その6:3つ目
「よし! あとは最後の一つね! 矢でも鉄砲でも持ってこいってのよ!」
「この場合、持ってこられるのは爆弾以外にないと思いますがぁ……」
ラビのツッコミを無視してニオが振り返ると、レスチアは聞かれる前に答えだした。
「最後の一つは大丈夫です。わたしの言うとおり順番に配線を切っていけば解除できるは
ずです」
「よし、レッシュ頼んだ……」
ハンターの口が止まる前に、背後から罠の解除にでも使われるであろうニッパーがレッシュ
から手渡される。
「おれ?」
「わたしも一度危険な目にあってるんだから、今度はハンターの番よ」
「まじですか?」
「まじです」
その場にいるメンバーの全員が、ハンターへと視線を集中させる。ハンターはうつむき
加減で苦笑を漏らしつつ、レッシュからハサミを受け取った。
「わかった。やってみるさ」
「では最初に、緑色の五本の線を全部……」
レスチアの指示通り、ハンターは的確に配線を切断していく。最後に残った赤と青の太
い配線を残したところで、ハンターは額の汗を握った。
「さあ、これで最後だ。どっちの線を切ればいいんだ?」
「……赤だ」
レスチアに言われたとおり、ハンターは赤の配線を切る。だが、カウントは消えなかっ
た。それどころか誤作動を察知したのか、残り五秒となり〇へと近づいていった。
「おいっ! どういうことだ!」
「さ、さあ、なんのことやら?」
「くそっ、みんな逃げろ、爆発するぞ!」
ハンターの合図と共に、一斉に爆弾から離れていく。レスチアは一人残り、五、四と秒
数の減っていく爆弾を黙って見つめていた。
「なにやってんだ、死にたいのか!」
「死にたい? フフ、なんのことでしょうか?」
いままで従順だったレスチアが、嫌らしげな笑いを放つ。みんなが地面へと飛び、顔を
伏せて爆発に備えたところで、ちょうどカウンタが〇を表示した。だが……。
「パパパパパパパパパ、パパパパパーン。おはよう、ぼくレスチア。起きる時間だよ?
起きろぉぉ! パパパパ……」
辺りに執拗に鳴り響く、わけの分からない音と声。続いてレスチアの、狂ったように響
き渡る哄笑。うるさくわめく機械が爆弾とはかけ離れた、単なる目覚まし時計だと気がつ
くまで――ニオたちはまったく動けなかった。
「くっ、きさま! どういうことだ!」
ハンターがパイソンをレスチアのこめかみへとあてる。だが、いままでのように怯えた
表情はしていない。
「どうもこうも、これはわたしが失くしてしまったただの目覚まし時計ですよ」
「ふざけるな!」
「ふざけてなどいませんよ。わたしが一言でもこれを爆弾だと言いましたか? 勝手に勘
違いしたのは貴方たちでしょう。さあどうしてくれるんです? 目覚まし時計で拘束など
前代未聞なのではないですか?」
鼻で笑ったレスチアの襟首を、今度はレッシュが掴みあげる。
「いい覚悟だな。他の爆弾もきちんと調べて、引導を渡してやる!」
「フフ、楽しみにしてますよ」
その頃ようやく現れたフェミリーと自警団のメンバーが、レッシュと一緒にレスチアと
解除済みの爆弾もどきをを持って事務所へと帰っていった。、
「遅かったな、フェミリー」
息を切らしているフェミリーに、ハンターが尋ねる。フェミリーはハンターの頭の上に
止まりながら、
「だっていくら説得しても、信用してくれなかったんだもん!」
腕を組んでプクーッと頬を膨らませる姿に、全員の口からふぅーっとため息が漏れた。
「人選ミスだったわね……」
ハンターの肩を叩きながら、ニオ。ハンターは無言で頷くと、自警団の後に続いて滝を
後にしていく。
「シェラ。いつまでへそまげてんの!」
「だってだって……このままじゃマスカーレイド中に……」
「大丈夫だって、みんな口堅いんだから。ほら、もう帰るよ」
シェラをニオとクネスで支え、残りのメンバーも滝のふもとから立ち去っていく。
――二日間の調査の結果、レスチアが持ってきた爆弾もどき四つは、全て目覚まし時計で
あることが判明していた――。