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北の果てから

維月が全て一人で平らげてゲップを抑えていると、洪がまた転がる様に居間へ入って来た。

「王!」

維心は洪を見た。

「…結構な数の軍が、結界外に到着しておるの。なんと申して来た。」

洪は、知っているのに落ち着いている維心を見て、自分も気持ちを落ち着かせながら言った。

「は、義心が軍を引き連れて参って聞いて参ったところに寄りますると、北の果てのもう一つの宮の王、理久(りく)様、そして氷璃様の皇子である氷輝(ひょうき)様が、揃って起こしでございます。王にお目通りをと申しておりまする。」

維心は眉を寄せた。なぜに争っておる二つの宮が揃って参るのだ。

「…何やら面倒を持って参ったようであるな。」維心は洪を見た。「二人を宮へ。後は結界外に待機させよ。義心は宮へ。外は慎怜に守らせよ。」

洪は頭を下げた。

「は!」

洪が出て行くのを見てから、維明が言った。

「会うか、維心。地下牢の二人はどうする?」

維心は考え込むような顔をした。

「…殺すほうが良いな。我が甘いと思われる。」と維月を見た。「…だがの、今は維月と共に考えることにしておるゆえ。まずは様子を見ようぞ。」

維月は微笑んだ。侍女が維心の着物を持って入って来る。王族が二人も来るので正装を持って来ているのだ。維心はそれを見て立ち上がった。

「さ、着替えさせよ。」

維月は頷いて立ち上がった。

「維明様は、こちらへ。」

侍女が同じように着物を持って立っている。維明は眉を上げた。

「我も参るのか?」

維心は維月と奥の間へ入ろうとして、振り返った。

「向こうも二人であるゆえ。たまには良いであろう、叔父上。」

維明はため息を付いた。

「…このようにいろいろと関わる日が来ようとはの。」

立ち上がった維明に、侍女達がわらわらと寄って行って、維明は驚いて退いていた。それを見た維心と維月は、笑い合って奥の間へ行き、着物を着換えた。

「戦の話を持って参った訳では無いようですわね。」

維月が維心の袿を着せかけ、さらに前で紐を結びながら言う。維心は頷いた。

「恐らく我に間に入れと言うのか、ま、ここまで出て来るからには何かあろうの。」侍女が髪に小さな王冠のような細工のものを乗せる。維心は維月を見た。「どちらにしても、主は気にすることは無い。我が良いようにするゆえ。の?維月。」

