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サンタクロースの恋人  作者: いつき
番外編
16/17

10月の仕返し

 急仕上げで一つ

 トントンと窓を叩かれたので、カーテンを開いて窓を叩いた主を見た。思った通り、というか予想通りわたしの窓を叩く人は彼しかいなかった。

 ……しかし質問してもいいだろうか。

「どうしてサンタクロースの衣装で来ているのかな、ニコ」

 目の前にいるのは、もう一年以上の付き合いになる彼。

 去年の今頃は来なかったのに、どうして今年は来たんだろう。しかもサンタクロースの格好で。

 ……何というのか。今年はいつもにもまして完璧に近いサンタクロースの格好だね、と心の中でつぶやく。まず結構サイズがきちんと直されている。おなかに詰め物もあるし、ひげだってある。髪も白く染められていて、ほぼ完璧なサンタクロースさんだ。

 ただまぁ、ひげの下に隠れている顔はいつも通りごく普通にイケメンさんだし、その青い瞳はこれまで見てきたように穏やかな色を宿している。手足は細くて長く、ずんぐりとしている印象のサンタクロースとは違っていた。

 それでも、初めて会った時よりはずっとましだよ、うん。

「えー、おじいちゃんに聞いたんだけど」

「言っておくけど、今、日本は10月31日の夜で、世間一般ではハロウィンと呼ばれる行事をしていて、サンタクロースが出る幕ありません」

 一昨年去年と繰り返した失敗をする前に、わたしは彼に正しいハロウィンの知識を語った。

 とはいっても、ハロウィンはもともと日本のものではないし、その点彼のほうがよほど詳しいような気もする。日本のハロウィンは行事色が強いものだろうし。いや、バレンタインデーほどではないと思うけど。

「……えーっと」

「おじい様にまたからかわれたんだよ、ニコ」

 ぽん、と慰めるように彼の肩を叩いて部屋へと招き入れた。彼はむーと可愛らしく口を尖らせて眉を寄せた。

 成人した男性がその表情をするのはかなりいただけないと普段なら思うのだろうけど、惚れた弱みか不思議と違和感がなかった。彼の顔のせいだろうか。イケメンさんは得でいいね。

「日本でもそんなに変わらないと思うよ。仮装してお菓子をもらうの。でも外国みたいな意味はないかも?」

「そっか」

 サンタクロースの格好が仮装に入らないのかと問われれば迷うところではある。

 が、しかし、普通にサンタクロースの仮装をすることはないだろうなぁ。ニコが目に見えてしょんぼりと肩を落とすので、毎回のことながらわたしは罪悪感に苛まれた。

 しかし彼がほかのところで恥をかかぬようにあらかじめ忠告しておくことはとても大切だと思うの。だってわたしにはいいかもしれないけど、どこか公の場でこういうこと言うととても……恥ずかしいでしょ。

「えっと、ニコ。お菓子食べる? クッキーあるよ?」

 本来なら彼が来る日じゃないから(とはいえ、去年のクリスマス以降、結構な頻度で来てるけど)、彼用のお菓子を特別に用意しているわけじゃない。市販のクッキーだ。友人たちに配る用の。

「手作り?!」

「あー、残念。市販のやつだよ。ちょっと忙しくてね」

 大学の課題が重なっていたし、そもそもそんなに女の子らしいことはしないのだ、残念だけど。だからハロウィンくらいだったら市販のもので済ませてしまう。

 ……ニコが来るって知ってたら少し無理をして作ってたかもしれないけど。そんなことを考えつつ、机の上に置いてあった袋からクッキーを数枚出して彼に手渡した。彼はそれでも嬉しそうにそのクッキーを受け取り、口へと運ぶ。ひげが邪魔らしく、丁寧に口元から外した。

 美味しそうに食べる彼を見るのは結構好きだった。器用なサンタさんが、自分の作ったものを美味しそうに口へ運ぶのを見るのは楽しいのだ。

「去年は来なかったのにねぇ」

 彼を見つめながら、何でもないように呟く。もし去年来ていてくれたら、わたしだって今年は用意してたかもしれないのに。まぁ、言っても仕方のないことなんだろうけど。彼には彼の事情があるんだろうし。

「なっ」

 しかしその言葉を聞いた瞬間、ニコは顔を真っ赤にしてこちらを凝視した。

 ん?? わたしなんか可笑しなこと言った? え、別に普通だよね。ふつう、のはず。なのにどうして彼が顔を赤くしてこちらを見るのかわからなくて、こちらも首をかしげて彼を見つめた。

 彼の顔がより一層赤くなる。え? どうして??

