1-1 愛してやればよかったのか?
第三章スタートです。
昔、学園の卒業パーティーで「私がお前を愛することはない!」と、婚約破棄を叫んだ。
あれが、王太子アーチボルトの不幸の始まりだった。
婚約者のコーデリア・ダンブリッジは、陰気で頭だけは良く、可愛げがなかった。
泣いてすがるかと思えば、平然としていて。
嫌みったらしく、そのあとに着替えて綺麗になって再登場した。
最愛のロクサナを王太子妃にしようとしたが、計画は台無しにされた。
そのうえ母上に公開説教されて、面目丸つぶれだ。
ロクサナにプレゼントしたものを横領だと言われて、彼女からも「一度くれたものを取り上げるなんてひどい」と文句を言われた。
なぜか、属国のイスカリーヌ国が独立したと言われる。
私から婚約破棄をしたら、そうなるように婚約誓約書に書いてあっただと?
知らない、そんなことは。
側近を辞めさせたアルベリック……あのときは何も言わなかったが、恨んでいたのか。
そして、父上が犯罪者だと糾弾されている。立派な国王として、君臨している父が?!
なにがなにやら、わけがわからない!
……コーデリアとよりを戻し、無かったことにすればよいのでは?
そう思いついた私はコーデリアの部屋を訪ねたが、拒絶された。
私に逆らうなと思い知らせてやろうと思ったら、後ろから殴られて、妙な魔術を体に刻まれてしまった。
アルベリック・ダンブリッジめ。
その後、地下牢でも……屈辱を味わわされた。
私が側近として大切にしていた者たちも、散り散りにさせられた。
領地に押し込められたり、学園を中退して行方不明になったり……救えたのは、騎士団長の息子だけ。騎士団に入団できないから、私の護衛として近衛騎士に取り立ててやった。
華々しく、輝かしい未来が待っていると思ったのに、私は寂しいぞ。
イスカリーヌ国との関係は、父上がめちゃくちゃにしたので、母上がその尻拭いに奔走していた。
私もかり出されるかとヒヤヒヤしたが、上手く回避できて良かった。
その代わりに、勉強をやり直せと言われる。
まあ、話し合いの場に赴いて、父親のしたことを責められるのも理不尽だと思うので、良しとした。
しかし、なかなか公の場に出してもらえない。
不用意な発言をしかねないから、知識を詰め込んでからだと言われた。……そういうのはコーデリアが担当することだと思っていたのに。
婚約破棄したのは失敗だった。
ロクサナが王太子妃になれないのなら、婚約破棄する必要はなかったじゃないか。
ロクサナは勉強を途中で諦めたらしい。気楽でいいな。
子どもは産まれたが、母上が教育すると言って連れていった。
はぁ、狩りに行きたい。
マルザヴァ語が身につくまでお預けって……ロクサナ、コーデリアみたいにお前が勉強して、私を助けろ。
ダンブリッジ家が王都を引き払って、領地に籠もりきりだそうだ。
今まで王都に展開していた病院や孤児院への支援も切り上げて。嫌味だなぁ。
平民たちは、王家にそれを代わりにやれと言って騒いでいるらしい。
いち貴族が好きでやっていたことを、国がやる必要がどこにある。
そんな責任などないわ。
気まぐれで平民の人気取りをやられると、ほんと迷惑なんだよな。
コーデリアがジークムント皇子と結婚したらしい。
留学に来ていたのは知っているが、影の薄いヤツだったじゃないか。
コーデリアの裏切り者め。私の方がいい男だろうが。
たまに会議に出ろと指示されて、内容がわからず居眠りをして怒られて、しばらく勉強させられる。その繰り返し。
半人前だと言われているようで、気分が悪い。
ときどき、監禁されている父上やロクサナでストレス解消をした。
それくらいしか役に立たないんだから、仕方ない。
あの、手入れが行き届いていない森のジメッとした空気が、苛立ちを募らせる。
王家の狩猟小屋なら、下草もちゃんと手入れされてからっとしているのに。
王太子妃がいれば一人前として扱われるんじゃないか?
そう思っても、気に入った娘はすぐに他の男と結婚してしまう。
未婚の令嬢は私の前に出すな、という噂話が出回っていると耳にした。
まさか。出来の悪い冗談だな。
また、ぼんやりと芋くさい女が来た。貧乏な伯爵家。
援助と引き換えに結婚を承知したそうだ。
まあ、よい。この辺りで手を打たないと、いつまで経っても偉業を成し遂げる機会が得られない。
そう考えて、了承してやったのに。
母上は王太子妃ばかりを連れ回す。
コーデリアの時と同じように、俺を押さえるための要員か。ふざけている。
俺だって、その気になればできるんだぞ。
俺は悪くない。秘めた可能性を理解しようとしない、周りが無能なのだ。
一度、母上に泉の精霊の儀式を見学させられた。
大叔母に、精霊魔法を身につけて鍵を開けられるようになれと言われた。
父上の襲いかかる青黒い霧。
奇妙な踊りを続ける母上。
ええ~、気持ち悪い。不気味の一言。
大の大人、三人がかりで、何をやっているのやら。
絶対に引き継がないぞ。こんな馬鹿らしいこと。
少し離れてみていた私にも、青黒い霧が少し飛んできた。
霧が肌について、色が変色して、しばらく皮膚がぶよぶよしていた。
あんなのを全身に浴びるのは、罪滅ぼしでやっているんだろう?
父上だけがやっていればいいんだ。
母上は国王代理として頑張っているけれど、経済成長は鈍くなっている。後退しているかもしれない。
貴族の爵位返上があったり、市場が品薄になったりしているようだ。
そんな中で、なぜイスカリーヌ国の建物を王城内に建てるのだ。
建設費はこちら持ちで。
「隷属の首輪」とやらをとっとと外して、姫を追い出してやれば良いのに。
父上が考え無しにしたことが、後を引いている。
魔道士たちは頼りにならないなぁ。困ったもんだ。
私が国王になったら、ばーんと解決してみせるのに。
何かすごいことをひらめいて、国民の喝采を浴びるのだ。
わははは。その日が待ち遠しいな。
母上が亡くなった。
私が国王かと思ったら、父上が生きているから私も国王代理にすべきかと議論をしている。
馬鹿どもが。
迷うことなどないだろう。
私を国王にして、王太子妃を国王代理にすればいい――とんでもないことを言い出す奴が出た。
待て待て。何を言い出す。
ようやく私の時代になったというのに。
急いで王太子妃と離婚をした。
これで、私を脅かすものはいなくなった。
え、イスカリーヌの姫の息子は、私の異母弟だと?
いや、理屈の上ではそうだが、王族とは呼べないだろう。いや、いや、いや。
そいつを大公にするというから、それくらいは許してやろう。
はあ、驚いたぞ。
ロクサナを正妃かぁ。
頼りないけど、仕方ない。他に当てもないし。
……子どもも、他の女性とは作れないし。
アルベリックめ、私にかけた呪いを解きに来い。
内密に王命を下そうと思っていたら、私と離婚した女と結婚した。
アルベリック、そうまでして、私に復讐したいのか。
私の側近をクビになり出世街道から外れ、妹を私の妃にし損ねて。王都にいられずに領地に籠もる……哀れな男よ。
では、私は華々しく魔導機関車を国中に走らせ、王国の黄金期を作ってやるとするか。
指をくわえて見ているがいい。
「すべてアルベリックのせい」にされています。復讐の片想い(苦笑)




