤ん坊の時から知ってるんだからな。さ、気配を消しな。談話室へ行くぞ。」

維心は少し戸惑ったような顔をしたが、黙って頷くと、十六夜の従って学校の談話室のほうへ向かってそっと飛んで行ったのだった。

それにしても、もう一人の夫が、別の夫のために心を砕くなんて…十六夜はどこまで人が良いのか。

維心はそんなことを思いながら、その背を追った。

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