「コ、ココココトハの」

 そんなに動揺するようなことが彼の中であったのか。しかしその原因が見つからずに再び彼の瞳を見つめる。白い肌のせいでより一層映える赤が鮮やかだ。瞳の青はその涼しげな色にかかわらず、どこか熱を帯びているようにも感じる。

「コトハのばかぁぁぁぁー」

 赤い顔したままのニコがそんなことを呟いて両手で顔を覆った。どこからどう見たって女の子がするような行動だろう。

 ……いえ、彼は本当に可愛いから、成人男性がやってしまうと駄目なことでもできてしまうのかもしれないけど。

「ニコ?」

「コトハは覚えてないかもしれないけどね、去年はそれどころじゃなかったの」

 去年、は確か10月に来てくれたのはワインデーだったはず。そのワインデーで何かあっただろうか。思い返してみても酔ってからの記憶が飛んでいるのだからどうしようもない。

 どうしようもないが……うっすらとした記憶を頼りに考えてみると、どうやら彼が真っ赤になる理由があるらしい。いったい何があった。

「ニコー?」

「とりっくおあとりーと」

「いや、日本人じゃないんだからもっと発音よく言おうよ」

 つたない言葉でごまかされた気がしてすかさずつっこむが、彼はこちらを向いてくれることもなくてむっとする。

「クッキーあげました」

「足らない」

「足らないって」

 わたしはそれより質問に答えてほしいんだけどなぁ、と考えながら彼の隣に座り、両手で顔を覆ったままの彼を覗き込んだ。まだ耳まで真っ赤。赤い衣装によくお似合いですよ、と声をかけてやろうかとも思う。

「クッキーもうないよ」

「じゃぁ、他のもらうからいいよ」

 去年コトハが僕にしたイタズラ、今年は仕返すからね。

 それだけ言って、彼は顔から手を外した。その顔はまだ赤かったけど、さっきまでは大分ましになっている。

 それを見ていると突然手を引かれて抱き寄せられた。ん、と疑問符を口に乗せようとした瞬間、頭を抱え込まれて固定された。びっくりしすぎてすべての行動が中止される。いい加減この癖も直したいな。

 彼に掴まれた手がわずかに震えたが、彼はそれを握りこんで無理やりに口づけてきた。

 抵抗しようともがく手は押さえつけられ、気づけば座っている位置は逆転し、壁際に追い詰められていた。トン、と軽く背に衝撃が走ったがこちらは正直それを気にする余裕などなかった。

 ただ頭の中で『仕返し』の言葉だけが繰り返し響いていた。

 仕返し? これが?? わたしがやったことってなんなの?

 仕返しというからには、去年の10月、わたしは確実にニコに何かをしたことになる。……まさか、こんなことを? いや、まさかだ。

 さすがに酔ったからといってこんな襲うようなまね……。

「仕返しの意味、分かった?」

 はっと軽く息をつき、彼はわたしの唇を解放した。わたしは言葉にもならない空気たちを唇から吐き出し、ぱくぱくと口を開閉した。ついでに酸素を求めて肩を上下させる。

 ニコはもう落ち着いたらしい。今度はきっとわたしのほうが真っ赤に違いない。そんなことを思いながら、彼の少し濡れた唇を見る。でも思い出せない。わたし、何をしたんだろう?

「イタズラして、満足した……?」

 息も切れ切れにそういうと、彼は少し首を傾げて『全然』と笑う。さっきまでの可愛い彼はどこへ行ってしまったんだ。

「コトハが去年僕を襲ったように、僕もたまには理性のタガを外してみようかなぁーなんてね」

 本当に外したらこんなものじゃないからね、と続けられてめまいがした。

 どうやらわたしは本当に去年彼を襲ってしまったらしい。何ということだろう。去年の今ぐらいは本当にそれどころじゃなくて立て込んでたけど、それにしたってどうして今更。

「ニコのばかぁぁぁー」

 今度はわたしが彼を罵る番だった。同じように両手で顔を隠して俯き、ばくばくいう心臓をなだめるのに必死になる。

 絶対襲ってないね、かけてもいい。こんなになってしまうわたしが、彼を襲うなんて大胆なことたとえお酒の力を借りたってできっこない、そうだ、そうに決まってる……きっとそうだ。

「じゃぁ、コトハもする?」

「え?」

 何を? とつい顔から頭を上げると彼はにっこりと笑った。

「何って」

 決まってるでしょ?

「イタズラ」

 そう言うと彼は指先でわたしの唇を一度軽く撫でた。それが意味することを瞬時に理解し、物分かりがよくなるのも考え物だと思いながら再び顔が熱くなるのを感じる。

「僕、今日お菓子持ってないから、お好きなだけどーぞ?」

 そう言った彼の顔がえらく楽しそうで、わたしは悔しく思いつつ手を握りしめた。いっそここで反撃できたらどれだけいいだろうと思う。

 しかしお酒の力がない私にはそんなことができるはずもなく、結局はまた手に顔をうずめるだけになった。去年の自分の行動をこんなに後悔するなんて。

「まっ、またお酒の力入れてイタズラしてやる」

「んー、あんまり可愛いと本当に理性切れるから止めてね」

 そう返した彼の顔を、指の間から覗いてみる。彼の頬がほんの少しだけ赤くなっていることに気が付いて、ようやく少し落ち着いた。来年こそは、彼を少し動揺させられたらいいな、なんて考えながら。



 お酒の力を借りてイタズラする=今日彼が望んだこと、だと気付いたのは彼が帰ってからだった。そしてとんでもないことを宣言したのだと頭を抱えたのはさらにもう少し先の話。

 バカップルに幸あれ!

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