維月は頷いた。

「はい、維心様。」

維心は微笑んで頷くと、維月の手を取って居間へと出ようと歩いた。維月は維心に見とれた…正装すると、また一段とご立派になられるのよね。

維月がはたと立ち止まると、維心は少し驚いたように振り返った。

「どうした?」

維月は微笑んで、維心の胸に寄り添うと見上げた。

「維心様…。」

維心はそれを見てフフンと笑うと、維月を抱き寄せた。

「こら維月…これから敵方かも知れぬ王に会うのだぞ?」と言いながら、嬉しそうに唇を寄せた。「仕方がないのう…我が妃は我がままであるから…。」

軽く口づけてから、維月は嬉しそうに言った。

「愛しておりまする。」

維心は維月を抱き締めて頬を擦り寄せた。

「知っておる。我もぞ。さあ、戻ってから存分に望むようにしてやるゆえ。今は行かねばの。」

維月はあら、と言う顔をして、ふふっと笑った。

「…本当に望むようでよろしいのですか?」

維心はびっくりしたように維月を見た。そして、少し頬が赤くなった。月の宮での夜を思い出したのだ。

「その…別に主になら良い…あのような事でも。」

維月はニッと笑った。

「はい。お待ちしておりまする。」

維心はまた、ぼうっとしそうになったが、小さく首を振ると、維月の手を取り直して居間へと出た。


「遅い。」十六夜が、振り返った。「着替えるのに何時間掛かってるんでぇ。」

見ると、碧黎も居た。維明は正装をして、そこに立っていた…維月は維心にそっくりな維明もまた、とても似合うと見とれた。

維心は、十六夜を見て不機嫌に眉を寄せた。

「あのな、主らこそ遅いわ。我ら朝から待っておったのだぞ。もう昼前ではないか。その間にこんなことになっておるのだ。」

十六夜はフンと横を向いた。

「碧黎と話してたしな。ところでお前、顔が赤いぞ。」

維心はそう言われて、慌てて気持ちを落ち着かせた。

「…我のことより、主らはどうする?我としては、ここで維月を見ていてもらいたいの。何かあった時に守って欲しいゆえ。」

十六夜が頷いた。

「オレと碧黎で、維月を一度月へ帰す。オレ一人じゃ無理だと分かったんだ。それで、月とのつながりを復活させてまた、実体化するよ。ま、お前はのんびり王達とでも会ってろや。」

維心がため息をついた。

「何がのんびりだ。こっちは紛争を収めねばならぬかも知れぬのに。とにかく、維月を頼んだぞ。時間が掛かるようなら、我に知らせをくれ。」

碧黎が首を振った。

「そう時は取らぬ。たがしかし、北からあやつらが来ておるのだろう。維月は月の宮で預からせるゆえ、終わったら迎えに来い。」

維心は少し複雑そうな顔をして維月を見た。維月は微笑んだ。

「では、私はあちらで待っておりまするから。父がそう言うのですし。」

維心は渋々頷いた。

「では、早く終わらせて迎えに参るゆえ。」

碧黎は維月に手を差し伸べた。

「おお維月よ、我を父と。では、父が連れて参ろうぞ。月へ戻るのだ。」

維月は碧黎の手を取った。

「はい。」

十六夜は呆れたように後について歩いた。

「じゃあな、維心。早く収めて来いよ。」

三人は、光に戻って、昼間で見えないが、月へと昇って行った。

それを見た維明が言った。

「おお、ほんに維月は月であるのだな。」と空を見上げた。「空から維月の気がするとは…これならば、いつでも会えるの。」

維心は、本当に欲のない叔父に感心した。我は、欲が深いのだろうか…。

「王。」

振り返ると、洪が正装して立っていた。二人に頭を下げる。

「それでは、お二人がお着きでありまするので、謁見の間へお越しくださいませ。」

維心は頷いて、維明と共に謁見の間へと向かって歩いて行った。


謁見の間では、険しい顔をした二人の男が立っていた。

軍神達が回りに立ち並び、物々しい雰囲気の中、維心が先に立って謁見の間の玉座に就き、維明がその横に立ち、反対側の隣に将維が立った。

緊張した面持ちの二人は、一人は黒髪にグレーの瞳の、見た目は維心と同い年ぐらいの外見の神、もう一人は氷璃と同じ黒髪にアイスブルーの瞳の若い神だった。維心はじっと二人を見てから、言った。

「我が龍族の王、維心。」と、傍らの将維を見た。「我の跡取りの将維、そしてこちらが叔父の維明。我に目通りを願ったとか。何用ぞ。」

グレーの瞳のほうの神が言った。

「お騒がせして申し訳なく思う。我は北の地で北側三分の二を統治する王、理久。」

傍らの若いほうの神がそれを受けて、言った。

「我は、北の地で南側三分の一を統治する王の跡取りである、氷輝でありまする。」

維心が微かに眉を寄せた。

「氷璃の子か。」

氷輝は、少しためらったが、頷いた。

「はい。」

理久が、それを庇うように言った。

「こちらの筆頭軍神が我らの地へ訪ねて参ったので知ったのだが、氷璃は北の地を統治しておると言って、維心殿に凛を娶らせようとしておったとか、相違ございませぬか?」

維心は頷いた。

「そう。しかも、それを断ったとなると我が妃をさらって参ろうと、術を掛けて気を失わせた。叔父が捕えたので事なきを得たが、我が妃は月であるゆえあのような事をしたら、消滅する可能性があった。よって、処刑する。」

