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一番好きでした

作者: ひずる

ふと思いついて書いたお話です。

悲しい話なので、しんみりした気持ちになりたくない方は、回れ右してください。

 信濃瑞希しなの みずきがいなくなる。


 そう知ったとき、私は何もできなかった。

大きな背中、温かい手。

短い黒髪に、きりっとした眉。笑うと少し垂れる目だって、こんなに鮮明に思い出せるのに。

でも、思い出すことしかできない。

 

だって、瑞希がいなくなるなんてありえないと思ってたから。


 それは3年前のこと。

高校1年生の終わりに瑞希は突然私に言った。


 「俺、英語の勉強しにアメリカに行くんだ。それで、いつか大きな会社作るよ。ちなみにゆいがその時1人で寂しそうだったら、俺が引き取ってやるよ。幼馴染みだし、仕方ないからな。」


 おどけた顔で私を肘で小突く。

 瑞希はこれでもよくモテるのだ。ちょっと童顔だけど、スッと通った鼻筋とか、小さい頃からやっているサッカーのおかげでついたバランスのよい筋肉も、よく似合っている。

反対に私は地味な女の子だったと思う。今ではばっさりショートヘアにしている髪も、当時は長くてしかもおさげにしただけだった。

幸い目はよかったので厚底ビンのようなメガネはかけずにすんだけど。


 そして瑞希はまるで小旅行でも行くかのようにパッとアメリカへ旅立って行った。

それから3年の月日が経つんだね。長かったなぁ。

留学してから時々手紙のやりとりはしていたし、年末年始はきちんと帰国していたので、あまり離れている気がしなかったが手紙に同封されている写真を見る度に大人っぽくなっていく彼に焦った。


でも、瑞希はもういない。そう、本当は「いなくなった」のだ。


 『飛行機が墜落したのは、日本時間の真夜中。

ハワイ上空でエンジンが停止した模様ですが、詳しい原因は不明です。

生存者はいない模様です。現在、機内に日本人がいたことについて確認が取られていますが…』


テレビの向こうで響くアナウンサーの声が、耳を素通りした。

確認なんかしなくても、私は知っている。

年越しが近いこの時期まで待ちわびていた、彼の帰国。

瑞希が乗ってくる予定の便も事前に手紙で知らせてもらっていた。

この日をどれほど楽しみにしていたか、言葉では伝わらないほどなのに。


 信じたくない。

信濃瑞希がいなくなった。

信濃瑞希はもういない。


 幼稚園の時、今では考えられないくらいやんちゃだった私の後に続いてジャングルジムのてっぺんを制覇した彼。

小学校の時、リレーのアンカーをしていた彼。

こけたけど、バカにしたけど、本当はかっこよかった。

中学生の時、野球部に入ってやめて、バスケットボール部に入ってやめて、何をしたかったか分からないけど、一生懸命だった彼。

高校1年の期末で赤点を取りつつもギリギリ留年を免れた、留学を決意した彼。


思い出せばきりがない。

でも、もう瑞希はいない。


もっと言いたいことがあった。

もっと伝えたいことがあった。


置いていってほしくなかった。

手紙で話があるって言ってたじゃない。


私だって言いたかった。

もうずっとずっと、本当の気持ち、隠していたから。


 瑞希が星になって1週間、葬儀は執り行われた。

木でできた棺は思ったよりも暖かみがあって、私は少し安心した。

この中なら、きっと安らかに旅立てるだろう。


奇跡的に瑞希の体は飛行機から立ち上る炎で灰にならずにすんだ。

優しく微笑んだような彼の顔を見つめて、私は語りかける。

ねぇ、さようならは言いたくないから、最後にこの気持ちだけでも聴いて。


『瑞希、いつも、一緒にいてくれてありがとう。

不器用な優しさが、本当はとてもとても嬉しかったなんて、知らなかったでしょう?


あなたがいたから、私は前に進めた。

瑞希がいてくれてよかった。


瑞希に会えてよかった。

誰よりもそう思ってる。


…会いたいよ。

でも、もう会えないんだね。


いつか私がそこに行くまで、待っていてください。

私は瑞希のこと、絶対に忘れない』















    あなたが、一番好きでした。


さみしすぎる妄想にお付き合いいただき、ありがとうございました!

私ならもっと後悔してる自信あります!

(自慢にならない…)

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