その2:フェミリーの持参品
と、そこに騒がしく店内へと飛び込んできたのは、小さなフェアリーの姿だった。
「こんにちはー! 今日はこんなもの拾ってきたよ!」
大きな物体を手に持ち、店内を飛び回っているフェミリーの姿に、客の反応は素早いも
のだった。
「うわっ、フェミリー!」
「なにが起こるかわからん、逃げろ!」
颯爽と逃げ出す客を見送りつつ、ニオは大きくため息をついた。店内に残ったのはなに
が起こったかわからないレスチアとラビ、事態になれているハンターとクネスだけだ。
「フェミリー……来るときは事前に連絡をしてって言ってるでしょ?」
「あはは、そうだったね。まあいいじゃないの」
「ぜんっぜん、よくない……」
フェミリーは店内を飛び回るのを止め、ニオのすぐ側まで降りてきた。手に持っていた
ものをカウンターにドンとおき、得意げに胸を張る。
「それよりもこれだよ。面白いものをみつけたんだけど、これなにかなぁ?」
「ん?」
みんなが一斉にフェミリーの持ってきたものを覗き込む中、レスチアだけがビクッと体
を震わせ、座っていた席から立ち上がった。
「どうかした?」
「いえいえ、なんでもございませんのことですよ?」
フェミリーの持参品は赤いデジタル数字がカチカチと音を立てつつ、一つずつ数を減ら
していた。中央からいろいろな色のの配線が姿を見せては、いずこかへと繋がり姿を消し
ている。
「口調がおかしくなってるけど……本当になんでもないの?」
ニオが目じりを吊り上げながら、レスチアに迫ろうとする。その直後、ハンターの絶叫
が店内へと響き渡っていた。
「こりゃ、時限爆弾だぞ!」
「じ、時限爆弾!?」
ハンター以外の全員が一斉にカウンターから離れると同時に、レスチアがオートエーガ
ンを飛び出そうと床を蹴った。だが――。
「どこいくつもり?」
カウンターを飛び越えたシェラが、入り口近くまで進んだレスチアの襟首を掴んでいた。
じたばたと暴れるレスチアを軽々と持ち上げたため、レスチアの足は空回りしている。
「シェラ! そのまま捕まえといて、絶対に逃がしちゃダメよ!」
いったんはカウンターから離れたニオが、時限爆弾を調査しているハンターの側へと恐
る恐る近づいていった。
「ハンターさん。大丈夫?」
ハンターは手に握っていた時限爆弾をそっとカウンターへと戻した。額に広がっていた
汗を拭い、ゆっくりと息を漏らす。
「どうやら四桁の数字がパスワードになってるらしい。パスワードで解除するタイプの時限爆弾のようだな。爆発まではまだ時間がありそうだ」
ハンターは懐からパイソン四インチを引き抜き、銃口をレスチアへと向けた。
「パスワードを教えろ」
「ひっ、な、なんのことやらさっぱりでございますのことよ!」
「三秒以内に教えないと、弾丸がお前の脳漿をぶちまけるぞ!」
「ひっ、ひいぃぁあ!」
先ほどよりも早く足を回転させるも、やはり前に進むことはなかった。
「一!」
「し、知らない!」
「二!」
「や、やめへくれぇ!」
「三!」
「わ、わかった! 言う! 〇四七八です!」
ガウン!
半泣きで絶叫したレスチアの頬をかすめ、弾丸がオートエーガンの壁へと突き刺さった。
レスチアの全身から、力が一瞬にして抜け去る。
「〇四七八だな」
平然とした面持ちでハンターは銃を懐に戻すと、パスワードを打ち込んだ。
「〇、四、七、八っと……」
「ドカアアアアアン!」
爆音におののいた全員が、一斉に床へと伏せる。だが、時限爆弾はピーという音を最後
に、まったく動かなくなってしまっていた。
「な、なんだったの、今の音……」
ニオが恐る恐る、伏せていた顔を上げる。店内は平然としたまま、爆発したようすはま
ったくない。
「あ、あはは、ごめんなさい。こんなに驚くなんて思わなかったからさ」
頭をかきつつ、フェミリーが頬を染めながら店内を飛び回る。どうやら先ほどの爆音は
フェミリーがみんなを驚かそうと叫んだだけらしい。
「あ、あんたねえ!」
「怒らない怒らない。無事だったからできるいたずらだって。あはは」
ニオはフェミリーを捕まえると、頭を指の先でぐりぐりと押さえつけた。
「やって、いい冗談と、悪い冗談の、区別が付かないのは、この頭かぁ!」
「ご、ごめんごめん、悪かったって」
「ちっとも反省してない!」
ニオとフェミリーのやりとりを、平和そうに見守る三人。クネスが違和感に気づいたの
はそのときだった。
「シェラ、レスチアは?」
「ん、えっ? あ、あぁ!」
「逃がしたのか!」
先ほどまでシェラの手で吊り上げられていたレスチアの姿は、すでに店内から消えうせ
ていた。
「だ、だって、爆弾が爆発したと思ったから、自分の身を護るのが精一杯で……」
「くそっ!」
ハンターが急速でオートエーガンから飛び出す。