氷輝が、下を向いた。理久は何も言わずに頷いた。維心はじっとその様子を見てから、続けた。

「…と思うたが、我が妃が命ばかりはと申すのでな。今は我が宮の牢に繋いでおる状態ぞ。主らはあれらの、命乞いに参ったのか。」

理久は維心を見上げた。

「…助けて頂けるのか。」

維心は背もたれにもたれ掛かった。

「何にせよ、話次第ぞ。本来ならとっくに殺しておる所。申せ。」

理久は、氷輝を見て、頷いた。そして、維心に言った。

「氷璃は、病に掛かっておりまする。」理久は言った。「もう、100年以上になりまするか…我らは父王の代に決めたこの領地の配分を、違えることなく平和にしておりました。それが、ある日、突然に我らのほうへ侵攻して参って。」

氷輝は頷いた。

「100年ほど前、まだ子供であった我は、たった一人でこちらのほうまで飛んで参ったことがあり申す。その時、我は変わった黒いもやもやとしたものを見かけて、なんだろうと近寄ったのでございます。」思い出したのか、氷輝は身を微かに震わせた。「その黒いものは、我に纏わりついて参りました。なぜか我の中には入って参りませんでしたが、必死に逃れようとしながら戻った我を見て、父上と伯母上は我を何とかそれから離そうと手を差し出したのでございます。すると我の目の前で、二人に向かってその霧は流れ、まるで吸い込まれるように体の中へ入り込みました。我はあまりのことに、声が出なかった。」

理久は、先を続けた。

「氷璃は、それから変わり申した。我にも訳が分からなんだが、会合の席でもいきなり腹を立てて立ち上がったかと思うと、身を翻して出て行ったり…とにかく、氷璃らしくなかった。凛も、もっと穏やかで優しい、そして強い女であったのに。何やら猜疑心の強い、暗い女になってしまっておった。」

氷輝は、うなだれた。

「あれが何かも分からぬまま、どうしたら良いのか、我にも見当もつかず…休戦状態である今、突然に軍神を連れて父上と伯母上がどこかへ飛び立たれたので、臣下達と話し合い、我は理久殿にお話に参ったのでありまする。そうした時に、こちらの筆頭軍神という義心殿がやって来た。そして、こちらへ来ておることを知ったのでございます。」

維心は黙って聞いていたが、頷いた。

「そうか。北の果てには、あの黒い霧はないか。」

理久は驚いたように言った。

「有り申さぬ。維心殿には、それが何かお分かりか。」

維心はため息を付いて、頷いた。そして、将維を見た。

「十六夜に、こちらへ来るように言うてくれ。ついでに維月も連れて参るようにと。」

将維は頭を下げた。

「は、父上。」

将維は出て行く。維心は理久を見た。

「こちらではどこにでもある。それは人や神の、暗い念が凝り固まったもの。そしてそれは他の暗い念に憑りつき、それを増幅させ、そして新たな暗い念を生み出す。そうして、どんどんと増えて行くのだ。」

氷輝は、不思議そうな顔をした。

「では、なぜに我には入り込まなかったのでしょうか?」

維心はフッと笑った。

「おそらく主には、暗い念がなかったのだ。負の感情に憑りつくのであって、それがなければ、ただ纏わりつくのみ。封じる方法があるゆえ、後で教えようほどに。」

そして、理久を見た。

「理久殿。かの地には、負の感情が少ないと見ゆる。100年もの間、あの二人にしか黒い霧が憑かなかったとは…皆が穏やかな様が手に取るようぞ。我らとて、あれは持て余しておっての。あれを消せるのは、月の浄化の力しかない。我にでも、あれは封じることしか出来ぬ。今、月を呼んでおるゆえ、待つが良い。」と、傍に控える義心に言った。「義心、あの二人を封じて最下層から上げよ。霧に憑かれておるとなっては、最下層では逆効果よ。」

義心は頭を下げた。

「は!」

義心はサッと出て行った。

理久と氷輝は、それでも少し不安そうにしていたが、ただ立ち尽くして、事態が進むのを見ていた。



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